異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

後日譚11 甘い蜜は恋の味? ……けっ! -4-

公開日時: 2021年3月3日(水) 20:01
文字数:2,324

「ねぇ、ヤシロ! もう一回作れるかい?」

「そうだな……この花に入っている蜜の量に個体差はあるのか?」

「えっと……調べたことはありませんが、おそらくはないと思います。だいたい四つで花のコップ一杯分ですから」

「差異がない……なら、作れるかもしれないな。今エステラたちが持ってる花と同じものを摘んでシェイクすれば……」

「さっきと同じものが出来るってわけだね!? よし、みんな! 手分けして探そう!」

 

 意気揚々と、エステラが花探しを始める。

 ジネットにセロンとウェンディも活き活きとした表情で花を覗き込む。

 そんな中、レジーナだけが渋い顔をしている。

 

「どうした?」

「いや、さっきのは確かに美味しかったんやけど……おかわりしたいかっちゅうと……」

「それほどでもないと?」

「う~ん……ウチにはちょっと甘過ぎるんやろうなぁ。ウチはもうちょっとビターっちゅうか、『キリッ!』とした味のヤツが好きやさかいに……」

「あ、それは確かにそうかも」

 

 もうすでに目当ての花を手に入れたらしいエステラがレジーナの意見に賛同する。

 

「最初の一口はともかく、もう一味……欲しいんだよね」

「なら、酸味を足してやるとキレが増すんじゃないか?」

「あぁ、酸味な! それはえぇかもしれんな。ウチ、果実酢好きやさかい」

「酸味かぁ……花園にそんなの………………」

 

「あるじゃねぇか!」

「あるじゃないか!」

「あるやないか!」

 

 俺たちは一斉に地面へと視線を向け、そして誰も手にしないが故に割と大量に固まって咲いている青い花を見つける。

 エステラが選んで大失敗した、激しく酸っぱい、あの花だ。

 

「ヤシロさん。お花集まりましたよ」

「さっきのヤツを作る前に、一つ試してみていいか?」

 

 ジネットたちが集めてくれた花の蜜に、青い花の蜜を混ぜてシェイクする。

 ……さて、吉と出るか凶と出るか…………

 

「よし……試してみるか」

 

 先ほどの惨劇が想起されて二の足を踏んでしまう。

 だが……ここは思い切って!

 

「………………んっ!?」

「美味しいっ!」

「これや、これ! ウチ、これが好きやわ!」

「全然雰囲気が変わりますね」

「……私、幸せです」

「英雄様の奇跡、再び……」

 

 青い花の蜜を混ぜたものは、先ほどの甘いドリンクとはガラッと変わって、キレのある口当たり爽やかな飲みやすいドリンクになった。

 単体で飲むととても飲めたものではないが、ブレンドすることで実にいいアクセントになっている。

 単純に、同じ分量を混ぜると酸っぱ過ぎるだろうと予想したのだが……嬉しい誤算で、実に飲みやすくなっていた。

 もしかしたら、ここの蜜は混ざり合うことで刺々しい酸っぱさや強烈な甘さを緩和してくれるのかもしれない。

 

「ウチ、こっちの方が好きやな」

「俺は、最初の方かな」

「あ、わたしもです。でも、こちらも美味しいと思いますよ」

「ボクも最初かなぁ」

「私はこちらの方が」

「僕も後の方が好きですね」

 

 ということは、俺たち年下三人は最初の甘い方が、年上三人はキレのある方が好きという結果になったわけだ。

 これは、二種類とも店に置けば全年齢をカバー出来るドリンクになるかもしれんな。

 

「なぁ。この花……ミリィに頼めば栽培できると思わねぇか?」

「え……。ミリィさん…………なら、きっと出来ますね。出来ると思います」

 

 俺もジネットの意見に賛成だ。

 もしこいつが特殊な花であったとしても、ミリィならきっとうまく栽培してくれる。

 この花が四十二区にも咲けば……このドリンクを陽だまり亭のメニューに出来る!

 

「よし! 二、三株引っこ抜いて持ち帰ろう!」

「ダメですよ、英雄様!? ここは領主様の管理区域。花の持ち出しは厳禁です!」

「大丈夫! いざとなれば四十二区の領主が全責任を負う!」

「ちょっ!? いくらなんでもそれは無茶だよ!? 本気で戦争にでもなったらどうするのさ!?」

「あのなぁ、エステラ! 戦争が怖くて領主が務まるか!」

「務まるけど!?」

「お前は、何をしにここまで来たんだ!?」

「ウェンディの両親に会うためだよ!」

 

 えぇい! 正論で返すな! 反論できないだろうが!

 

「もし、どうしてもというのでしたら……」

 

 ウェンディが、「あまりおすすめはしませんが」みたいな空気を醸し出しつつ、三十五区の外壁側へと視線を向ける。

 

「領主様にご相談されてみてはいかがでしょうか? 上手くすれば、少しくらいは分けてくださるかもしれませんよ」

「……領主、か」

 

 エステラが「怒らせるな」と恐れる怖い領主。

 

 会ってみるか?

 そして、この花を譲ってくれと……

 

「話してみる価値はあるかもしれないな」

 

 うまくいけば……目玉商品が増えるっ!

 イコール、また儲かるっ!

 

 ぐふっ……ぐふふふふっ!

 

「あ、あの、ヤシロさん」

 

 金の匂いに巻かれて上機嫌な俺に、ジネットが恐る恐るといった感じで声をかけてくる。

 なんだなんだ? お前も一緒に金の匂いに酔いしれたいのか?

 いいだろう。存分に酔いしれるといい!

 

「……ウェンディさんのご両親の件、忘れてません……よね?」

「………………」

「…………」

「…………領主という立場から見た虫人族との軋轢なんかの話も、きっと参考になるんじゃないかなぁ」

「なるほど。そこまで考えていたんですね。すみません、思い至りませんで」

「あっはっはっ。何を言ってるんだジネット」

 

 そんなことまで、考えてるわけないじゃないか、この俺が。

 ノリと勢いだよ。

 

「そんなことまで、考えてるわけないじゃないか、ヤシロが」

「ノリと勢いやな」

 

 お前らはエスパーか!?

 物凄く正確に俺の心を読んでんじゃねぇよ!

 

「とにかく、馬車を引き取るついでに、もう一回面会できないか頼んでみよう。えっと……あの、ほら…………チチベルトに」

「ギルベルタだよ!?」

 

 そうそう、そいつにな。

 

 

 ともあれ、俺たちは花園を出て、領主の館へ向かった。

 

 

 

 

 

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