畑を抜けて陽だまり亭も通り過ぎて、花を積むための荷車を取りにミリィの店に立ち寄った後、中央広場から延びる細い山道を抜けて四十区へ。
ミリィをアリクイ兄弟のところへ預け、アリクイ兄弟に「手伝え」と命令し、「HEY、HEY! それが人に物を頼む態度かYO!」「だが気に入った! 手伝うYO!」と、快諾をもらい、俺は次なる目的地へと向かった。
「よう! 呼び出して悪いな、デミリー」
「オオバ君……領主を呼び出すって、君、これ、世が世なら戦争だよ?」
「気にするな。抜けるぞ」
「抜けるもんなんか、もうないよ!?」
大通りで四十区の領主デミリーと待ち合わせ、その足で木こりギルドの本部へと向かう。イメルダの父、スチュアート・ハビエルに用があるのだ。
「スチュアートのところに行くなら、先に言っておいてくれれば、中で待ち合わせも出来たのに」
「こっちに手紙を出すと、イメルダに感付かれる危険があったんだよ。だから今日はアポなしなんだ」
「……木こりギルドのギルド長にアポなしで会おうなんて……世が世なら……」
「世が世じゃねぇから戦争にはならないだろ」
「だが、多忙のスチュアートにアポなしで会えると思っているのかい?」
「そのためのお前じゃねぇか」
「……領主も安く使われたもんだね……まぁ、いいでしょう」
いつもは馬車移動のデミリーを、とぼとぼと歩かせる。
街中を歩くことが少ないせいか、デミリーはきょろきょろと辺りを眺め回して、少々落ち着きがない。
なんだか楽しそうだ。
「オオバ君、あとで一緒にケーキを食べに行かないかい?」
「デートかっ!?」
なんでツルッパのオッサンと二人でケーキ食わなきゃなんねぇんだよ。
お前は、あの忌まわしき激辛チキンでも食べて毛根に多大なダメージでも与えていろ。
ほどなくしてたどり着いた木こりギルド本部にて、デミリーの顔が絶大なる効果を発揮して俺は即座にハビエルに会うことが出来た。
よかった。今回のパーティーに関して、俺はこいつに言わなければいけないことがあったのだ。
「ハビエル、話がある」
「いや、それはいいんだが……ヤシロよぉ。いくらハゲてても、仮にも領主なんだぞ? そんなアゴで使うような真似すんなよなぁ」
「スチュアート。悪意を感じるよ、スチュアート。ねぇ、スチュアート。こっちを向こうよスチュアート」
デミリーがやかましい上に眩しいので軽やかに無視をする。
今日通されたのは、いつものだだっ広い執務室ではなく、書斎のような部屋だった。
どうも、ハビエルの私室らしく、壁には家族の肖像画なんかが飾られている。……金持ちか!? …………いや、金持ちなんだけどな。
そんな、金持ちヒゲ筋肉に、俺は単刀直入に用件を伝える。
「今度パーティーやるから、お前、四十二区まで一発芸をしに来い」
「ワシも大ギルドのギルド長なんだわ。アゴで使うんじゃねぇよ」
「お前の娘のせいなんだぞ……」
俺はハビエルに、イメルダからの要請について、包み隠さず話して聞かせる。
「かくかくしかじかのぱいぱいぷるぷる……というわけなんだ」
「オオバ君、なんか説明の仕方おかしくないかな?」
四十区の太陽こと、デミリーが何か言っているが、軽やかに無視だ。
「そうか、イメルダがそんな無茶を……」
「ねぇ、スチュアート。私の疑問はスルーなのかな? いや、まぁ別にいいんだけどね」
「分かった、ワシも男だ。可愛い娘のために一肌脱ごう」
どんと胸を叩き、ハビエルは快諾の言葉を口にする。
「アンブローズと二人で、何か芸をやってやる!」
「アゴで使われてるー! 今さっき自分で言ったことなのに、ここのギルド長が領主である私をアゴで使おうとしているよ!? あれれ、おかしーなー、おかしーねー!?」
ハビエルが駄々をこねるデミリーを説得し、サプライズその二の仕込みが終わった。
誰かにハビエルのモノマネでもさせて、「まさかのご本人様登場!?」でもやってみようかな。
木こりギルドの本部を出て、俺は四十二区へ戻る。
と、その前に。砂糖工場がある方向へ向かって、大きな声で叫んでおこう。
「あと四日後、チアガールズが再結成して、可愛い衣装で出し物するの、楽しみだなぁー!」
っと、たぶんこれで、今回のパーティーで砂糖が使い放題になったはずだ。
ハビエルが用意してくれた馬車に揺られ、俺は四十二区へと引き返す。
こうして着々と準備は進んでいき、あっという間に時間は過ぎていく。
光陰矢の如しとはよく言ったもので、気が付けば、パーティーは翌日にまで迫っていた。
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