異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

214話 『宴』に向けて -1-

公開日時: 2021年3月21日(日) 20:01
文字数:3,250

 さすがというかなんというか、ジネットはすぐにコツを掴み、エビチリを自分のものにしてしまった。

 もっとも、本人はまだまだ納得いっていないようだが。

 それでも、味はすでに俺の作るエビチリよりも美味い。

 こいつ、チート持ちなんじゃないのか?

 

 マグダとロレッタも、俺からではなくジネットから教わりたそうにしている。

 そっちの方が美味しく出来ると思っているのだろう。

 

 俺がジネットに作り方をレクチャーしてから数時間が経ち、何度か練習した結果、店で出しても問題ないレベルのエビチリが完成していた。

 

 そして、その試作品を食っていたのは、こいつらだった。

 

「リカルドさん。このエビ、何肉だと思うです?」

「テメェ、バカにしてんのか、普通っ娘!? エビだよエビ! エビ肉!」

「……ウーマロ、美味しい?」

「マグダたんを見ながら食べればなんだって美味しいッス!」

「シスターはどうですか?」

「もりもりもり……はぁ、美味しいもり~」

 

 ベルティーナ、語尾がおかしくなってんぞ。

 

「はぁ~☆ やっぱりエビは美味しいよねぇ~☆」

「エビフライとかお好み焼きで食べるのもいいけど、これもなかなかやるよね」

「まぁ、鮭には劣るけどな!」

 

 ……やばい。

 誰一人参考に出来ない。

 

 リカルドはバカ舌だし、ウーマロはマグダならなんでもいいし、ベルティーナは食い物ならなんでもいいし、マーシャは海の物ならなんでもいいし、エステラは基本的にジネットの作る物を全肯定だし、デリアは結局鮭だし…………もう少しまともなヤツはいないのか、四十二区には。

 

「セロンにでも食わせるか」

「『英雄様にいただいた物はなんでも美味しいです!』――ってなるんじゃない?」

 

 くっ、エステラの冗談が冗談じゃなくそうなりそうでイヤだ。

 

「そういうのだったら、イメルダとかどうかな? 一応お嬢様なんだし」

「いや、あいつも結構バカ舌だぞ?」

 

 B級グルメでも大喜びで掻っ食らうようなヤツだからな。

 祭りの時のはしゃぎようといったら……

 

「そういう意味では、きちんと味の判定が出来るのはジネットちゃんくらいなんだね」

「表現力が乏しくて、常人には理解できない言語での評論になるけどな」

 

 基本「わっしょいわっしょい」だ。

 

「……食レポなら、マグダにお任せ」

「あっ。あたしも得意です!」

 

 んばっ! と挙手をして名乗りを上げるマグダとロレッタ。

『食レポ』に該当する異世界の言葉が非常に気になるな。レポーターとかいるのか、この世界?

 

『強制翻訳魔法』のお遊びは置いといて、マグダとロレッタが食レポ……どうだろうか?

 マグダは、味に関しては偏った趣味嗜好はないし、――苦いのは苦手だが――客観的な意見を言えるヤツでもある。

 四十区の高級ケーキ屋(ぷっ)ラグジュアリーのかつてのケーキを、先入観を持たず『美味くない』と言い切ったヤツだ。

 ウェイトレスとしてのプライドみたいなものも持っているようだし、ジネットが作ったからと贔屓めな意見を言ったりはしないだろう。

 

 片やロレッタは、天性の食レポとでも言うべき語彙力と滞らない饒舌さを持ち合わせたヤツだ。

 パウラのとこの魔獣のソーセージの食レポは、通りすがりのオッサンどもの胃袋を鷲掴みにした優れものだ。

 

 こいつらなら、公平なジャッジをしてくれるかもしれない。

 

「「うん、おいしい」です!」

 

 ……ダメだ。

 華も味気もない感想だ。

 

 そうだよな。

 こいつら、普段から「美味しい美味しい」ってジネットの料理食ってるもんな。

 

「結局、ジネットちゃんの作る料理は美味しいんだよ」

 

 エビをもりもり食べつつ、エステラが得意げに語る。

 結局は、料理長の舌が頼りってわけか。

 

「ジネット。自分で食ってみてどうだ?」

「はい。手前味噌で恐縮ですが、そこそこ美味しく出来たと思います」

 

 そこそこ、ね。

 もう少しこだわって自己流にアレンジしたいという意思の表れだろう。

 

 

 ……で、だ。

 

 

「『宴』に関してなんだがな」

 

 マーゥルの働きかけもあるから、ドニスは参加するものとして話を進める。

 参加してもらわなければ意味がないからな。

 

