異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

挿話13 異世界詐欺師VS異国の詐欺師~終章~ -3-

公開日時: 2020年12月20日(日) 08:01
文字数:2,408

「エステラ。お前はまんまと詐欺に嵌った!」

「う…………っ」

 

 俯いたエステラの肩がビクンッと震える。

 そして、顔を上げ、涙を浮かべた目でキッと俺を睨む。

 

「だっ、だからっ! みんなに会わないように家に閉じこもってたんじゃないか! もう、みんなに合わせる顔がないから!」

「お前に無いのは乳だぁ!」

「うるさぁぁああああいっ!」

 

 エステラが拳を握り殴りかかってくる。

 俺の胸に飛び込んで、ぽかぽかと拳をぶつけてくる。

 ……全然痛くない。

 

「……ヤシロがそういうことを言うから、ボクは…………ボクだって気にしてるんだぞっ!」

「気にしてんのがいいんだよ、バカッ!」

「……は?」

 

 まったく! こいつは何も分かっていない!

 

「いいか、エステラ! 人間ってのはな、人と違うから面白いんだ。個性的だから魅力的なんだ! もっと言ってしまえば、欠けている部分があるからこそ、人はそこに惹かれるんだっ!」

「欠けている……ところ…………?」

 

 完璧な人間に、一体誰が魅力を感じるかよ。

 だったら人類はみんな女神かアンドロイドに恋しちまうぜ。

 

「お前の周りを見てみろ」

「周り……」

 

 エステラが周囲をぐるりと見渡す。

 

 そこにはジネットがいる。

 マグダが、ロレッタが、イメルダが、デリアが、マーシャが、ネフェリーが、セロン&ウェンディがいる。

 

「みんなどこか欠けてるじゃねぇか」

「そんなこと……」

「ないか?」

「…………」

 

 エステラが、もう一度周りに視線を向ける。

 それに合わせて、俺が一人一人説明していってやる。

 

「ジネットは、アホの子だろ?」

「酷いですよ、ヤシロさんっ!?」

 

 遠くから批判の声が飛んでくるが、今は無視だ。

 

「マグダは感情表現がうまくない。ロレッタは普通過ぎる」

「……むぅ」

「普通、いいじゃないですか!?」

「イメルダは…………な?」

「『な?』ってなんですの!? はっきりとお言いなさいな!?」

「デリアはちょっと力加減を間違うことが多いし、マーシャはあざとい」

「そ、そんなことないぞ、ヤシロ! あたい、最近は割とお淑やかで……!」

「ひどぉ~い、ヤシロ君! ぷんぷんっ、だぞ!」

「ネフェリーなんかニワトリだぞ?」

「それのどこが悪いのよっ!?」

「セロンとウェンディは近いうちに爆発する運命だしな」

「「しませんよ、英雄様っ!?」」

 

 外野の声をすべて無視して、エステラに向かい合う。

 

「けど、そこがあいつらのいいところだ」

「「「「「「「「「フォローしきれてない気がする……」」」」」」」」」

 

 うるせぇなぁ、外野……

 

「だからな、エステラ。お前はお前でいいんだよ」

「けど……っ! みんなのそれと、ボクのは……違うじゃないか」

「だから、違っていいんだっつの。同じ悩みを共有する必要なんかないだろう? 気にするのはいいが、気にし過ぎるのはやめろ」

「だ、だいたい、君がいつもからかうから、余計気にしちゃうんだろう!?」

「からかうさ! からかうに決まってんだろ!」

「なんでさっ!?」

「お前の反応が面白いからだよ」

「そうやって面白がって…………ボクがどんなに……っ!」

 

 人差し指を立て、エステラの唇をぷにっと押す。

 

「――っ!?」

 

 こうすると、大抵の女の子は黙ってくれる。

 まぁ、諸刃の剣ではあるが……これの後にちゃんとフォローしておけば、比較的許させることが多い。……ホンットに大博打だけどな。

 

「俺は、そんなお前と一緒にいるのが、楽しいと思ってるぞ」

「…………え……っ」

 

 一瞬で、エステラの怒気が霧散した。

 表情がストンと抜け落ち、首の付け根から徐々に赤く染まっていく。

 

 まぁ、こいつの言うように、からかい過ぎていた俺にも責任はあるわけで……だからまぁ、今日だけ大サービスだ。本当ならこんなクッソ恥ずかし役回りは足蹴にしてウーマロとかセロンあたりに押しつけたいところなんだが…………

 

「エステラ。お前、胸無くていいよ。そのままでいい」

「……や……っ、……しろ…………」

 

 右手に残る、微かな膨らみの感触…………

 えぇい、クソ。こいつも認めてやる。

 

「それに、ちょっとだけだが、…………ドキドキしたしな」

 

 右手の指をもにゅもにゅと動かしてみせると、エステラの顔が赤から真紅に変わった。

 

「バッ…………バカじゃないのっ!? スケベッ!」

 

 ドンッ! と、エステラが俺の胸を突き飛ばす。

 おぉ、これでおあいこだな、ぺったんこな胸の触り合い。

 

「あ~ぁっ! もう、バカバカしい! 今後ヤシロに何を言われたって気にしない! ボクは、今のボクに自信を持って生きていくことにするよ!」

「そうですよ、エステラさん!」

 

 エステラの決意表明に、ジネットが賛同し、他の連中からも次々に称賛の声が飛ぶ。

 これで、元気を取り戻してくれればいいんだがな。

 

「ヤシロッ」

 

 友人に囲まれたエステラが、挑戦的な瞳を俺に向けてくる。

 なんか、アウェーな感じの構図だな。

 

「ボクはもう、こんなヘマはしない。誓うよ」

「そういうのは精霊神にでも言ってくれ」

「ううん。君に誓う。……けど、もし、愚かにもまたボクがこんな目に遭った時は……」

 

 挑発するような瞳がふわりと弧を描き、柔らかい笑みが浮かぶ。

 

「また、真っ先に助けを求めに行くから。よろしくね」

 

 ……素直になれれば、こうやって一瞬で方が付く。その程度のことなんだよな、世の中の悩みの大半は。

 

「おぉ、まかせとけ」

 

 今回、エステラはヘマをやらかしたが、褒められるところもあった。

 それは、すぐに俺に助けを求めたこと。

 詐欺に遭った時は、すぐさま信頼できる人間に相談するのが得策だ。

 一人で不安と戦わない。

 自分でなんとかしようなんて考えない。

 一度深呼吸して、周りを見渡せばいい。

 

 きっと、力になってくれる誰かがいるはずだから。

 

 そのことが伝わっていれば……今回の騒動も意味があったと言えるだろう。

 

「お前ら全員、何かあったら俺を頼れ。いつだって力になってやるぜ」

 

 そう、この世の中で何より大切なのは、助け合う心と――

 

「格安でっ!」

「「「「「「「「「お金取るのっ!?」」」」」」」」」

 

 ――お金なのだから。

 

 

 

 

 

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