刺すように暑い日差しも、水辺の涼しい空気のおかげで心地よく感じます。
先日ヤシロさんに教えていただいた『打ち水』というのも涼し気でしたが、やはり水辺の方が涼しいですね。
来年は、教会のみんなを連れてきてあげましょう。
「しすたー、ぁの、ぉとなり、ぃい、ですか?」
「えぇ、ミリィさん。一緒に涼みましょう」
「ぅん!」
生花ギルドのミリィさん。
いつもジネットが仲良くしてもらっていると話してくれます。
こうしてお話するのは初めてですね。
ギルドの方とお会いした時にお顔は拝見していたのですが、ミリィさんはいつも後ろの方にいて、誰かの背中に隠れて、なかなかお話しする機会がなかったんです。
「ぁの、ね……みりぃ、本当は、ずっと、しすたーとぉ話、して、みたかったの……」
「私でしたら、いつでも歓迎ですよ。ジネットと同じように、仲良くしてくださいね」
「ぅん! ……ぁ、はい!」
ふふ。
ジネットから聞いているのでしょうか。私は厳しいと。
かしこまって、緊張されているようですね。
「話しやすい口調で構いませんよ。敬語でなくとも、言葉に相手を敬う気持ちや思いやりが込められていれば、不快な気持ちにはなりませんから」
「ぅん……ぁりがとう、ございます」
「でも、成人するまでに、きちんとした敬語を使えるように練習しましょうね。まだ何年もありますから、焦る必要はありませんよ」
「はぅ……っ! ……みりぃ、来年もぅ、成人、……なのに」
あら。
そうだったのですか?
あまりに可愛らしいもので、ついつい。
これは失礼なことを言ってしまいましたね。
「知らなかったこととはいえ、申し訳ありませんでした」
「ぅうん。みりぃ、ょく間違われる、から……てんとうむしさんにもね――」
てんとうむしさん。
ふふ。
どうしてそんな呼ばれ方をするようになったのかは存じませんが、きっと楽しい理由があるのでしょうね。
ヤシロさんを呼ぶ時のミリィさんの目を見ていれば分かります。
ヤシロさんは、たくさんの方の信頼を得ているのですね。
今日、ここに集まったみなさんもきっと、ヤシロさんのお誘いだからこそ集まられたのでしょう。
出会った当初は、今にも消えてしまいそうな危うさを感じていたのですが……今はそれも影を潜めていますね。
このまま、この地に根を張ってくださるといいのですけれど。
「ぁの、しすたーは、泳がない、んです、か?」
「私は、こうして足を浸けているだけで楽しいですから」
私は水泳をしたことがありませんので、きっとジネットのように水に浸かると慌ててしまうと思います。
ですので内緒です。
ジネットやヤシロさんの前で、みっともない姿は見せられませんから。
ヤシロさんに付きっきりで泳ぎを教えてもらっているジネットが、少し羨ましくもありますが……鼻水とかが出てしまっては、イヤですし。
ヤシロさんなら、そんなみっともない顔を笑わずにいてくださいますでしょうか?
……いや、きっとからかわれますね。小憎らしい顔で、何度も何度もからかわれそうです。
ヤシロさんは、少し子供っぽいところがありますから。
容易に想像が出来ます、いたずらっ子の笑い顔が。
……むぅ。
容易に想像が出来るばかりに、随分とリアルに思い浮かんでしまいました。
想像なのに、ちょっと悔しいです。
少し笑い過ぎじゃないですか?
