異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

111話 狩猟ギルドの事情 -1-

公開日時: 2021年1月17日(日) 20:01
文字数:2,140

「どういうことか、説明してくれるかい?」

 

 ウッセに詰め寄るエステラ。右手はナイフの柄にかけられ、今にも抜き放ちそうだ。

 もちろん脅しのためではない。ウッセたちが力に物を言わせようとした時のための保険だ。

 

「ま、待ってくれ! こっちにもいろいろ事情があるんだよ!」

 

 しかし、ウッセたちの反応は弱腰だった。

 てっきり、条件が合わないとか、何か見返りを寄越せとか、そういう展開になるのかと思ったのだが……

 

「まさか、調査に行って魔獣のスワームに恐れをなしたのかい?」

「ふざけんな! 俺たちはプロだぜ!? どんな強力な魔獣だろうが毅然と立ち向かっていく、男の中の男しかいねぇよ!」

 

 ……いや、ボナコンにビビって狩れないんだろ、お前ら?

 まぁ、総力戦なら狩れるのかもしれんが。

 

 現在、街門建設予定の四十二区なのだが、外壁の向こうに広がる森に魔獣のスワーム――一体のメスに複数の強力なオスが群がり形成された魔獣の集団――が存在しているため外壁の取り壊し作業がストップされているのだ。

 そんなおっかない魔獣の群れが街になだれ込んできたら、四十二区は一瞬で壊滅しちまうからな。

 

 そんなわけで、その魔獣のスワームを狩猟ギルドに排除してもらおうと討伐を依頼し、一度は引き受けてもらったはずなのだが……

 

「それじゃあ、何があったって言うんだい? スワームの討伐にはあんなに乗り気だったじゃないか」

「いや……まぁ、…………そうなんだがよぉ……」

 

 これでは埒が明きそうにない。

 

 俺は腕をまっすぐに伸ばしウッセを指さす。

 

「ま、待ってくれ! 嘘を吐いたわけじゃねぇんだ!」

「なら問題ないだろう。一度裁きを受けてみるといい」

「待てって! いいから話を聞いてくれ!」

 

 取り乱して執務机の陰に身を隠すウッセ。

 その肩を掴んで引き上げるエステラ。ウッセを椅子に座らせる。

 

「なら、話してくれるんだね?」

「そ…………それは、その…………」

「なんなのさ、もう!?」

 

 ウッセは、イマイチ俺たちに友好的ではないのだが……だからといって街への貢献を渋るような男ではない。誇りを大切にし、時には無謀な狩りにも臆することなく挑む。

 マグダがその腕を認めているほどの男なのだ。少々性格に難があるとはいえ、嫌いなヤツを困らせるために街の利益を損なわせるような、そこまでの小物だとは思えない。

 

「ボクたちが気に入らないから反発しているのかい?」

「違う! まぁ、確かに……あいつのことは心底大っ嫌いだが」

 

 と、俺を指さして言うウッセ。……こいつ、カエルにしてやろうか?

 

「けど、四十二区が盛り上がっていってる今の状態は、俺たちだって快く思っている! なんだかんだで長く住んだ街だ、愛着もある! そこに、俺ら狩猟ギルドが利用しやすい街門が出来るとなりゃあ、協力を惜しむ理由がねぇよ!」

「じゃあなぜ?」

「…………」

 

 街への貢献を拒否するつもりはないらしいが、手伝うわけにはいかないという。

 そして、その原因は口に出来ない……

 

「……エロいことか?」

「おい、誰か! あのアホ男を摘まみ出してくれ! 真面目な話が出来やしねぇ!」

 

 なんだとこの野郎? カエルにすんぞ?

 

「ウッセ…………いい歳してエロいことばかり考えるのはよしたまえ」

「お前も、あの男に毒され過ぎだぞ!?」

「失敬な! 誰がヤシロ感染者だっていうんだい!?」

「おいおい、一番失敬なのはお前だよ、エステラ」

 

 しかしながら、まぁいろいろと解せないよな。

 こいつが口を割らない限り話は進まんが、話が進まないまま放置するわけにはいかない。

 なにせ、魔獣のスワームを排除しない限り街門の工事は再開できないのだ。

 

 ……このままでは、「おい、ウーマロ。お前今ヒマだろ? ちょっと手伝えよ」って、ウーマロにいろんな仕事を押しつけてしまいかねない……ラグジュアリーの特設キッチンみたいに……

 

「何か言いにくいことがあるのは分かった。だが、だからといって『そうか仕方ないな。つか、ウッセ汗臭ぇ』って大人しく帰れないことは分かるよな?」

「余計なセリフ挟むんじゃねぇよ! …………ちょっと心配になってきたじゃねぇか!」

 

 腕を持ち上げ肩の付け根辺りをくんくんし始めるウッセ。

 この執務室を警護するように張りついている狩猟ギルドの連中もつられてくんくんし始める。

 

「お前の汗の臭いなんか、今はどうでもいいんだ!」

「お前が言い始めたことだろうがっ!?」

 

 ウッセが執務机をバンと叩いて立ち上がる。

 ちょうど前のめりになりやがったので、近付いてきた顔の前に人差し指を突きつけてやる。

 

「これから俺がする質問に答えろ」

「……は?」

「答えられないことはスルーすればいい。まぁ、なんだ。答えやすい質問にしてやるから『イエス』か『ノー』か『いやん、エッチ』のどれかで答えろ」

「お前は真性のバカなのか?」

「なんだい、ウッセ。今頃気が付いたのかい?」

 

 ん? 気付いたら一対二になってないか、この構図? こいつらは敵か?

 まぁいい。ウッセがさっきまで顔面いっぱいに張りつけていた、「絶対に何もしゃべらねえぞ」という頑なな雰囲気が薄れている。バカやって大声を出せば口も軽くなるさ。

 責め立てて重い空気にしちまえば相手は口を開かなくなるが、逆にすれば相手の反応も真逆になる。

 

 これで、ウッセは俺の質問に答えやすくなるだろう。

 さて、それじゃあ、問一と行くか。

 

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