「店長さん、見てです! あたしのお花、可愛いです!」
ヤシロさんに小さな花束をもらい、ロレッタさんが嬉しそうにみんなに見せて回っています。
「ロレッタさんのように、明るいお花ばかりですね」
「はいです! なんだかこれ、あたしの花束って感じで好きです!」
ロレッタさんは全力の笑顔を見せて、今度はマグダさんのところへ向かいました。
二人で花束の見せ合いっこをしています。……ふふ。嬉しそうですね。
本当に、ヤシロさんは――
「人を笑顔にする達人ですね」
いただいた花束を胸に抱き、すぅっと息を吸い込めば、お花のいい香りが胸いっぱいに広がります。
きっとわたしも今、笑顔になっているのでしょうね。
☆☆ミリィ☆☆
てんとうむしさんが、みりぃに花束をくれた。
みりぃ、花束をもらうのはこれが初めて。
ふふっ、嬉しい、な。
男の人から花束、もらっちゃった。
それも、てんとうむしさんから。
嬉しいなぁ、嬉しいなぁ。
「ミリィさん。準備が出来ましたよ」
「はぁい」
じねっとさんたちが、陽だまり亭のテーブルを一つにつなげて大きな作業スペースを作ってくれた。
そこで、みりぃはドライフラワーの作り方をみんなに教えるの。
……ちょっと、緊張するけど。
でも、こうやってお花を身近に感じてもらえれば、きっとお花を買ってくれる人が増えるって、てんとうむしさんが言ってた。
みりぃも、そうなったら嬉しいなって思うから、頑張る。緊張、するけど。
「ぇっと……ぁの、ね、まずは、とっても大事なことなんだけど、どんなポプリにしたいか、お花をじっくり見つめて、考えてみて、ください」
完成形を想像するのはとっても大切。
イメージが鮮明なほど、それに近付けるために、どうしたらいいかなぁ、こうしてみようかなぁってイメージがぶわって湧いてくるから。
「自分のお花を、ょく、見て、ね」
みんなが、もらった花束をじっくりと眺める。
顔を近付けたり、逆に遠ざけたり、胸に抱いたり、テーブルに置いたりして、思い思いにお花と向き合ってる。
みりぃも、自分の花束と向かい合う。
てんとうむしさんがくれたのは、大きな花弁のお花が目を引くバランスのいい花束。
ささっと選んでいたみたいだけど、センスあると思う。
小さなお花が大きいお花に寄り添うように集まっててとっても可愛い。
もしかして、お花に囲まれているみりぃをイメージしてくれたのかな? 違うかな?
みりぃには、そんな風に感じられるんだけどな。
「……ふふ。だったらぃいのに、な」
花束をもらうって、なんだかくすぐったいけど、すごく嬉しい。
何を思ってこのお花を選んでくれたのかなって想像すると、きっと一日中だって楽しい気持ちで過ごせちゃう。
こんな風に、特別じゃなくお花を贈り合えるようになったら、それって絶対すごい。
みりぃはそうなってくれたらいいなって、思うょ。
力いっぱい花弁を広げているこのお花みたいに、みりぃも大きく花咲かせられるように、緊張に負けないで頑張ってみる。
折角、こんなにたくさんの嬉しいと楽しいを運んできてくれる人に出会えたんだもん。
みりぃだって、そんな人になりたいと、思うもん。
「それじゃあ、イメージが出来たら、お花を一本一本並べていってください!」
だからみりぃは頑張って、元気いっぱいに大きな声を出してみた。
☆☆マグダ☆☆
「……花束を、ばらすの?」
「ぅん。ドライフラワーにするには、その方がぃいんだ、ょ」
小さい声ながらも、懸命に言葉を届けようとしているのが分かるしゃべり方で、小さなミリィが説明をしてくれる。
……可愛い。
いや、……萌え。
「……マグダのベッドには、ちょうど一人分空きがある」
「ぇ? ぇっと、どういう、こと?」
ヤシロのベッドと同じサイズのマグダのベッドは、一人で眠るにはちょっと広過ぎると、常々思っていたところ。
ミリィなら、そんなベッドにちょうどいい。
「……いつでもウェルカム」
「ぅ、ぅん……今度、ね?」
