異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

無添加26話 チーム分けと闖入者たち -4-

公開日時: 2021年3月30日(火) 20:01
文字数:3,510

「さっきノーマが言った『ウチで手伝いをしていた臨時雇い』の『ウチ』ってのは、金物ギルドのことじゃない。もっと広い括りの……中央地区、黄組のことだ」

「さすがヤシロさね。いい勘をしてるさよ」

「じゃあもう、ウチの助っ人が誰か分かるよね?」

 

 パウラの嬉しそうな顔に、渋ぅ~い顔で「あぁ」と答える。

 

「『ウチ』が黄組を指すとすれば、そこに最近まで臨時雇いで手伝いをしていて、なおかつこういうイベントに興味を持ちそうなヤツなんかあいつしかいない」

 

 つい先日まで中央地区、大通りに店を構えるカンタルチカで一時的に働いていた――

 

「オシナ――」

 

 そして、パウラとノーマのこの勝ち誇った顔から推察するに……

 

「――と、その親友である、メドラ!」

「大正解だよ、ダァーリィ~ン!」

「さっすがダ~リンちゃんネェ~。お利口さんネェ」

 

 闇の中からオシナとメドラが這い出してくる。

 

「おぉい、みんな! 魔王が復活したぞ、逃げろ!」

「あっはっはっ! 相変わらず冗談が好きだねぇ、ダーリンは」

 

 バッカ、お前!

 ……マジで怖過ぎだっつぅの。闇から出てくんじゃねぇよ。つか、よくあの巨体を隠せたな、闇!?

 

「この二人は、あたしが不在のカンタルチカを守ってくれた、心強い仲間なのよ!」

 

 そういう言い方をすれば、それは間違いではないだろうが……そんな言い方をすると……

 

「……マグダとミリィの貢献が最も大きいけれど」

 

 と、マグダが拗ねるのは目に見えてるだろうに。

 

「う……そりゃあ、そうよ。でも、マグダは黄組に来てくれないでしょう?」

「……無論。マグダは白組のチームリーダーだから」

 

 にべもなく突っぱねて、マグダは颯爽と自陣(まぁつまり、俺の横)へ戻ってくる。

 パウラに一言物申すためにわざわざ表まで出てきたんだな、こいつ。

 

「く……まさか、メドラさんを担ぎ込むとは……」

 

 エステラの顔が焦りの色を濃くする。

 自分で有りだと認めた以上、如何に不利になろうと「やっぱなし!」とは言えない。

 

 いくら助っ人を得たとはいえ、トレーシーでは大した戦力にはならない。

 頼れそうな給仕長枠も、ネネでは期待は持てないだろう。

 エステラ、しくじったな。

 

 だからルシアとトレーシーっていう、ただ面倒くさいだけの相手の時に突っぱねておくべきだったんだよ。リアルなバケモノが参戦してくる前に。

 これ、もう黄組攻略は不可能だろう……いや、ハビエルなら…………でもハビエルならイメルダに付くだろうから、担ぎ出せたとしても赤組か……結局白組に不利な状況に変わりはない。むしろ悪化するだけだ。

 

「おい、英雄」

 

 バルバラが俺の肩をグーで小突く。

 

「どうすんだよ? ちゃんと勝てるんだろうな?」

「俺に言うな」

「お前以外の誰に言うんだよ! お前だけが頼りなんだろ、このチームは!」

 

 ……お前、なんつーことを。

 

「そうです! この絶体絶命な局面を切り抜けられるのは、お兄ちゃんだけです!」

「……チームリーダーとして命ずる。なんとかして」

 

 ほら見ろ。丸投げされたじゃねぇか。

 つか、なんでお前まで俺を頼りにしてんだよ、バルバラ。

 お前は俺を信用してないんじゃないのかよ。……妹のこととなると好き嫌いとか全部度外視して、自分に都合のいいところだけ選りすぐるよな、お前は。

 

「ヤシロさん」

 

 不適に笑うライバルたちと、縋るような味方の視線にさらされる俺の前に、ジネットが立ち、にっこりと微笑みかけてくる。

 

「みなさんで一緒に楽しい時間を過ごせると嬉しいですよね。勝ち負けには関係なく、一所懸命頑張って、一所懸命応援すれば、きっと」

 

 そして、勝敗にこだわらない、いつものこいつらしいことを言い――

 

「でも、優勝できたら、きっと、すごく嬉しいですよね」

 

 ――いつもよりもほんの少しだけ好戦的な表情を見せた。チラッとだけ、だけどな。

 ジネットが優勝したいと言うなんてな……

 

「明日、大雨が降って中止になるかも」

「えっ、それは困ります! みなさん楽しみにされてますのに!」

 

 俺の話を真に受けて焦りを見せるジネット。

 大丈夫だよ。ナタリアが太鼓判を押してたんだから。明日は晴天。どっピーカンだって。

 

「……じゃあまぁ、何か手はないか、考えてみるかな」

 

 ほんの少しでも、勝率が上がる方策を。

 

「ヤシロさん!」

「お兄ちゃん!」

「……パパ」

「おい、マグダ! お前、それは違うだろ! いちいち面白いこと言おうとしなくていいから!」

 

 要するに、助っ人はOKなわけだ。

 なら、ウチに協力してくれそうなヤツを引っ張ってくればいいんだよな。

 まぁ、最悪勝てなくても、ボロ負けさえしなければ……

 

「そういや、ダーリン。聞いた話だと、優勝したら……好きな人のお嫁さんになれるんだって?(てれてれ)」

 

 はぁ!?