「宴で出す料理を決めなければいけない」

「麻婆茄子ではないんですか?」

 

 当然、麻婆茄子はメニューに入れる。

 一品だけ浮かないように、エビチリを混ぜてもいい。

 

 だが、『宴』は二十四区の「教会の庭」で行われる。

 つまり、外だ。

 

 外で麻婆茄子というのも、なかなかミスマッチだ。

 麻婆茄子はあくまで、「二十四区の新しい調味料の宣伝」目的に作るだけだ。

『宴』を盛り上げる料理は、『宴』に相応しい料理にしなければいけない。

 

 外でやる『宴』といえば……

 

「お花見をイメージしたプランニングをしようと思う」

 

 咲き誇る桜を眺め、飲めや歌えや揺らせや挟めや、日本の四季を彩る代表的などんちゃん騒ぎ。盛り上がらないわけがない。

 で、そんな場で麻婆茄子は……やっぱり浮くだろう。

 

「お花を、見るんですか?」

「いや、あくまでイメージなんだが……まぁ、綺麗な花を飾って愛でるのもありかもしれんな」

「では、ミリィさんにお願いしてみましょう。きっと、『宴』を彩る素敵なお花を教えてくださいますよ」

 

 なるほど。

 ミリィに花を用意してもらうのはありかもしれない。

 

 ……フィルマンに渡してやれば、リベカに………………手渡す勇気があるかな、あのヘタレに。

 

「じゃあ、後日ミリィの店に行ってみよう」

「はい。お供します」

 

 とんとんと、ジネットとミリィの店へ行くことが決まった。

 飾りにも気を遣いたいよなぁ、やっぱ。

 意識の改革は、ワンランク上の感動によって初めてなされると言っても過言ではないからな。

 

「じゃあよぉ」

 

 口の周りをチリソースで真っ赤に染めて、リカルドがこれ見よがしな顔で発言する。

 

「また花火でも打ち上げたらどうだ? あいつは派手だし、きっと参加者連中は度肝を抜かれるぜ」

「その花火がきっかけで『BU』に目を付けられたのに、他所の区で節操なく打ち上げたりしたら反感を買って状況が悪化するに決まっているだろう? ろくな意見が言えないならエビと間違えて茄子でも食べてなよ」

「よくもまぁ、ノーブレスでつらつらと暴言が吐けたな、エステラ!? お前らのために考えてやってんだろうが!」

「『下手の考え休むに似たり』だよ」

「……ぐぬぬ」

 

 完全に言い負かされるリカルド。

 エステラも、最初からこれくらい強気で行ければ、外門設置の時だってもっとスムーズに交渉が進んだだろうに。

 

 エステラ自身も、領主代行として下手なりにあれやこれやと悩みに悩んで悪手を連発してしまったと自覚しているのだろう。

『下手の考え休むに似たり』は、エステラ自身が痛感した自戒の念なのかもしれないな。

 

「リカルドも覚えておいた方がいいぞ。結構ためになる言葉だからな」

「ふん! お前に言われたくねぇよ、オオバ」

「せーの!」

「「「「覚えろよ」」」」

「うるせぇぞ、陽だまり亭ウェイトレスと海漁川漁!」

 

 俺に言われたくないというから気を遣ってやったというのに。

 

「……で?」

「べ?」

「……そ?」

「はうっ! あたしの分も残しておいてほしかったです!」

「遊ぶな、オオバと虎の娘! そして悔しがるな普通っ娘!」

 

 カリカリとしやがって。

 何がそんなに気に入らないのやら。

 

「覚えてやるから、さっきの言葉をもう一回言ってみろっつってんだよ!」

「リカルド……『お願いします』は?」

「教えろ、オオバ!」

 

 貴族ってやーねー、横暴で。

 慣用句とかいろいろ覚えて、教養を身に付けるといい。リカルドにはそういうのが必要なのだろう。

 しゃーねーなぁ……ったく。俺もつくづくお人好しだ。

 教えてやるよ。

 

「『ぺったんの横乳あばらに似たり』だ」

「『下手の考え休むに似たり』だよ!」

「え、なんだ? 『下手に横乳』? なんだって?」

「リカルド、覚える気ないだろう、君も!?」

 

 リカルドが「バカ舌」に次いで、「単なるバカ」を露呈したところで、本題へと話を戻す。

 ったく、こいつらといると遅々として話が進まねぇ。

 

「この遅々ヤロウどもめ」

「乳ヤロウは君だよ、ヤシロ」

 

 冷めた目で睨んでくるエステラはさくっと無視して、折角大勢集まっているので、こいつらの意見を聞いてみようと思う。

 

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