ミリィは照れ屋。
そこがまた、よし。
「……可愛い娘」
「ぁの、まぐだちゃん……みりぃの方が、年上、だから、ね?」
そうしてお姉さんぶるところも、萌える。
「ほれ、遊んでないでちゃんと教えてもらえ」
ポンっと、マグダの頭に大きな手が置かれ、髪に挿した白い花が揺れる。
濃密な甘い香りを放つ白い花。名前は知らないけれど、マグダはこの花が好き。
今日、好きになった。
ヤシロは心にくいことをする。
花を頭に挿すなんて、そんなこと、したことがなかった。
外の森では、たまに花を見かける。
けれど、マグダはそれを眺めるだけだった。
摘み取ってしまったら、花が独りぼっちになって、やがて萎れてしまうから。
咲いていた場所から連れ去ってしまうのは、なんだか家族を引き裂くような気がして申し訳なかったから。
「……けれど、…………ふむ」
マグダの髪の毛に挿された花は、今もこうして綺麗に咲いている。
どこに行こうとも、花の美しさは変わらない。
住む場所が変わろうとも、ちゃんと見てくれる人がいる。
今のマグダになら、それが分かる。
ヤシロにもらった花束を見る。
小ぶりな花がたくさん集まった、賑やかな花束。
ドライフラワーにするためには、これを一本一本にばらけさせなければいけないという。
少し、もったいないような気がした。
少しだけ、寂しい気がした。
でも。
「……完成形を、イメージする」
このお花は今、変わろうとしている。
今のまま、変わらずに短い生涯を終えるのも一つの選択肢かもしれない。
けれど、現状を打破して新しい自分に生まれ変わることもまた、有益な選択肢の一つ。
マグダは教えてあげたい。
生まれ変わることの素晴らしさを。
新しい場所で、新しい自分になれることの幸せを。
「……大丈夫、怖くない」
寄り添っていた花たちをばらけさせ、一本ずつテーブルに並べていく。
一本になった花は細く、弱く、頼りなく見える。
けれど――
「……少しの間離れても、またちゃんと一緒になれる」
迎えてくれる人がいるって、頼もしい。
「……頑張って、綺麗になろうね」
心細そうにテーブルに並ぶ一輪の花たちに、マグダは声をかける。
きっと想像以上に素晴らしくなるであろう完成図を思い描きながら。
未来は明るいという確信を持って。
☆☆エステラ☆☆
胸に抱いた花はかぐわしい香りをさせて、遠慮がちに揺れる。
白と青。落ち着いた色合いの花束は、穢れを知らぬ乙女を連想させる。静かで、落ち着いた、清楚な印象。
まさか、これはボクをイメージしたの?
……はは、まさかね。
ボクはこの赤い髪のように快活で力強い印象のはずだし、こんな静かなイメージはジネットちゃんやシスターみたいな大人しい女性の方が似合うって分かってるし……でも、じゃあなんでヤシロはこんな色の花をボクに?
ちらりと視線を向けると、ヤシロはミリィと話をしていた。
ポプリに使うオイルは何があるんだとか、ちょっと専門的な話をしている。
……なんで生花ギルドのミリィと、当たり前のように専門的な話が出来るんだい? 何者なのさ、君は。
「……今さらだよね、そんなの」
ヤシロが何者であろうと、只者でないことは確かだ。
その知識量には驚かされっぱなしだ。
そして、その発想力にも。
「花を贈り合うイベント、か……」
それが実現したら、どんなに素晴らしいだろう。
日頃の感謝を込めて花を贈り合う。
そして、そこに密かな好意を忍ばせる。
……女子かい、君は? ……ふふっ。
女子が喜びそうなことをよく分かっている。たいしたものだと称賛を送りたい気分だよ。
「まったく。よくもまぁ次から次へと考えつくものだね」
こんな面白そうなことをさ。
「嬉しそうな顔でモンク言ってんじゃねぇよ」
突然、近くでヤシロの声がして、驚いて振り返る。
意地の悪い笑みを浮かべたヤシロがすぐそこに立っていた。
さっきまでミリィと話していたと思ったのに、いつの間に?
