「マグダっちょ!」
カンタルチカに着くなり、ロレッタが店へと飛び込んだ。
自分の足で歩いて迎えに来いと言われていたロレッタ。
まだ迎えに来たわけではないが、回復した自分を見せたかったのだろう。
「……ロレッタ」
カンタルチカは営業中で、客でごった返していた。
よかった、外套を羽織っていて。
酔っ払いのオッサンどもにこいつらの寝間着姿なんてもったいなさ過ぎる。拝観料を取るにしても、1万Rbでも足りないくらいだ。
外套を羽織ってマグダに駆け寄るロレッタ。
そんなロレッタを、マグダはじっと見つめている。
「あの、マグダっちょ……あたし…………」
「…………」
目の前に来たロレッタを見つめて……マグダは呟く。
「……薄ピンク」
「なんで下着分かるですか!? お兄ちゃんパワー付き過ぎてちょっと怖いですよ!?」
バカめ、ロレッタ。
お前の下着の色くらい、日頃のローテーションと今のお前の気分や状況を鑑みれば容易に予測が付くのだ。
……で、何がお兄ちゃんパワーだ、このやろう。
「あの、マグダっちょ……実は、まだ迎えに来れる状態ではないんですけど……それでも、あの……あたし、元気になったですから! もう、心配かけないですからね!」
ロレッタの言葉をじっと聞き、マグダはこくりと頷いた。
「……待っている。焦らなくていいから、きちんと迎えに来て」
「マグダっちょ…………うんです! 迎えに来るです!」
マグダに飛びつき、抱きしめるロレッタ。
その頭を、マグダの小さな手がよしよしと撫でる。
「……でも、早くしないと、マグダがカンタルチカで人気者になり過ぎてお客が放さなくなる可能性も」
「それは困るです! マグダっちょは陽だまり亭の大切なメンバーです!」
気合いも新たに、ロレッタが立ち上がる。
「店長さん! あたし、頑張って元気になるです!」
「はい。一緒に頑張りましょうね」
ジネットが二人に歩み寄り、そして楽しそうに雑談を始める。
和解できてよかったな。
お前らみんな。
向こうでは、デリアとノーマがミリィと話をしている。
パウラはカウンターの奥へ入り父親に会いに行ったようだ。
……で。
「なんでまだいるんだ?」
「アラアラ~? ダーリンちゃんは、オシナがここにいるとご不満なのネェ?」
カウンターに肘を掛けて、気怠そうにはんなりとした笑みを浮かべているオシナ。
どうやら、ずっと店を手伝っているようだ。
「マグダちゃんもミリィちゃんも、お酒のことよく分かんないから、オシナがいるとと~ってもお役立ちなのネェ」
まぁ、そりゃそうなんだろうが。
「オシナ的にも、お手伝い楽しいネェ。……ちょ~っとうるさ過ぎるけれどネェ」
ガハハと騒ぐ飲んだくれを一瞥して、でも不快感は見せない笑みで言う。
こいつの本心はどこにあるんだろうな。
「ちょっと、マグダたちに話があるから、少しだけ頼めるか?」
「ハイハ~イ、ま~かせてネェ~」
オシナに頼んで、少しの間だけ時間をもらう。
俺たちが今やろうとしていることを掻い摘まんで説明をする。
「……なるほど。確かにマグダが行けば勝利は確実。けれど、マグダは一度引き受けた仕事を途中で投げ出したり出来ない真面目でキュートな人間」
「まぐだちゃん、いっしょけんめい働いてるもん、ね」
「ミリィ、『キュートいらなかっただろ』って突っ込むところさよ、今のは」
ノーマの指摘も、ミリィは「ぁはは……」と笑って誤魔化すだけだった。
ミリィもずっと手伝ってくれている。こりゃ、ミリィの分の着ぐるみパジャマも必要になるな。
「……デリアなら、ゴロツキごときに後れを取ることはない。託す」
「おう! 任せとけ!」
そんな会話を交わし、客足がどんどん増えていくカンタルチカを、俺たちは後にした。
手伝いたそうにしていたパウラとロレッタを引き摺って。
お前らは、まだ復帰させられない。
その「働きたい」って気持ちを、これから先も忘れるなよ。
ジネットだって、本当は今すぐにでも陽だまり亭を開店させたいだろうさ。
でも、今は我慢の時期だ。
その我慢が、今後誤った道へ踏み出しそうな時のブレーキになる。
「あたし、絶対元気になって、カンタルチカの看板娘に復帰する!」
パウラが吠える。
「私も、早く元気になってニワトリたちのお世話するんだから!」
ネフェリーも、今は両親に迷惑をかけている状態だ。
早く帰って親孝行してやるといい。
「あたしだって、元気になって陽だまり亭一の人気ウェイトレスになるです!」
「いや、それは無理だろう」
「普通はんは普通やさかいなぁ」
「まぁ、いいとこ三番手さね」
「一番手はワタクシですわね!?」
「いや……イメルダは陽だまり亭の一員ですらないじゃない……」
「ダメよ、ネフェリー。イメルダに正論言っても通じないって。あとロレッタが一番とか片腹痛い」
「みんな酷いです!? 特にパウラさんが酷いです!」
酔っ払いが行き交い、昼間とは違う賑わいを見せる大通りを、一層賑やかに俺たちは領主の館へ向かって進んでいった。
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