とはいえ、これは私の勝手な想像ですから、ヤシロさんを責めるわけにはいきません。
ですので、腹いせに――
「えいっ!」
川に浸けた足を振り上げて、ヤシロさんのいる方向へ水を飛ばしました。
全然届いていませんでしたけれど。
キラキラとしぶきが舞って、とても綺麗で、今日ご招待してくださったヤシロさんに感謝の気持ちが膨らんで、先ほどの小憎らしいいたずら笑顔は水に流そうと思えました。
うふふ。ヤシロさん、何も悪くないんですけれどね。
私がもやもやした気持ちを水に流すと同時に、対岸から「ばしゃーん」と水音がして、大きな水しぶきが上がりました。
男性のみなさんは、豪快に遊んでいるようで、微笑ましくなりました。
☆☆☆☆☆
しすたーが「えいっ」って川の水を蹴って、水しぶきがキラキラ舞って、とってもきれいだなって、みりぃは思ったの。
光を反射する水しぶきも、楽しそうに笑うシスターの、ちょっとだけ子供っぽい笑顔も。
何より、濡れた真っ白な足が綺麗に伸びていて、女のみりぃでもちょっとドキッとしちゃった。
しすたー、きれい……
――と、思ったら、対岸で「ばしゃーん!」って水音がした。
視線を向けると、オメロさんとベッコさんとパーシーさんが川に落ちて、なんだか幸せそうな顔で流されていった。
……男の人って、ちょっと、……えっち。
「楽しそうですね」
「ぅ、ぅん……しあわせそう、です、ね」
しすたーは気付いてないみたい。
男の人が、チラチラってしすたーのこと見てるの。
「ぁの、しすたー」
「なんですか?」
話しかけたら優しく返事をしてくれる。
まるでお母さんみたいに優しい声で、みりぃは、しすたーが好き。
ずっとお話したいと思ってたんだ……やっと、願いが叶っちゃった。
てんとうむしさんに感謝、だね。
「しすたーは、その、えっと、らっしゅがーど? は、脱がないんですか?」
「そうですね。とても可愛い水着をいただいたのですが、体のラインが出るのはやはり少し恥ずかしいので、今日は着たままでいようと思っています」
……うん。体のラインが出るのが恥ずかしいのは、みりぃも、分かるんだけど、ね?
しすたー……今の格好も、結構セクシーだょ?
なんだか、スカートを履き忘れたみたいに見えて……
ぁう……みりぃがそんな風に思ってるだけ、かな?
水着だと、これが普通、なの、かな?
でも、オメロさんたち、ちょっとはしゃぎ過ぎてると思うな……
「らっしゅがーど、恥ずかしく、なぃ? ですか?」
「えぇ。ヤシロさんの心配りに感謝ですね」
まぁ、しすたーが恥ずかしくないなら、ぃい、かな?
みりぃは、シスターの脚が、とってもセクシーに見えて、ちょっと直視できないんだけど。
みりぃも、しすたーみたいにすれば、大人っぽい女の人になれる、かな?
おめろさんとか、水に、落ちちゃう、かな?
ぁう……別に、落ちてほしいわけじゃないけど。
えっと……
つま先を川に浸けて……ちゃぷちゃぷ。
「うふふ。気持ちいいですね」
「ぅ、ぅん。気持ち、ぃい」
し、しすたーのマネ、したら、変に思われるかな?
さっきの、キラキラしてきれいだったし……うん、思い切って、みりぃもやってみよう。
折角、こんな可愛い水着、着てるんだし……
今日は、結構、思い切ったし……
……水着、恥ずかしかったけど、頑張って、着られたし……もうひとつだけ、思い切って……
「ぇ、ぇ~い!」
しすたーみたいに、脚をまっすぐ前に、綺麗に見えるように意識して蹴り出したら――
「じゃじゃーん! ミリリっちょぶわほぅっ!?」
――ちょうどその瞬間に目の前の水面からロレッタさんが飛び出してきて、みりぃの蹴った水が全部ロレッタさんの口の中に飛び込んでいった。
「きゃぁあああ! ろれったさん、ごめんなさーい!」
「げほっけほっけふっ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「ロレッタさん、大丈夫ですか?」
「い、いや、あたしこそ、タイミングちょっと悪くて……なんか逆にごめんです……けほっけほっ!」
「ごめんね、ごめんね?」
「いやいや、ミリリっちょをビックリさせようとしてたですから、おあいこです」
「びっくりは、した、けど……」
「お二人とも、川は危険ですので、イタズラはほどほどに、ですよ」
「はぁ~い、です」
「ぁう……ごめん、なさい」
みりぃは、イタズラじゃなかったんだけど……
でも、言えない。
しすたーみたいにセクシーなことしてみたかったなんて、……言えなぃ、ょぅ……
その後は、みりぃ、大人しく浅瀬でちゃぷちゃぷ遊んでた。
……しすたーみたいになるのは、もうちょっと身長が伸びてからにしようって、思ったょ。
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