「何か用なんじゃないのか?」
「へ?」
「さっき見てただろ、俺のこと」
気付いていたのかい?
なんて目敏い。
「なんでもないよ」
そう言いながら、抗いがたい好奇心がむくむくと頭をもたげる。
聞いてみたい。
聞けば、がっかりするかもしれないのに。
「適当だよ」と、言われるのが目に見えているのに――
「どうして、この花を選んだのかなって思ってさ」
束になった花を見せる。
清楚で、可憐な、美しい花。
ボクのイメージとは、真逆な……
「お前をイメージしたら、自然とな」
「……へ?」
ボクをイメージ、したの?
「い、いや、でもほら、ボクって割と快活なイメージじゃないかな? って、自分で言うのもアレだけど」
「外向きはな」
外向きって……
イメージって、大抵外から見えるもので決まるものじゃないか。
「具体的に聞かれると説明に困るんだよなぁ、本当になんとなくだから」
ヤシロの目には、ボクはこういう印象で映っているのかい?
こんな、清楚で大人しい、可憐な印象で?
「ただエステラに似合いそうな気がしたんだよ。好みに合わなければ申し訳ないけどな」
「ううん」
好みのど真ん中だよ。
「こういう花、大好き」
自然と言葉が出ていた。
溢れてきて、止まることなく声になっていた。
領主の子として、領主代行としてずっと生きてきたボクを、ただの女の子として見てくれる人がいる。
それがヤシロっていうんだから、それはすごいことだ。
もしかしたら、領主という外聞を脱ぎ捨てたボクは、こういう清楚で大人しい女性なのかもしれない。
逆に教えられた気分だよ。
まったく、にくいことを……
「残念なお知らせだよ、ヤシロ」
「ん?」
今の発言で君は、君自身の首を絞める結果になったんだ。
「本番の花束、すっごく期待してるから。よろしくね」
もらえるだけでも嬉しいと思っていた。
けれど、ヤシロならきっと、極上の幸福感をくれるに違いない。
まったく、困ったものだよ。
君といると、ボクはどんどん贅沢になってしまいそうだ。
甘んじて責任を取り給え。……ふふ。
「……ハードル上げんじゃねぇよ」
嫌そうな顔でそう漏らすヤシロの顔が、不思議かな、可愛らしく見えた。
☆☆ロレッタ☆☆
むふふふ。
可愛いです。
あたしの花束、可愛いです。
薄桃色の花に囲まれて、黄色いお花がよく映える素敵な花束です。
……初めて、もらっちゃったです。花束っ。
あぁ、こんな感じなんですねぇ。
話にだけは聞いていたです。
貴族の世界では、意中の女性をお誘いする際に色とりどりの美しい花束を贈るって。
花束を贈られた女性は、その美しい花束の魅力を一心に受け止め、一層美しくなれるって。
あたし、今、いつもより可愛いですかね?
こんなに可愛い花束をもらったわけですから、きっといつもより可愛いはずです!
はっ!?
そうです!
せっかくいつもより可愛くなっているのなら、その最強の可愛さを見てもらわなければもったいないです!
他ならぬ、お兄ちゃんにいつもより可愛いあたしを見てもらうです!
「お兄ちゃん!」
花束を持って、その魅力が十二分に引き出せるように胸に抱いて、お兄ちゃんの前に立つです。
大きく息を吸ったら、花束から得も言われぬいい香りがして……あはぁ……意識せずとも自然と笑顔になれちゃうです。
「えへへ~」
「どうしたロレッタ? 顔の筋肉がストライキ起こしてるぞ」
「えっ、どういうことです!?」
「全筋肉が緩みきってるな」
「そこまで緩んでないですよ!?」
これは緩んでるのではなく、柔らかい笑みを浮かべているです!
店長さんと同じ系統の、温かい微笑みです!
