異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

213話 協力者たち -3-

公開日時: 2021年3月21日(日) 20:01
文字数:2,511

「店長さん、私もそれ食べてみた~い☆ お魚と間違えるような感じで作って~☆」

「いえ、そういう料理ではありませんので……」

 

 別の食べ物と錯覚させるための料理ではないので、当然魚っぽい麻婆茄子などは作れない。

 まぁ、似た材料で作るとしたら……

 

「エビチリとかなら作れるかもなぁ……」

 

 無意識に零れ落ちた自分の言葉を、俺は一瞬で後悔した。

 

「なんですか、それは!?」

「なんだかとっても美味しそうな料理だね☆」

「ヤシロ、君はそれが作れるのかい!?」

「……マグダがマスターするべき料理の予感」

「はいはい! あたしも食べてみたいです!」

 

 物凄い勢いで女子たちが食いついてきてしまった。

 特にジネットの勢いが凄まじい。……お前、まだ麻婆茄子を改良して楽しんでる段階だろうに……

 

「あぁ……いや…………まぁ、なんだ。あはは」

 

 とりあえず誤魔化そう。

 ここでエビチリなんかを伝授したら……陽だまり亭が中華料理屋になっちまう。

 

「そんな大した料理じゃねぇよ」

「『精霊の……』」

「わぁ、バカ、待て、エステラ! 嘘ウソ! 超美味い料理だから! 認めるから指を向こうに向けろ!」

 

 やばい……変なところで弱みを握られてしまった。俺としたことが……

 

「じゃあ、教えてくれるかい? 何を隠そう、ボクはエビが結構好きなんだ」

「私はだぁ~い好き☆」

「ヤシロさん! わたし、そのお料理がどんなものなのか、知りたいです!」

「私も興味があります!」

「やっぱり出てきたか、食いしん坊シスター!?」

 

 食い物の話で盛り上がってしまったので、絶対出てくると思っていたが……案の定、ベルティーナが群れの中に混ざっていた。

 現在陽だまり亭では『宴』のための料理を考案中なので、きっとずっと監視でもしてるんだろうな…………シスターの仕事しろよ、ちゃんと。

 

「あ~……じゃあ、まぁ、教えるが…………さっきのエビチリに関して、今後俺に『精霊の審判』を使わないと宣言しろ」

「する!」

「します!」

「するする~☆」

「あたいもするぞ!」

「……是非もない」

「う~ん、どうしよっかなぁ~です」

「じゃあ、ロレッタだけ食うな」

「冗談です! ちょっとした可愛いお茶目です! あたしがお兄ちゃんに『精霊の審判』をかけるわけないです!」

 

 とりあえず、これでエビチリの件はチャラか……

 

「お前もな、茄子肉」

「まずテメェが態度を改めたらな!」

「……そぼろが入っているから間違っても仕方ないかもなー(棒)」

「嫌々言わされてる感満載だな、オイ!? まぁ、お前をカエルにする理由はねぇよ」

「じゃあ一応、あとはベル……」

「エビチリです!」

 

 ……まぁ、これは了承と取っておこう。

 

「はぁ……じゃあ、作るかエビチリ」

「「「わ~い!」」」

 

 大喜びしているのは、料理大好きジネットと、エビが大好きマーシャと、お食事大好きベルティーナだ。

 ……エステラめ。こういうところでばっかり悪知恵をつけやがって……ったく。

 

「陽だまり亭が中華料理屋になったら、お前のせいだからな」

「ちゅーか? なんだい、それは?」

 

 こっちの人間には分からんか、そこら辺の違いは。

 総じて、俺の故郷の料理ってカテゴリーなのかもな。

 

「マーシャ、エビはあるか? 芝エビか車エビあたりがいいんだが。ブラックタイガーでもいいぞ」

「わぁ、すごい! ヤシロ君、そんなエビまで知ってるのぉ!?」

 

『強制翻訳魔法』が勝手に翻訳してくれるから、俺が知ってるエビを言えばそれっぽいエビの名としてマーシャに伝わるわけだ。

 改めて、日本って恵まれた環境だったんだな。世界中の食材がお手軽に手に入るんだもんな。こっちじゃ考えられないことだ。

 

「少し時間をくれれば用意できるけど……今は車エビしかないんだよねぇ」

「上等だ」

 

 車エビのエビチリなんて最高じゃねぇか。

 高級な中華料理屋で出てくるヤツだぞ、それは。大体は芝エビとかかな。歯応えが弱いが、大衆的でそれなりに美味い。

 だが、車エビは別格だ。

 歯応えと濃厚なエビの旨みが………………いかん、よだれが。

 

「頭を潰しながらソースで煮込むといい出汁が出るんだよなぁ……」

「やりましょう、是非!」

「やってください、是非!」

 

 ジネットとベルティーナが、さすが母娘と言いたくなるようなそっくりな表情で瞳をきらきら輝かせている。……言ってる言葉は若干異なるが。

 

「エビチリということは、タコスに使うチリソースを使用するんですか?」

「まぁ、チリソースには違いないんだが、豆板醤を使うぞ」

「すごいです、豆板醤。どんどん新しい料理が生み出されていきますね!」

 

 生み出してない生み出してない。

 俺の知らない誰かが四千年の歴史の中で生み出したもんを勝手にアレンジしたもんだよ、俺が作れるのは。

 基本的に、女将さんアレンジだからな。

 

「それじゃあ、作るからジネットと……お前らも見るか?」

「……無論」

「見学して技術を盗むです!」

「んじゃあ、接客は……デリア、頼む」

「おう! 責任感のあるあたいに任せとけ!」

 

 あ、まだ有効なんだ、『責任感』。

 たしかアレは、タコスの移動販売かなんかの時にデリアを乗せるために言った褒め言葉だったが……ずっと覚えてたんだな、そんな些細な一言を。

 

「あたいももう、ウェイトレス歴が長いからな! 一人でも十分客を回せるぞ!」

 

 随分大きく出たな。

 まぁ、自信がついて落ち着いて仕事が出来るようになったってのは事実だが。

 

「こんにちわッスー! お昼を食べに来たッス……って、なんだか盛り上がってるッスね」

「おぅ! よく来たなぁ! なんかな、今からヤシロと店長がエビチリってのを作るらしいんだ。だからお前は鮭を食え!」

「エビチリ食べさせてほしいッス、どうせなら!?」

 

 タイミングよく(悪くか?)店にやって来たウーマロ。

 お前のおかげでよく分かったよ。……デリアはまだまだ一人前じゃない。

 

「けどまぁ、ウーマロとリカルド程度ならデリアで十分か。あとは頼んだぞ」

「誰が『程度』だ、コラ!?」

「来て早々罵られる意味が分からないッス!」

 

 ぎゃーぎゃー騒がしいアホ二人を無視して、俺たちは厨房へと入る。

 ホント……中華尽くしだな。厨房が中華の匂いだ。

 

 今度は、手延べそうめんで煮麺でも作ってみるかな。

 ゆずの香りがほのかに漂う上品なだし汁でいただく和の料理……そういうのも必要だよな。

 

 

 

 

 

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