異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

94話 新しいもの 懐かしいこと -3-

公開日時: 2020年12月30日(水) 20:01
文字数:3,970

「待たせたな! いよいよお披露目だ!」

 

 これが、この夏イチ押しのイベント!

 

「四十二区水着コレクション・in・陽だまり亭!」

 

 食堂内がざわりとどよめく。

 気にせずにトップバッターに登場してもらおう!

 

「まずは! デリアだ!」

 

 俺が呼ぶと、デリアが厨房から姿を現す。

 

「えっ!?」

「わぁっ!」

 

 など、多様な声が上がる。

 それもそうだろう。

 

 デリアは足とお腹が大胆に露出されたビキニ姿をしているのだ。

 とはいえ、普段から露出の多い格好をしているデリアなのでいやらしさは感じさせない。

 むしろ、カラフルな色使いで可愛らしくすら見える。

 

「これは、健康的な肉体美を美しく、そして可愛らしくアピールするショートパンツビキニですね」

 

 ウクリネスがこの水着のおすすめポイントを解説してくれる。

 

「あ、や……な、なんか、こうも注目されると、ちょっと照れんな…………あ、あんま見んなよ」

「大丈夫だ。ここには女子しかいない」

「あ、それもそうか」

 

 俺の言葉に、デリアの緊張が少し解れたようだ。

 ……まぁ、男子がここに一人いるんだけどな。

 

 そう、今日は水着の披露をするために男子禁制にして美女を掻き集めてきたのだ。

 もちろん、ここにいる全員に水着を着せるためにだ!

 計画を持ちかけると、ウクリネスが物凄い勢いで食いついてきて、俺の伝えたデザインの水着を凄まじい速さで作り上げてきてくれた。この服屋……出来るっ!

 

 デリアは持ってきたコーヒーゼリーを配り終えると、俺の隣までやって来る。

 

「な、なぁ? 似合う……かな?」

 

 腕を後ろで組んで、恥ずかしげにそう問いかけてくる。

 そんなことを聞かれたら、返す言葉は一つしかない。

 

「すごく可愛いぞ」

「かわ……っ!? 可愛いのか、あたいが!?」

「あぁ。少し露出が多いが、それが健康的で明るい印象を与えている。デリアの素直なところと、溌剌とした明るさがよく活かされたいい水着だ。似合ってるぞ」

「むはぁっ! ヤシロに褒められたっ!」

 

 嬉しそうに身悶えるデリア。

 露出の多さはもはや恥ずかしくもないようだ。

 

 大事だろ? こういう空気作り。

 

「じゃあ、次はノーマ!」

 

 声をかけると、ノーマがゆったりとした歩調で厨房から姿を現す。

 

「えっ!?」

「これは……っ」

 

 先ほどよりも、少し緊張した声が上がる。

 ノーマは、モンキニと呼ばれる、前から見るとワンピース水着に見えるが後ろから見るとビキニに見える水着を着ている。背中と腰の部分が大胆なくらい露出されている。むしろ、お腹を覆うことで露出された部分が強調されて、普通のビキニよりも幾分セクシーさが増している。

 出せばいいというものではないのだ、肌というのは!

 

「……あんまり見るんじゃないよ」

 

 珍しく、ノーマが照れている。普段はこれでもかと胸の谷間を見せつけているのに。

 やっぱり、普段と違う格好は恥ずかしいようだ。

 

「これは大人の女性がより魅力的に見える水着ですね」

「大人の色気が卑猥な方向ではなく美しいというベクトルで強調されているからな。着こなすのは難しいが、ノーマにはよく似合っているな。神秘的ですらある」

「まぁ……そこまで褒めてくれるんなら、着ていてやってもいいかねぇ」

 

 満更でもなさそうな顔でノーマは口元を緩める。こいつは、褒められるのが好きなんだよな、何気に。

 しかし……後ろから見るとヤバいな、この水着は。

 

「じゃあ、次だ。ナタリア!」

 

 少し不機嫌そうな無表情で、ナタリアが姿を現す。

 

「へぇ……」

「これは素敵ですね」

 

 水着にも慣れてきたのか、上がる歓声が肯定的なものになってきている。

 ナタリアは黒いビキニで、腰にパレオを巻いている。巻きスカートのような長いパレオから、ナタリアの細く白い足が覗いている様はなんとも色っぽい。

 

「品のある女性にはやはりこれが一番ですね。露出は抑えられているので色香にも静淑さがありますよね」

「ナタリアみたいな淑やかな女性にはこういうのを着ていてほしいよな。大人の余裕と少女の素直さを兼ね備えたデキる女の遊び心が垣間見れる水着だ。グッとくるものがあるよ」

「…………グッときますか、そうですか………………ふふ、そうですか」

 

 表情から不機嫌さが消え、流れるような無駄のない動きでコーヒーゼリーを配り終える。

 そして、一回無駄なターンを挟んでから、俺のそばにやって来てノーマの隣に並んだ。

 ……なぜ回った?

