「盛大な結婚式を開催してやろうと思う」
「結婚式……と、いうと、貴族の方がされるようなもの、ですか?」
ジネットの反応を見るに、プロポーズ同様、結婚式というのは貴族のみが行うもののようだ。
一般人の結婚がどのようなものなのか、現状の確認が必要だ。
以前ジネットにも聞いたのだが、もう少し具体的に知りたい。
「なぁ、エステラ。この街の結婚ってのは、どうやっているんだ?」
「え? それは、書類を領主に提出して、精霊神様に誓いを立てるんだけど……」
「二人きりでか?」
「司祭やシスターが立ち会うよ」
「家族は?」
「……なんで家族が立ち会うのさ?」
エステラのこの反応。
やはり、この世界では結婚とは本人同士のもの以上の意味合いは薄そうだ。
成人すれば一人前。家を出るのが当然なのだ。
爵位を持たない一般人は、お家断絶に危機感を持たないのだろう。
「俺の故郷では、結婚する二人は神前で結婚の誓いを立てるんだが、その場には家族や仲間がいるんだよ。なかなかに神聖で美しいものだぞ。これから夫婦になろうとする二人は、穢れのない純白の衣装に身を包み……特に新婦のウェディングドレスは綺麗で、女性の憧れの的だった」
「純白のドレス……ですか?」
ジネットの大きな瞳がキラキラと輝いている。いい食いつきだな。
「想像すると……すごく…………綺麗ですね」
うっとりとした表情で、ジネットは「ほふぅ……」とため息を漏らす。
マグダも耳をぴくぴくと揺らしているあたり、なんだかいい感じの想像でもしているのだろう。
「あたしは赤の方が好きです。赤がいいです」
「なに、ロレッタ。お前、三倍の速度で動くつもりなの?」
「え? よく分かんないです……っ!?」
「赤い彗星なの?」
「違うですけど!?」
ウェディングドレスは白でいいんだよ。
「でも、緊張しそうだね。家族や仲間の前で宣誓なんて」
微かに頬を染め、エステラが照れ笑いを浮かべる。
「ただでさえ、会話記録に記録されるのにさ」
「え……会話記録?」
そうか。
こっちの結婚って、誓いの言葉とかを会話記録に記録されるんだよな。
「ってことは……もし、不貞行為とかしたら……」
「即、カエルだね」
怖っ!?
結婚、怖っ!?
何より、今のエステラの笑顔がすげぇ怖い!
「ねぇ、ヤシロ。今君が口にした『不貞行為』ってさぁ…………例えば?」
「怖い怖い怖い! その笑顔でこっち見んな! 近付くな! 例え話だから!」
「貴族は一夫多妻出来る~とか、いまだにそんな考えを持っている男が、ボクは大っ嫌いなんだよね」
「そうだよね! 愛って、一途だから美しいみたいなところあるもんね! だから、ちょっと離れてくれるかな!? その笑顔超怖いからっ!」
夢に見そうな完璧なスマイルが、頬にめり込みそうな勢いで接近してくるこの恐怖……こいつ、これを必殺技にすれば中央区だろうが簡単に落とせるんじゃないのか?
とりあえず分かったことは……この街で浮気をすれば血を見ることになりそうだってことだな。…………まぁ、浮気も何も、俺には関係のない話だけどな。特定の相手もいないし。
「それで、お兄ちゃん! お兄ちゃんの故郷の結婚式って、具体的に何をするです?」
「……マグダも、少し詳しく聞きたい」
少女二人が結婚式に興味を示し、わくてかした表情をこちらに向けてくる。
こいつらでも、結婚ってもんに憧れたりするんだな。
こいつらの夢を壊さないような、最高の結婚式が出来るように頑張らなきゃな。
「まず、ご祝儀つって、集まった仲間たちが結構なお祝い金を包んでくれるんだ」
「いきなり金の話かい!?」
バカ、エステラ!
ご祝儀が一番の目的だろうが!
五万くらい包んでもらって、新郎新婦の記念テレカでも引き出物としてくれてやる。差額でウハウハするためにも式の費用も抑えて……考えることはいくらでもある!
結婚式は足が出るなんて言うが、俺ならそこからでも利益を出してみせるさっ!
「あの……なんでか知らないですけど……お兄ちゃんの悪巧み顔を見てたら、なんだか一気に興味が削がれたです」
「何言ってんだよ!? ここが腕の見せ所だろ!?」
料理を手料理にすれば、グッと安くなるんじゃ……っと、今はまだそこまで考えなくていい。
「大勢の仲間に祝福される、そんな結婚式を二人にプレゼントしてやりたいんだ」
「素敵です! わたしも、協力します!」
「……マグダも、やぶさかではない」
「はいはいっ! あたしも協力するです!」
陽だまり亭は満場一致で結婚式に賛成だ。
こいつらが頑張るとすれば、披露宴の方かもしれんがな。
「で、結婚式を定着させて、教会のそばの陽だまり亭に客を呼び込もうって魂胆なわけだね」
「エステラ……そういういやらしいことを言うんじゃねぇよ」
図星だから、反応に困るだろうが。
「ここ最近、セロンのそばでいろいろ見てきたわけだが……この街の結婚ってのは味気なさ過ぎる。一生に一度の大イベントだぞ? 人生の岐路だ。もっと盛大に(……稼げるところではしっかり稼いで)、思い出に残るものにしたいと思うだろ?」
「今、一瞬……物凄く下世話な表情をしたよね?」
だから鋭いんだよ、エステラ。見落とせよ、そういうとこは!
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