「エステラ。お前はまんまと詐欺に嵌った!」
「う…………っ」
俯いたエステラの肩がビクンッと震える。
そして、顔を上げ、涙を浮かべた目でキッと俺を睨む。
「だっ、だからっ! みんなに会わないように家に閉じこもってたんじゃないか! もう、みんなに合わせる顔がないから!」
「お前に無いのは乳だぁ!」
「うるさぁぁああああいっ!」
エステラが拳を握り殴りかかってくる。
俺の胸に飛び込んで、ぽかぽかと拳をぶつけてくる。
……全然痛くない。
「……ヤシロがそういうことを言うから、ボクは…………ボクだって気にしてるんだぞっ!」
「気にしてんのがいいんだよ、バカッ!」
「……は?」
まったく! こいつは何も分かっていない!
「いいか、エステラ! 人間ってのはな、人と違うから面白いんだ。個性的だから魅力的なんだ! もっと言ってしまえば、欠けている部分があるからこそ、人はそこに惹かれるんだっ!」
「欠けている……ところ…………?」
完璧な人間に、一体誰が魅力を感じるかよ。
だったら人類はみんな女神かアンドロイドに恋しちまうぜ。
「お前の周りを見てみろ」
「周り……」
エステラが周囲をぐるりと見渡す。
そこにはジネットがいる。
マグダが、ロレッタが、イメルダが、デリアが、マーシャが、ネフェリーが、セロン&ウェンディがいる。
「みんなどこか欠けてるじゃねぇか」
「そんなこと……」
「ないか?」
「…………」
エステラが、もう一度周りに視線を向ける。
それに合わせて、俺が一人一人説明していってやる。
「ジネットは、アホの子だろ?」
「酷いですよ、ヤシロさんっ!?」
遠くから批判の声が飛んでくるが、今は無視だ。
「マグダは感情表現がうまくない。ロレッタは普通過ぎる」
「……むぅ」
「普通、いいじゃないですか!?」
「イメルダは…………な?」
「『な?』ってなんですの!? はっきりとお言いなさいな!?」
「デリアはちょっと力加減を間違うことが多いし、マーシャはあざとい」
「そ、そんなことないぞ、ヤシロ! あたい、最近は割とお淑やかで……!」
「ひどぉ~い、ヤシロ君! ぷんぷんっ、だぞ!」
「ネフェリーなんかニワトリだぞ?」
「それのどこが悪いのよっ!?」
「セロンとウェンディは近いうちに爆発する運命だしな」
「「しませんよ、英雄様っ!?」」
外野の声をすべて無視して、エステラに向かい合う。
「けど、そこがあいつらのいいところだ」
「「「「「「「「「フォローしきれてない気がする……」」」」」」」」」
うるせぇなぁ、外野……
「だからな、エステラ。お前はお前でいいんだよ」
「けど……っ! みんなのそれと、ボクのは……違うじゃないか」
「だから、違っていいんだっつの。同じ悩みを共有する必要なんかないだろう? 気にするのはいいが、気にし過ぎるのはやめろ」
「だ、だいたい、君がいつもからかうから、余計気にしちゃうんだろう!?」
「からかうさ! からかうに決まってんだろ!」
「なんでさっ!?」
「お前の反応が面白いからだよ」
「そうやって面白がって…………ボクがどんなに……っ!」
人差し指を立て、エステラの唇をぷにっと押す。
「――っ!?」
こうすると、大抵の女の子は黙ってくれる。
まぁ、諸刃の剣ではあるが……これの後にちゃんとフォローしておけば、比較的許させることが多い。……ホンットに大博打だけどな。
「俺は、そんなお前と一緒にいるのが、楽しいと思ってるぞ」
「…………え……っ」
一瞬で、エステラの怒気が霧散した。
表情がストンと抜け落ち、首の付け根から徐々に赤く染まっていく。
まぁ、こいつの言うように、からかい過ぎていた俺にも責任はあるわけで……だからまぁ、今日だけ大サービスだ。本当ならこんなクッソ恥ずかし役回りは足蹴にしてウーマロとかセロンあたりに押しつけたいところなんだが…………
「エステラ。お前、胸無くていいよ。そのままでいい」
「……や……っ、……しろ…………」
右手に残る、微かな膨らみの感触…………
えぇい、クソ。こいつも認めてやる。
「それに、ちょっとだけだが、…………ドキドキしたしな」
右手の指をもにゅもにゅと動かしてみせると、エステラの顔が赤から真紅に変わった。
「バッ…………バカじゃないのっ!? スケベッ!」
ドンッ! と、エステラが俺の胸を突き飛ばす。
おぉ、これでおあいこだな、ぺったんこな胸の触り合い。
「あ~ぁっ! もう、バカバカしい! 今後ヤシロに何を言われたって気にしない! ボクは、今のボクに自信を持って生きていくことにするよ!」
「そうですよ、エステラさん!」
エステラの決意表明に、ジネットが賛同し、他の連中からも次々に称賛の声が飛ぶ。
これで、元気を取り戻してくれればいいんだがな。
「ヤシロッ」
友人に囲まれたエステラが、挑戦的な瞳を俺に向けてくる。
なんか、アウェーな感じの構図だな。
「ボクはもう、こんなヘマはしない。誓うよ」
「そういうのは精霊神にでも言ってくれ」
「ううん。君に誓う。……けど、もし、愚かにもまたボクがこんな目に遭った時は……」
挑発するような瞳がふわりと弧を描き、柔らかい笑みが浮かぶ。
「また、真っ先に助けを求めに行くから。よろしくね」
……素直になれれば、こうやって一瞬で方が付く。その程度のことなんだよな、世の中の悩みの大半は。
「おぉ、まかせとけ」
今回、エステラはヘマをやらかしたが、褒められるところもあった。
それは、すぐに俺に助けを求めたこと。
詐欺に遭った時は、すぐさま信頼できる人間に相談するのが得策だ。
一人で不安と戦わない。
自分でなんとかしようなんて考えない。
一度深呼吸して、周りを見渡せばいい。
きっと、力になってくれる誰かがいるはずだから。
そのことが伝わっていれば……今回の騒動も意味があったと言えるだろう。
「お前ら全員、何かあったら俺を頼れ。いつだって力になってやるぜ」
そう、この世の中で何より大切なのは、助け合う心と――
「格安でっ!」
「「「「「「「「「お金取るのっ!?」」」」」」」」」
――お金なのだから。
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