異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

224話 『宴』の準備THEファイナル -2-

公開日時: 2021年3月23日(火) 20:01
文字数:2,399

 それからあっという間に時間は過ぎ、なんだかんだと前日である。

 ベアリングも完成したし、ジネットは作る料理をピックアップし終えたらしい。

 今朝からアッスントと相談しながらいろいろな食材を発注していた。

 

 教会はどこかそわそわとした雰囲気に包まれていた。初めての経験に、落ち着かない様子だ。

 年長組がいなくなると寂しくなりそうだということで、当日はネフェリーとパウラがガキどもの面倒を見に来るらしい。

 パウラは何かと教会に顔を出しては自主的に手伝いを買って出ていた。意外と敬虔なアルヴィスタンであるらしい。

 

 そして、陽だまり亭は――

 

「マグダ……デカい」

「……目立つ方がいいかと思って」

 

『本日休業日』という、巨大な看板が立てかけられていた。

 ハムっ子たちの力作らしい。地面に立てかけて、一階から屋根の上の看板までもを覆い隠すくらいの巨大さだ。

 看板の下の方には、「※休業と言っても、二十四区まで来てくだされば何かお料理をお出しいたします」という注釈が付いている。

 ……ウチの店長、どこまで休業日嫌いなの?

 

 まさか、宣伝Tシャツの『年中無休』って文言を気にしているのか?

 あれは口にしたわけじゃないから『精霊の審判』引っかからないような気もするのだが……会話記録カンバセーション・レコードにも記録されていないし。まぁ、検証してないからなんとも言えないけども。

 ……つか、アレに対して『精霊の審判』かけるヤツなんかいないだろうに。

 もしいたら、俺が全力でぶっ潰すし。

 

「おぉ! すごい迫力です! これは文句なしの休業日です!」

「明日なんだけどな、休業日」

 

 なんとなく怖くなったので、デカい看板の下の方に、『今後陽だまり亭は折りを見て休業いたします』と書き加えておいた。

 営業時間が『変更』するのは決して嘘ではない。ちゃんと告知もしたしな。今。

 

「おぉ~……これはまた、壮観だね」

 

 エステラが無い胸を反らして巨大看板を見上げる。

 横から見ても一切凹凸がない。バリアフリーだ。

 

「で、今失礼なことを考えたヤシロ。話があるんだけど」

「お前はエスパーか」

「ヤシロの考えてることくらい分かるよ」

「そんな簡単に心が読まれてたまるか」

「……マグダも分かる」

「余裕で分かるですよ」

 

 なん……だと?

 この、世界最強詐欺師である、この俺の心が……?

 

「ウーマロたち、準備が整ったって」

 

 ここに来る前にウーマロのところに寄っていたらしい。

 

「準備は済んでるかい?」

「あぁ、いつでも出られるぞ」

 

 俺とエステラは、ウーマロたちと共に前乗りして、教会に屋台と遊具を組み上げるのだ。

 ウーマロたちだけでは、二十四区の教会に入れられないだろうと、俺たちも同行することになった。

 今晩は教会に一泊させてもらう。

 

 と言っても、庭を借りてキャンプ、みたいな感じになるけどな。

 

「ミリィとウェンディは?」

「もうとっくに三十五区へ着いているはずだよ」

 

 ミリィは昨日のうちに三十五区へと向かっていた。

 花を見て、飾りつけのイメージを膨らませてデザインをするらしい。

 行ってすぐ花を摘んで持っていく、ってわけにはいかないようだ。

 当初は一緒に行く予定だったのだが、別行動となった。本人のやる気が尋常じゃなかったからな。まぁよしとしよう。

 

「あ、エステラさん」

 

 ジネットが店から出てきて、デカい看板を見上げてくすりと笑う。

 ジネットも、意外と派手な物が好きだからな。

 

「やぁ、ジネットちゃん。食材の手配はどうだい?」

「はい、ばっちりです。アッスントさんが、明日の朝に二十四区の教会へ持ってきてくださるそうです」

 

 配達サービスか。

 それは楽でいいな。

 

「それじゃ、ウチからはたい焼きの型と綿菓子器を忘れないように持って行ってくれな」

「はい。……ふふ」

 

 口元を手で押さえ、ジネットはちらりとマグダたちを見る。

 

「マグダさんとロレッタさんが張り切ってらっしゃいますので、忘れることはありませんよ、きっと」

 

 綿菓子とたい焼きを本番で披露したい。

 そんな思いから、この二人は猛特訓を行ったのだ。

 目指すは、ジネットクオリティ。

 

 まぁ、目標にはまだ及ばないが、客に出せるレベルにはなっただろう。

『宴』でデビューを飾ることになりそうだな、二人のたい焼きは。

 

 あとは、お好み焼きとたこ焼きの用意も忘れないように言い含めておく。

 こっちは、向こうで鉄板付きの屋台を組み立てておく予定なので、食材だけ持ってきてくれれば問題ない。自家製ソースだけは絶対忘れないように。

 

「はい。任せてください」

 

 俺は前乗りだが、ジネットたちは当日の早朝に四十二区を出ることになっている。

 今晩は別行動だ。

 

「もう出発されるんですか? もしよければお弁当をお作りしますけれど?」

「ホント!? じゃあ、お願いしようかな。ヤシロ、二十分くらい平気だよね?」

 

 ジネットが弁当を作るのに大体二十分くらい。と、よく分かってやがるな。

 

 おそらく、トルベック工務店の連中の分も作るつもりだろうから数が多くなる。

 が、ジネットが「お弁当でも」なんて言う時は、前もって下準備が出来ている時だ。

 あいつは誰かを待ちぼうけさせるなんてしないからな。準備が整っていて、手早く用意できる自信があるからこその「お弁当でも」だ。

 

 そこら辺を加味しての二十分。

 ま、そこまで大慌てで向かう必要もないだろう。

 

「じゃあ、頼む。エステラ、少し手伝ってやってくれ。マグダとロレッタには、この看板を外させるから」

「……今立てかけたところなのに?」

「こんなに立派な看板ですのに!?」

「休業日は明日なんだよ。まだ早いっつの」

 

 ぷくぅ~っとむくれる二人を残し、ジネットとエステラが店内へと消える。

 

 さて……

 

「抜かりはないか、二人とも?」

「……ふっふっふっ。当然」

「ばっちりうまくやるです……ふっふっふっ」

 

 今回は、この二人にある秘密のミッションを申しつけてある。

 この二人なら、きっとうまくやってくれるだろう。

 

 ジネットの目を盗んで伝授するのは本当に骨が折れた…………まぁ、本番を楽しみにしておいてもらおう。

 

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