モーマットから荷台いっぱいに野菜をいただき食堂へと戻ってきた俺は、それらを食糧庫へ運んで……あり得ないものを目撃した。
「嘘……だろ」
食糧庫には、隙間がないほどぎっしりとクズ野菜が詰め込まれていた。
……どんだけ買い込んでんだよ?
「使い切れんのか?」
「あの……いえ……寄付の分もありますし…………その……」
「使い切ってるのか?」
「…………すみません、この前は大量に残っちゃって堆肥にしました」
はぁー………………
罰として乳を揉ませろ。
……とは、言えないが、それくらいの気分だ。
「で、でも、有効活用は、されていますし……その…………決して無駄には……」
「過度の堆肥は作物をダメにするし、腐った野菜を畑にばら撒けば肥料になるわけでもない」
「……です、よね」
こいつはきっと、これまでもずっとこうだったのだろう。
断り切れずに大量に購入した食材を、可能な限り使い、それでも大量に残し、罪悪感から有効活用しようとするもその方法も思いつかない。
それでも断ることが出来ずにまた大量に買い込んでしまうのだ。
「次からは俺が調整して購入するとして……今回の分はなんとか使い切りたいな」
「料理の量を増やすとか、どうでしょうか?」
「それをすると、次回以降量を減らすのが難しくなる。同じ料金で『減った』と思われるのはマイナスイメージだ」
増量されたものを期待して来る客がつくと致命的だ。
サービスというのは、無暗に提供していいものじゃない。でなければ、商売など成り立たなくなる。
大量の在庫を捌くには……客を増やすしかないか。
「とりあえず、今日一日は普段通りの営業を見学させてもらう。悪いところがあればその都度是正していくからな」
「はい! よろしくお願いします!」
まぁ、どうしても捌けなければカッサカサに乾燥させてふりかけにでもしてみるか。……出来るかどうかは知らんけど。
が、ふりかけよりも前に作りたいものがある。
こいつは急務だ。
「大工道具はあるか?」
「はい。お祖父さんが使っていたものが物置にあるはずです」
「あと、余ってる木材はないか?」
「薪でしたら」
薪かぁ……
まぁ、なんとかなるか。
「じゃあ、椅子と机を補修するぞ」
「それは助かりますね!」
ジネットの表情がパァッと明るくなる。
「わたし、日曜大工は苦手で……一応、壊れた椅子は修理していたんですが、どうしてかいつもガタガタしてしまって……」
お前のせいだったのか、あのガタガタする椅子は!?
長さを揃えて切って釘で打ちつけるだけのことがなぜ出来ないのか……
「お前は開店準備をしててくれ。椅子は俺がやるから」
「はい。では、道具を持ってきますね」
そうしてジネットが持ってきた道具は、意外にも充実していた。金ヤスリまである。まぁ、さすがに紙ヤスリはないようだが。獣の革なのか、ざらざらとした肌触りの柔らかいヤスリがある。これは使えそうだ。
そして、店の裏手、トイレのさらに奥に薪置き場があった。
「……デカッ!?」
薪と言われて、30センチ程度にカットされた木片を想像していたのだが……
そこにあったのは長さ3メートルはあろうかという丸太だった。
どうも、これを適当な長さに切り出し、さらに斧で割って、その後で乾燥させる必要があるようだ。
だが、力のないジネットではその作業が進まず、なかなかストックが作れていない状況らしい。……薪割りも、俺の仕事かな。
しかし、この長い丸太があれば椅子や机の補修は出来るだろう。
長い間放置されていたようで、そこそこ乾燥もされているし。補修した後で木が反ってくるということもなさそうだ。
「では、お願いしますね」
ジネットは頭を下げ、店へと戻っていく。
木が置かれているこの場所で作業を始めるのが楽でいいのだが……客が来たら分かるように店の前で作業を行うことにする。
客の入りや客層も調べておきたいからな。
あと、食い逃げも防止したいしな。
そんなわけで、俺は店先でガタガタの椅子の補修を始めた。
足の長さを揃え、座面を水平にして、背もたれや足など、肌に触れそうな部分にはザラザラの革を使ってヤスリ掛けもした。
これで、肌触りもよくなり、座り心地も多少は改善されるだろう。
そんな作業に没頭しているうちに、太陽は頂点を過ぎ傾き始めていた。
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