「君にしては、珍しく真面目な立案だったね」
「珍しくとはなんだ。俺は常に真剣なんだぞ」
「その『真剣』の方向性が問題あるんじゃないかと、ボクは言っているのだが?」
痛いところを突いてくる。
それには反論できないな。
「しかし、あれだけの服が作れるんなら、ボクもお願いしたいくらいだな」
「いくら出す?」
「早速お金の話かい?」
「無償提供してもらえるとでも思ったか?」
「君に限って、それだけは絶対ないだろうね」
よく分かってるじゃないか。
「しかし、材料費と労力に見合った賃金を支払ってくれるなら作ってやらなくもないぞ」
「ぼったくられそうだ」
「いや。今はいろいろ金が要る時期なんだ。ぼったくるのはもう少し地盤を固めてからだな。まずは信用を勝ち取らないと」
「……そんなことをさせないようにボクが目を光らせておかないといけないようだね」
勝手に光らせているがいい。
俺はその光を避けてうまくやる。どっちにせよ、詐欺なんて陰でこそこそやる商売だからな。
「でも、適正な価格でということなら一考してみようかな。デザインに口は出せるのかな?」
「ある程度の要望は聞いてやる。その代わり、要望が増えればその分料金は上がっていくぞ」
「それは当然だよね。でも、ボクが言いたいのは『動きやすく』とか『丈夫に』とか、そういうことなんだよ。あ、あとは色くらいかな」
「最初に言ってくれれば対応できると思うが」
「そうか……う~ん、どうしようかなぁ……」
発注を真剣に悩み始めたエステラ。
こいつの経済状況はよく分からんが、ある程度は金を持っているような気配はする。
衣服がきちんとしていること。
髪がきちんと手入れされていること。
毎日入浴しているようでにおいがまるでしないこと。
それに、今川焼きを土産に持ってくるような余裕もあるようだし、実は大貴族のご令嬢だったりするのかもしれない。…………ないか。大貴族のご令嬢が孤児の集まる教会に朝飯を集りに来るなんてあり得ないよな。経済的にというより、対面的な問題が先に立つ。要するに「みっともないことをするな」と家族が言うはずだからだ。
が、以前も言ったが、あえて自分を「ボク」なんて呼んでいるあたり、それなりにしがらみのある小金持ちではあるのだろう。
それこそ、オーダーメイドの服を発注しても構わないと思える程度には金を持っているということだ。
だとすれば、真面目に服を作ってやった方が利益になるだろう。
服屋になるつもりはないが、定期的に金を落としてくれるリピーターは大歓迎だからな。
あ、ってことは。
「お前のサイズを測らせてくれ」
「はぁっ!?」
般若みたいな顔がこちらを睨む。
い、いや……エロい意味でじゃなくてだな……
「どうせ作るなら着心地のいい方がいいだろう?」
出来が良ければ二着三着と発注がかかるかもしれないし。
「……もしかして、ジネットちゃんのサイズも……?」
「あぁ。測ったぞ」
「何してんのさっ!?」
「店のためだ」と言ったところ、物凄く恥ずかしがってはいたが測らせてくれた。
……いやぁ、凄まじかった。
「Iカップだったぞ」
「アィ…………ッ!?」
エステラが指折り数えている。
そして、絶望したような表情で肩を落とした。衝撃的過ぎたようだ。
……つか、アルファベットってどうやって翻訳されているんだろう?
ちゃんと意味伝わってるのかな?
「お前の服をジネットと同じサイズで作るわけにもいかないだろう?」
「……それは、新手のいじめだと解釈するしかないね」
胸元スッカスカのブッカブカだ。着られたもんじゃないだろう。
「ちょっとした小物が入れられるぞ?」
「入れたくないよっ!?」
スイカとかの持ち運びに便利かもしれんのに……
「フリーサイズの服でいいよ」
「だとしたら、わざわざオーダーメイドにする意味がないだろう?」
「……サイズは、言いたくない」
「何をいまさら。どうせAカップなんだろ? 分かりきってることなんだから……って、目がめっちゃ怖いっ!」
視線だけで射殺されるかと思った。
「発言を取り消すか、人生をやり直すか、どちらかを選ぶといい」
すでにやり直しの人生真っ只中だっつうのにもう一回やり直せとか無しだろう。この次はきっと六歳からのやり直しだ……それは面倒くさい。
「分かった、訂正する」
俺が言うと、エステラは不服そうながらも納得した表情を見せる。
「『所詮』Aカップなんだろ?」
「どこを訂正してるんだっ!?」
「『どう転んでも』Aカップなんだろ?」
「悪意の塊か、君はっ!?」
腕を組み、そっぽを向いてしまった。
俺から胸を隠したつもりだろうが、横向いた方が胸の凹凸は強調されるんだぞ?
そんなことにも気付かずに、エステラは気分を害したとばかりに頬を膨らませる。
「おぉ、Bカップ」
「ほっぺたにカップ数なんかあるか! あと、ほっぺたに負けたくない!」
今のは、自分がAカップであると自供したようなものだろう?
こいつ、誘導尋問に弱そうだなぁ。
よし、誘導尋問やってみるか。
「あれ、そういえばお前、何カップだっけ?」
「誘導尋問のつもりかな、それは!?」
「急激に知りたくなった。吐け!」
「聞きたいにしても、もう少し言いようがあるだろう!?」
強情なヤツめ!
しかし、こっちには奥の手があるのだ!
「『精霊の審判』!」
「はぁっ!?」
エステラの体が淡い輝きに包まれる。
「さぁ、これで嘘は吐けないぞ! 教えてもらおうか、お前は何カップだ!?」
「………………」
蔑むような視線を俺に向け、エステラはずっと口を閉ざしていた。
やがて、淡い輝きは溶けるように消えていく。
「黙秘って有りなのっ!?」
「嘘を吐かなければ問題はないんだよ」
「そういうことは先に言っておけよ!」
「悪用しか考えない君に教えてやることなんか何一つ無いけどねっ!」
おのれ、エステラめ……っ!
なんて狭量なヤツだ!
憤懣やるかたないヤツだな、まったく!
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