「俺、プリンアラモード!」
「こっちにもプリンを!」
「プリンちゃんを一つ!」
「お前ら、ちゃんとご飯を食うッスよ!?」
俺たちと共に陽だまり亭へとやって来た……というか、押しかけてきた大工どもが、鼻の穴を広げてトレーシーをガン見している。
トレーシーなら昨日すでに見ているはずなのに、今日のこの食いつきよう……こいつら、どんだけおっぱい好きなんだよ。
「おっぱい至上主義か!」
「「「あんたがなっ!」」」
くぉっ!?
なんか言い返された……心外な!
お尻とか太ももの良さも俺はきちんと理解しているさっ!
「ロレッタの太ももはそこそこエロい!」
「ふにょっ!? なんですか、いきなり!? お兄ちゃん、また新たな病気を発症したですか!?」
お盆で太ももを隠し、ロレッタが怒ったような、ちょっと嬉しそうな顔で睨む。
褒めた部分を隠すんじゃねぇよ、もったいない。
「……ロリっ子こそ、正義」
「むっはぁぁあん! マグダたん、正論ッスー!」
……まぁ、向こうは放っておこう。いつものことだし。
「ったく、末期め」
「「「だから、あんたがなっ!」」」
なんだなんだ、反抗的だな!? まったく、これだから最近の若い大工は……っ。
「あ、あの……お待たせしまし……ぁうう……そんなに見ないでくださいぃぃ……」
プリンアラモードを運んできたプリンちゃんことトレーシーが、野獣どもの視線にさらされてテーブルにたどり着く直前で立ち尽くしている。
『さらし』の替えは持ってきていないそうで、『ボイン』は「ばいん」したままだ。
『さらし』がなくなったことでさらされたままになっているわけか……ややこしい。
「あ、ぁあ、ぁのっ! ど、どうして、服まで変えなきゃいけなかったのでしょうか?」
涙目で、非難の声を俺に向けるトレーシー。
『さらし』に潰されていた時はぺったん娘用の服を着ていたのだが、解放された今となってはそれでは窮屈だろうと、ジネットの服を貸し与えて着せている。……多少詰め物をしないと「ぽろり」しちゃいそうなので、細工はしてあるが。
「改めて……ジネット、パネェな」
「なんの話ですかっ!? もう、懺悔してください!」
「そして、私の質問に答えてください、オオバヤシロさんっ!」
二人のボインに非難を向けられる。いや、四つの膨らみに非難を向けられる。
おぉ、そう考えると、なんだか本望じゃないか!
「だってよ、トレーシー。『さらし』を破壊するような攻撃力だぞ? 窮屈な服を着続けていたら、ちょっとした拍子に服まで破れてボインがばいんでぽろりしちまうぞ」
「ひぅっ!? …………そ、それは、……困ります」
「「「なんで服を着替えさせたんだ、ヤシロさんっ!?」」」
「黙れ筋肉。出禁にするぞ」
おっぱいは、心で嗜むものだ!
陽だまり亭は『そういうお店』ではない。邪な期待を抱くんじゃない。
「陽だまり亭は、心でおっぱいを嗜むお店だ!」
「違いますよ!? 楽しくお食事をしていただくお店ですからねっ!?」
と、看板おっぱいのジネットが異を唱える。
そうか。そういう見方もあるのか……ふむ。
「トレーシーさん。ここは私が」
「うぅ……ネネさん……ごめんなさい。助かります」
筋肉の群れが怖くて近付けないトレーシーに代わり、ネネがプリンアラモードを持っていく。
「お待たせしました。スッカスカがお持ちして申し訳ありませんけれども!」
ネネのネガティブが、若干キレ気味に発動している。
トレーシーへの非礼に対する怒りか?
それとも……巨乳派だらけの空間に対する怒りだろうか……
「非常に不愉快な空間だね、ここは」
「お前は確実に後者だよな、エステラ」
腕を組んで、不機嫌顔を隠しもしないエステラが、盛り上がる筋肉どもを憎々しげに睨みつけている。
「Bでスッカスカだと……Bでスッカスカだと……Bでスッカスカだと……っ!?」
「お前……ネネに対して怒ってないか、それ?」
目に映るものすべてが敵に見えるタイプの人間なのか、お前は。
しかしまぁ、大工どものはしゃぎっぷりは…………ちょっとどうにかしなきゃかもな。
店の風紀が乱れる。
「ネネちゃんはネネちゃんで、いいっ!」
「素朴でかわいい!」
「飾らない君が好きだっ!」
「ぴぃっ!?」
「ネネさん! 逃げてっ!」
おっぱいだけでなく、美少女も大好きなんだな、筋肉ども……なんでもいいんじゃねぇか、結局。
「お前らっ、いい加減にするッスよ! 陽だまり亭に……いや、マグダたんに迷惑かけるなッス!」
「なぜ言い直した!?」
いいじゃねぇか、「陽だまり亭に迷惑かけるな」で!
ったく、これだから大工は……
「ヤシロ……ちょっとこれは、はしゃぎ過ぎかもしれないね」
「だな……」
エステラも、この雰囲気に危機感を覚えているようだ。
怖い思いをさせてしまえば、思い込みの激しいこいつらは四十二区恐怖症に陥ってしまうかもしれない……恐ろしい『捕食者』の跋扈する四十二区を。
ノーマがいてくれれば、ダメな男どもをビシッと叱ってくれるのかもしれんが……歯車が気になるとか言って帰っちまったしなぁ……
誰か代わりになるヤツは……と見渡してみても――
ジネットは誰かを叱るなんてしやしないし、マグダではキャラ的に「むしろ逆に叱られたい!」と変な病が発症するだろうし、ロレッタは普通だし、エステラじゃあ「嫉妬乙!」で一蹴だ。
そして、どういうわけか、俺が「おっぱいおっぱいと騒ぐな!」とか言っても「説得力がない!」とか言われてしまう……納得できんがな。
「リカルドでもいてくれりゃ、あの強面で『やかましい、埋めるぞ!』とかって凄んでもらうのに……」
「君、リカルドをゴロツキギルドの人間だと勘違いしていないかい?」
似たようなもんだろうに。
とにかく、あの浮かれきったバカ筋肉どもを正論で諭せる人材が、今この場所にはいない。
…………なら、しょうがないか。
「おい、大工ども。よく聞けよ」
俺は、筋肉どもに見つめられてすくみ上がるトレーシーとネネのそばまで行き、よく通る声で言い放つ。
「こっちのボインちゃんは二十七区の領主で、こっちの素朴ちゃんはそこの給仕長だ」
「「「失礼しましたっ!」」」
綺麗な土下座が目の前に並ぶ。
そういう物分かりのいいところは、割と好感が持てるぞ、大工ども。
「あ、あの、オオバヤシロさん…………よ、よろしいんですか?」
「まぁ、仕方ないだろう。あのままじゃ仕事にならねぇし。なんだかんだ言ってもあと数時間で終わりだしな」
そして、この二人はもうすでに「普通の感覚」というものをかなり体験している。
お互いを「さん付け」で呼び合うことも自然に出来ているし、トレーシーの『癇癪癖』も出ていない。
それに、ネネも自分で考えて動けている。
さっきのフォローなんかは上出来だ。
今の感覚を忘れなければ、二十七区に戻ってもいい関係を保てるだろう。
……帰った途端、周りの空気にのみ込まれないと言い切れないところが悲しいけどな。
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