そう抗議しようと息を吸い込んだら、またいい香りがして――
「えへへ~」
「マタタビでも混ざってたか?」
むぅ!
あたしネコじゃないです!
まったくもう、むぅむぅ!
怒っちゃうですよ!
「いつまでにやにやしてんだよ」
おでこをぺしりと叩かれたです。
あたし、にやにやしてなんて……
「えへへ~」
してたです!?
めっちゃにやにやして、にやにやが止まらないです!
だって、だって……
「だって、初めて花束もらったですよ。そりゃするですよ、にやにやくらい」
お兄ちゃんがくれたです。
それも、ちゃんとくれたです。
「えらいな」って頭ぽんぽんまでしてくれたです。
そんなの、嬉しいに決まってるです。
「もらったことなかったのか」
「ないですよぉ。誰がくれるんですか、あたしになんて」
スラムのハムスター人族に、そんなものをくれる変わり者はいなかったです。
今でこそ、お兄ちゃんやみんなのおかげで楽しく暮らせるようになったですけど、昔はそんなこと、とてもじゃないですけど……
「んじゃあ、さっさと慣れとけよ。今後いっぱいもらうかもしれないからよ」
「そんな、あたしなんか――」
「なにせお前は、陽だまり亭の名物元気娘なんだからな」
ぞくっと、体が震えたです。
武者震いです。
言われて、今気付いたです。
知っていたはずなのに、今の今まで気付けていなかったです。
あたし、もう『スラムのハムスター人族』じゃなくて、『陽だまり亭のロレッタ』になってたです。
お兄ちゃんと、店長さんと、マグダっちょと、それからいつも仲良くしてくれるお客さんたちとお友達と……みんながあたしを、あたしたちを受け入れてくれたです。
『あたしなんか』なんて言うのは、その人たちみんなに失礼です。
もう一度花束を見るです。
薄い桃色の花の真ん中で、鮮やかな黄色い花が誇らしげに花弁を広げているです。
一番いい香りがしているのも、この黄色い花です。
まるで、温かい世界に迎え入れられて幸せいっぱいに笑っている、あたしみたいに見えたです。
「お兄……ちゃん」
「なんで今度は泣きそうなんだよ……」
「な、泣かないです!」
こんなにも嬉しいことがあった日は、一日中笑っているのがいいです。
「お兄ちゃん、お花、ありがとです!」
「分かったから、ミリィ先生のとこに行ってドライフラワーの作り方聞いてこい」
「はいです! 一番可愛いドライフラワーにするです!」
ひらひらと手を動かして言うお兄ちゃんに、もう一回笑顔を向けて、あたしはドライフラワー作りに臨むです。
見る人みんなが元気になるような、陽だまり亭の名物元気娘に相応しい逸品を作り上げてみせるです!
ただちょっと気になるです。
さっきの笑顔、お花のパワーでちゃんと可愛さ倍増していたですかね?
可愛いって、思ってもらえてると、いいですけどね。
☆☆ジネット☆☆
「茎のね、濡れてるところは、ぇっと、ちゃんと切り落とさないと、乾燥に時間がかかって、その分お花の色が悪くなっちゃうの、ね。だから、よく見て、ね?」
人前で話すのが苦手だとおっしゃっていたミリィさんが、今日は頑張ってみなさんの前でお話をされています。
すごいです。ミリィさん。とっても頑張ってますね。
知らない人が怖くて、お客さんがいる時間には陽だまり亭へは来られなかったミリィさんですが、これからはいつでも遊びに来てくれそうです。
ヤシロさん、すごいです。
「どうしたジネット? 手が止まってるぞ」
頑張るミリィさんを見守っていると、ヤシロさんに肩を叩かれました。
ちょっとびっくりして、肩が跳ねました。
「まさか、お花がもったいないとか言わないだろうな?」
「いいえ。これがどんなポプリになるのか、わくわくしているくらいです」
確かに、生花のまましばらく飾っておきたいという気持ちもありますが……
「お花をいただいたという記憶と、みなさんとこうして一緒に楽しく過ごした時間は、私の中で永遠に消えることはありませんから」
思い出は、いつまでも色褪せることはありません。
何年経っても、何十年経っても、お婆さんになった後でも、わたしはきっと、今日のこの時間を鮮明に思い出すでしょう。
「それに、これからはもっと気軽にお花をいただけるようになるんですよね、ヤシロさん?」
ヤシロさんがそういう風土を作るとおっしゃっていたのですから、きっとそのようになるのでしょう。
そうなれば素敵だなと、わたしも思いますし、是非そうなってほしいです。
「……それは、『もっと頻繁に花を寄こせ』という催促か?」
そのように聞こえてしまったのでしょうか?