 

「誰がそんな危険なことを言ったよ……?」

「三十五区の領主さ!」

「……お前、いつからそこに潜んでたんだよ」

 

 あの不治の病末期領主……余計な火種をばら撒きやがって。

 

「ダーリンと愛の共同戦線を張れないのは残念だけど……永遠の愛のために、アタシはあえて鬼になる!」

 

 いや、お前は普段から鬼以上に恐ろしいだろうが。

 

「最初はメドラちゃん、『ダーリンと同じチームじゃなきゃやだ~』って言ってたのネェ。だからオシナ的にも、メドラちゃんとはチーム別々になっちゃうかもネェ、残念ネェ~って思ったネェ。でも、オシナが働いたのはカンタルチカだから、しょうがないって思っていたネェ」

「つまり……」

「三十五区の領主さんの言葉で、メドラちゃん、オシナと同じチームになれたネェ。オシナ的に、ちょ~はっぴぃ~ネェ☆」

 

 ……ルシァァアアアア!

 お前さえ余計なことを言わなければ、メドラは白組に………………いや、待て待て。もしそうなったら『愛の共同戦線』だったわけか……くそっ、どっちも素直に歓迎できない! メドラが敵でも味方でも!

 

「ダーリン! ……明日、楽しみにしてるからネ☆」

 

 メジャーリーグのホームラン王のフルスウィングみたいな風を巻き起こすウィンクを炸裂させ、メドラが意気揚々と光るレンガに照らされる街道を去っていく。

 

「明日に備えて、今日はカンタルチカに泊まらせてもらおうじゃないか!」

「えっ!? ウチに!?」

「早く寝て体力を蓄えるのさ! さぁ、あんたらもさっさと帰って寝るんだよ!」

「えっ!? 本気でウチに泊まるの!? ウチ、そんなに広くないのに!?」

「気にすんじゃないよ! あんたと同じ部屋で構わないからさ!」

「それじゃあたしが眠れないって!」

「じゃ~、オシナも一緒におねんねするネェ~」

「無理だよ!? そんな広くないから! メドラさん一人でぎゅうぎゅう……って、聞いてよぉ! ねぇ!」

 

 悪意なく迷惑なメドラと、悪意満載で迷惑なオシナに押しかけられるパウラは気の毒だが……明日の有利を得た代償だ、甘んじて受けろ。

 そして、ノーマが存在を完全に消して我関せずを貫き通している。……したたかだな、女って!

 

「ヤシロさん……あの……」

 

 物凄く不安そうな瞳が、俺を見つめている。三人分。

 

「……メドラママは、冗談が通じないピュアな乙女」

「負けたら、割と本気でお兄ちゃんが四十一区に連れ去られちゃうです!?」

 

 やめて、二人とも。縁起でもないから……

 

「ルシアさんとメドラさんは……確かに、ちょっと危険だね」

 

 エステラも、あの二人の本気度には危機感を覚えているようだ。

 

「ボクたち青組が頑張って優勝すれば――」

「私とエステラ様が、晴れて結ばれ……ごふぅっ!」

「トレーシーさんが勝手な想像して盛大に吐血したぁ!?」

 

 腰に巻きついていた変態領主を完全に意識の外に追いやっていたのか、エステラが迂闊発言をしてトレーシーの寿命を盛大に縮めた。

『優勝すれば好きな人の嫁になれる』なんてのは、そこら辺の変態たちには刺激が強過ぎるワードなんだな。

 

「……ヤシロ、どうしよう…………ボク、協力できない」

「まぁ、開会宣言の時に『そんなルールはない』って明言しておく必要はありそうだな」

 

 それで、あの我が道を行く二人が大人しくなるとは思えんが……トレーシーくらいなら落ち着かせられるだろう。

 

「あの……ヤシロさん…………」

 

 不安が大きな瞳から溢れ出し、頬を強張らせて、唇を微かに震わせる。

 そんな表情で、ジネットが俺の服の裾をきゅっと摘まむ。

 

 はぁ……こいつはいよいよ負けられねぇな。

 

「エステラ……焚きつけたのはお前らだからな?」

 

 俺が誰を引っ張ってこようと、お前らに文句を言う筋合いはないからな?

 ったく。『区民』運動会だっつってんのに、完全に侵略されちまったな。

 しかし、勝つためには手段を選んでいられない。

 あの怪物たちを抑えつけるための準備だけは、しっかりとやっておかなきゃな。

 

「こんなつもりじゃ、なかったんだがなぁ……」

 

 そんな俺の愚痴に言葉を返す者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

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