「微妙だったな……」
こちらの思惑がぴたりとハマり、玉入れは白組の圧勝……と、なるかと思ったのだが。
「……ヤシロが話をしている間にポイントを稼がれていた」
「あと、子供たちが……頑張ってはいたですけど……なかなか残念な結果だったです」
俺たちの妨害は成功した。
が、それ以前に青組と黄組の連中はそこそこの玉をカゴに入れていた。
そして、白組のガキどもは全力で頑張っていたのだが……結果が伴っていなかった。
結果、優勝は赤組の四十二個。次いで白組の四十個。青組の三十九個。黄組の三十七個。
トップと最下位の差が五個という、なんとも微妙な結果になってしまった。
しかもこの競技、企画段階では「二十分もあれば二百個くらい入っちゃうんじゃないのかい?」みたいな空気だったから、つうかエステラがそんなことを言っていたから、玉一個につき1ポイントということになっていたのだ。
これだけ頑張って40ポイント。…………地味だ。
赤白VS青黄の撃ち落とし合戦は大いに盛り上がったというのに……なんて地味な結果なんだ。
結局、最初の徒競走の点差が地味に響いて、白組は逆転することは出来なかった。
現在最下位。
「でも、点差は随分と縮まりましたよね」
得点ボードを見て、ジネットがにこやかに言う。
現在、青組が770点、黄組が718点、白組が550点、赤組が616点となっている。
最初254点もあった青組との差が、現在220点差。
……うん。微妙。
「午後はもっと気合いを入れないと、逆転は難しいかもな」
「え。午前の部はまだ一つ残ってますよ?」
ジネットの言うとおり、午前の競技はあと一つ残っている。
残っているが……あれは点数を競うための競技じゃない。
「ジネット。その午前最後の競技はなんだ?」
「みなさんが楽しみにされている『パン食い競走』です」
そうだ。パン食い競走だ。
パン食い競走はな……揺れるお乳を堪能するための競技なんだよ!
順位とかどーでもいいのだ!
出来るだけ長く、盛大に、縦に横に時には斜めに、存分に揺らしてくれればいいのだ!
むしろゴールとかしなくてもいいくらいだ!
……が、それを公言するとジネットをはじめ他の女子たちがおっぱいガードを強めてしまうから…………
「パン食い競走は、パンのお披露目会みたいなものだからな。競うより楽しむ方の比重を大きくしたいんだよ」
「そうですね」
言った直後、ジネットがくすくすと笑い出す。
「きっとみなさん、あまりにも美味しくて走ることを忘れちゃいますね」
そんなことを嬉しそうに口にする。
新しいパンの味を知っているジネットは少し得意な気分なのだろう。
こいつは、自分がネタを知っているサプライズが大好きなんだよな。
本当に無邪気なわくわく顔をさらしている。
「でも残念です」
と、込み上げる笑みを抑えきれないような緩んだ顔でジネットが言う。
「焼きたてのあの素晴らしい香りをお伝えできなくて」
パンの香りには誰もが感動していたからな。
味や食感はもちろんのこと、あの香りも楽しんでほしかったと、そんなことを言いたいのだろう。
とはいえ、さすがにグラウンドで焼くわけにはいかない。
「今日お披露目するパンは、早ければ明日からでもパン職人ギルドが練習を始めるんだ」
俺たちのレシピは無事受理されて、新しいパンの製造が決定された。
ベルティーナの頑張りにより、貴族用と一般用をあえて区別して製造されることも決まった。
パン職人ギルドが一斉に練習を開始し、教会の認可が下り次第販売されることになる。
「パン屋に行けば、これからは好きなだけあの香りを嗅げるんだ。それからでも遅くないだろう」
「そうですね。……うふふ。観光名所になったらどうしましょう?」
焼きたてパンの香りを嗅ぐツアーか? 誰が行くんだよ、そんなしょーもない旅行。
「デートの待ち合わせとかどうでしょうか? 待っている時間も幸せな気分になれますよ」
「会うや否や飯に直行だな」
待っている間中ずっとパンの香りを嗅がされたんじゃ、腹が減って仕方ないだろう。
ジネット自身も、あの香りをまた嗅ぎたいと思っているのか、楽しげに話しながら小鼻がぴくぴくと膨らんでいる。
そして、俺から視線を逸らして何もない空間を見つめ、肩を揺らす。
何を想像してんだかな。すげぇ楽しそうなのは伝わってくるんだが。
「『もう。つまみ食いしちゃったんですか?』『いやぁ、すまん。あまりにいい香りだったからよぉ』……くすくす」
どうやら、脳内でデートの待ち合わせをしているらしい。
人形もないのに人形遊びのようなことをしている。夢見がちなジネットらしいといえばらしいが。
なにやってんだかな。
「ヤシロさん、おなかすいてますか?」
「ん? まぁ、多少はな。けど、次の競技が終わったら弁当だ。それまでは待てるよ」
不意に投げかけられたジネットからの問いに、なんのことはなく普通に返したのだが。
「……へ?」
「ん……?」
ジネットがまんまるお目々で俺をガン見している。
静止画のようにジッと動かず、じぃ~っと俺を見つめ、じわ~っと顔が赤く染まっていく。
「はぅっ!? あ、いえ、その! 今のはヤシロさんに言ったわけではなくて、あの………………そ、そうですね! お弁当、楽しみにしておいてくださいね!」
言い捨てて、ぱたぱたとジネットなりの全速力で俺のもとを去っていった。
……あいつ、まさか。脳内の俺に問いかけたんじゃないだろうな?
ジネットの脳内設定の、パン屋の前で待ち合わせして、いい香りに我慢できずにつまみ食いした俺に。
「パンなんか食べて、この後ご飯食べられますか?」と。
ってことはなにか?
ジネットの脳内デートの相手は俺だったわけか?
はっはっはっ、まったくジネットよ………………頼むから、そんな剛速球のド天然をみぞおちにぶち込んでくるようなマネやめてくれる?
本人目の前にして脳内の俺に話しかけちゃうとか……天然も度が過ぎると凶器になるからな。……ったく。
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