……いえ、きっとヤシロさんには正確に伝わっていたはずです。
それをあえて曲解して口にされたということは……ふふ、これはいつものお遊びですね。
では、わたしもそのお遊びに便乗しましょう。
「くださるんですか?」
「ぅ……まぁ、機会があれば、な」
にっこりと笑って催促すれば、分かりやすく顔をしかめてそんなことをおっしゃいます。
ふふ、こんな催促はあさましい行為だと思っていましたけれど、ヤシロさんはそんなわがままも言わせてくださいます。
叶っても叶わなくてもいいんです。
わがままを言ってもいいと、そんな空気がくすぐったくて楽しいんです。
「もし、素敵なポプリが出来たら、お店に飾っても構いませんか?」
「なんで俺に聞くんだよ?」
だって、もしそのポプリを見た人が「これ素敵ですね? どうされたんですか?」なんて尋ねてきたら、「ヤシロさんにいただいたお花で作ったんですよ」とお答えするでしょうから。
だから、念のために確認を、と思いまして。
「好きにすればいいだろう」
はい。好きにします。
うふふ。
「言質はいただきましたよ」
「何をそんな嬉しそうに……」
だって、ねぇ? ふふふ。
ヤシロさんのマネをしているようで、なんだか楽しいんです。
「根付くといいですね」
「ん?」
「お花。もらえると、やっぱり嬉しいですから」
「ぅ…………そ、そっか」
「はい」
そっぽを向いてしまったヤシロさんの横顔に、返事をします。
感謝の気持ちは、それだけで嬉しいものですが、やっぱりこうして形になってくれると格別の思いがあります。
ふふ、現金ですね、わたし。
……うふふ。
「すげぇな、花って。全員、ずっと笑いっぱなしだ」
確かに、みなさんお花を見て嬉しそうに笑っていますけど。
でもそれって、お花をもらったということよりも――
「お花を贈ろうという、その心が嬉しかったんだと思いますよ。みなさんも」
もちろん、わたしも。
この気持ちが街中に広がれば、この街はもっと素敵に変わると思います。
街中の人が、今ここにいるみなさんと同じように、幸せな気持ちで笑っていられるなんて、素敵じゃないですか。
だから、その素晴らしさを少しでも多くの方に伝えられるように。
「ポプリ、頑張ります」
「まぁ、ほどほどにな」
「はい」
頑張って作って、陽だまり亭に飾って、ヤシロさんにいただいたんだと、たくさん触れ回ります。
自慢しちゃいます。……ふふ。
「ヤシロさんも一緒に作りませんか?」
「とはいっても、手元に残ってるのはこいつだけだからな」
そう言って、カミツキツツジを指で突っつきます。
ガジガジと、ヤシロさんの指に噛み付こうとするカミツキツツジ。なんだかちょっと楽しそうです。
「いいじゃないですか。綺麗なポプリになるかもしれませんよ?」
「えぇ~……」
眉間に深いしわを刻んで、カミツキツツジとにらめっこした後。
「やっぱやめとくわ」
そうおっしゃいました。
残念です。
それから、わたしたちはたくさん笑いながらポプリ作りを教わり、最初の工程であるドライフラワー作りに励みました。
その間、ヤシロさんは壁際に立って、カミツキツツジを指で突っつきながら、私たちの作業をずっと見守っていてくださいました。
それは、とても楽しい時間で、わたしは一生忘れないだろうと思いました。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!