 

「……けどさ、やっぱり水着って……」

 

 と、エステラがジネットにネガティブな感情を注ぎ込もうとしたところで、俺はそれを阻止するべく最後の一人を呼び込んだ。

 

「さぁ、マグダ! お前の出番だ!」

 

 厨房から姿を現したマグダを見て、食堂内の雰囲気は一変した。

 

「わぁ!」

「か、可愛いですぅ!」

 

 大人の色香漂う水着ショーに、可愛らしい少女が登場したことで一気に雰囲気が和んだのだ。

 

 マグダはタンキニという水着を着ている。

 これはタンクトップとビキニを合わせた言葉で、その名の通りビキニの上にタンクトップを着る仕様だ。タンクトップといっても、キャミソールなんかでもOKで、今マグダが着ているのは胸元に可愛らしいフリルをあしらったキャミソールだ。

 このキャミソールを脱げば、ビキニになるわけだが、ビキニはちょっと恥ずかしいという人にはこういう上に一枚着られる水着がおすすめだろう。

 ……胸の小ささもフリルで誤魔化せるしな。

 

「……脱いだら、もっとすごい」

 

 可愛らしさを高く評価されたマグダだが、どうも色気部門でのランクインを狙っているらしく、キャミソールを脱ごうとしている。

 いや、いいから。マグダにそこは求めてないから。

 

「……ゼリーが行き渡っている?」

「あ、それは俺らの分だ。こっちに頼む」

「……なるほど」

 

 マグダはコーヒーゼリーを持ったまま俺のそばまでやって来る。

 

「さぁ、コーヒーゼリーを楽しんでくれ」

「いやいやいや! その前に物凄く気になることやっておいて、説明は無しかい!?」

 

 エステラも、ちょっと水着に興味を示しているようだ。

 詳細が知りたいのだろう。

 

「いや、なに。あまりにも暑いんで、川遊びでもしようかと思ってな」

「いいな、それ! あたいが穴場を教えてやるよ! 泳げるぞ!」

 

 デリアがいれば、安全な遊び場所が確保できるだろう。

 

「で、その際、ウクリネスが作ってくれた最新の水着を着てみてはどうかと思ったんだが……お前らは普通に渡しても『露出が~』とか『わたしはこういうのは~』とか『ボクは抉れてるから』とか言うだろ?」

「抉れてる人の一人称が『ボク』なのには、何か意味があるのかな?」

 

 エステラから立ち上る怒気には触れず、俺はプレゼンを続ける。

 

「水着は、決していやらしいものじゃない。このように美しさと可愛らしさをアピールしてくれる、オシャレ着なんだ! 健康的な露出は『エロ』ではない! 『美』だ!」

 

 まぁ、それを『どんな目で見るか』は、こっちのさじ加減一つだけどな!

 

「折角、ここまで暑くなったんだ。なら、むしろそれを逆手にとって楽しんでやらなきゃもったいないだろう?」

 

 もったいないのはよくない。

 無駄はなくし、活用できるものは最大限利用する。それが、人として素晴らしいと言える生き方だ。

 

「みなさんに合わせた水着も用意してあるんですよ。是非試してみてください」

 

 少し興味を惹かれたところで『自分のために用意された』水着を手渡される。ウクリネス、さすが顧客の心理をよく分かっている。

 水着に興味はある。だが自分が着るとなると恥ずかしい。

 そんな時、手渡された水着が……

 

「わぁ、可愛いですっ!」

 

 思っていたよりも可愛らしく、いやらしくないと感じれば…………着たくなるだろうそりゃあ!

 しかも、今ここでは集団心理が働いている。

「みんな着替えるのに自分だけ拒否するのはなんだか悪い」「場の空気を壊してしまいそうだ」とな。

 

「どうだ、ロレッタ? 可愛いだろ?」

「はいです! あたし着てみたいです!」

「ミリィはどうだ? そういうのなら似合うかと思ったんだが」

「ぁ…………う、うん。これなら…………着られ、そう」

 

 アホを釣り、もっとも大人しい娘をこちらに引き寄せれば、ここはもう完全に「みんなで一回着てみる空間」になるのだ!

 

「でも……ボクは……」

 

 そして、最後の難関はこいつ。エステラだ。

 胸の無いコンプレックスをはねのけてやる必要がある。

 

「エステラ。お前の水着は、お前の長所でもある細くて長い手足を魅力的に演出してくれる作りになっているんだぞ。フリルがたくさんで可愛いだろ? お前ならきっと似合う」

「そ、……そう、かな?」

 

 胸元のフリルで無い乳を誤魔化し、あとは長所を伸ばす。そんな水着だ。

 エステラがその気になれば完了だ…………メインディッシュを釣り上げる準備がな。

 

「あ、あの…………あの…………えっと……」

 

 周りが『着る気』になる中、一人おろおろしているのがジネットだ。

 こいつは、肌の露出を極端に恥ずかしがる。

 だが、最早お前は俺の手中に落ちたのだ…………脱いでもらうぜ、その余分な布地をなっ!

 

「ジネット」

「は、はい……」

「水着は、恥ずかしいか?」

「え、えっと…………はい。やっぱり、わたしには、少し……」

「きっと似合うぞ」

「ですが……」

 

 ふふふ……俺は、ジネットの弱点を知っている。

 お前は、俺から逃れることは出来ないぜ……

 

「折角の夏だ。『みんなで』楽しい思い出を作ろうぜ」

「…………みんなで……」

 

 こうして出会えた仲間が、みんなで同じ楽しみを共有しようとしている。

 それを拒絶できるようなヤツじゃないのだ、こいつは。

 

「……そう、ですね」

 

 真っ赤な顔ながらも、ジネットは納得したような笑みを浮かべる。

 

「はい。では、頑張って着てみます」

 

 やったぁー!

 夏、ばんざーい!

 猛暑日ありがとー!

 異世界さいこうー!

 

「じゃあ、着替えを手伝ってやろう!」

「それは結構ですっ!」

 

 ……流れで誤魔化すことは出来なかったか……残念。

 

 さぁ、みんな!

 水着に着替えるのだ! そして俺を楽しませろ!

 

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