異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加38話 玉入れ~スポーツマンシップに則って~ -5-

公開日時: 2021年3月31日(水) 20:01
文字数:2,951

「ウッセ!」

「んだよ!?」

「お前の中にあるその鬱屈した負の感情、子供たちの投げた玉にぶつけると言うなら代わりにこの俺にぶつけろ!」

 

 カゴの真下に立ち、両腕を広げて叫ぶ。

 

「子供たちの純粋な頑張りを守るためなら、俺はこの身を捧げてやる! 惜しみなく!」

「ヤシロさん……子供たちのために、そこまで……っ!」

 

 な~んにも聞かされていないジネットが感動に瞳を潤ませる。

 ウッセやエステラは胡散臭そうな顔で俺を見ていたが、ジネットの純粋な涙に会場にいた多くの観客は俺に対し好意的な感情を向けている。

 

 ふははは!

 どーだ!

『いい人』には攻撃できまい! お人好しのお前らならなぁ!

 これぞ、『世間の目バリアー』だ!

 

「だったらお望み通り、テメェにこの怒りをぶつけてやるよっ!」

「「「うおぉりゃぁあああ!」」」

「ぅおおおい!? ちょっと!?」

 

 ウッセの言葉を皮切りに、狩猟ギルドのオッサンどもから物凄い剛速球が俺目掛けて放たれた。放たれまくった。

 なにマジで投げてんだよ!?

 速っ!?

 怖っ!?

 これ当たったら骨やられる!

 

「ちょこまか逃げんな、オオバァ!」

「いやっ、これはっ、体がっ、勝手にっ!」

 

 流星群のように飛んでくる青玉をかわしながら、次のバリアー発動を待つ。

 早くしろ、ルシア!

 

「そこまでだ、子供たちの敵め!」

 

 待ちわびた声が赤組から上がる。

 赤組のカゴの下で、ルシアが俺と同じように手を広げて声を張り上げる。

 

「カタクチイワシが一生に一度のいいことを言った! 私も賛同してやろう!」

 

 俺は割といいこと言いまくってるわ。

 オオバヤシロ名言集とか発売したらミリオンセラーは堅いっつうの。

 

「そなたらの負の感情、この身を以て受け止めてやろう! さぁ、カタクチイワシ同様、私にも玉をぶつけるがよい!」

「う……っ、そ、それは……さすがに」

 

 権力にはめっぽう弱いウッセら狩猟ギルドのオッサンども。

 ……いや、まぁそういう反応が一般的な大人の反応なんだろうが……だったら俺のことも敬えってんだ。いろいろ助けてやったろうが。ったく。

 こいつらは露骨だからなぁ。

 依怙贔屓が過ぎるのだ。

 俺とルシア、どこに差があるというのだ?

 まさか……

 

「巨乳マニアのウッセが貧乳のルシアに優しく対応してるということは……ウッセ、テメェ貧乳に目覚めたか!?」

「そんな目で他区の領主様を見るかっ!」

「ウッセとやら! あの阿呆に一発重い剛速球をぶつけるのだ! 私が許可する!」

 

 ルシアがさっさと裏切りやがった。

 まったく。これだからルシアはここぞという時に信頼できないんだよなぁ……ぶつぶつ。

 

 しかしながら、ルシアが俺に賛同したことで連中の攻撃は封印された。

 ここで俺に牙を剥くことは、俺と同じ立ち位置に立ったルシアにも牙を剥くことになるからだ。

 そんなことが出来るヤツなんて……

 

「都合がいいよ、ルシア・スアレス! ダーリンに媚びを売るあんたを排除してやるよ!」

 

 いたぁ!?

 メドラがとんでもない剛速球をルシアに向かって放り投げた。

 ――が、その黄玉は四つ連続で放たれた赤玉によって弾き飛ばされた。

 

「させない、私が。ルシア様への狼藉は」

 

 ギルベルタが、四発の赤玉を立て続けに黄玉にぶつけて軌道を変えた。

 すげぇ正確無比なコントロール!?

 しかも、一発じゃ押されると判断して瞬時に四発放るとか……あいつもすげぇ給仕長なんだなぁ。

 

「ふん。まぁ、当然それくらいのことは出来ると思っていたけどね」

 

 メドラにしても、本当にルシアに危害を加える気はなかったようだ。

 一応の不満を表明しつつも、給仕長を試したってところか。

 

 ……よかったなぁ、ルシアで。

 トレーシーだったら確実に当たってたぞ。あそこの給仕長には、こんな高等技術期待できないからな。

 

「ちっ! なら、撃ち落とされる前にカゴに入れるまでだ!」

 

 ウッセたちが作戦を変更し、剛速球をカゴ目掛けて放つ。

 しかし、玉入れは『カゴにぶつける』競技ではない。速度を維持しようとすれば、どうしても軌道が直線になる。頭よりも高い位置にあり、尚且つ上を向いたカゴに玉を入れるには放物線を描く必要がある。

 直線の軌道では弾はカゴを通過してしまうのだ。

 

「ちぃっ! なら、カゴの縁にぶつけて落とす作戦で……!」

 

 しかし、カゴを支えているのはエステラの家の給仕だ。

 豪胆さでナタリアには遠く及ばない非力な少女たちが支えるカゴは、狩人が全力で玉をぶつける衝撃には耐えられない。それ自体の重量も相まって、カゴがぐらぐらと揺れ動く。

 無理を続ければ倒れてしまうだろう。

 

「待つんだ! カゴを倒すのはマズい! 放物線を意識して!」

 

 エステラの指示が飛ぶが、放物線を描くためには球威を落とす必要があり、そうなれば――当然、マグダたちに撃墜される。

 

「くそぉ! どうすりゃいいんだよ!」

「落ち着きなウッセ! ポイントを稼ぐ人員と、敵の妨害を妨害する人員に分かれるんだよ! マグダたちの玉を迎撃して、自軍の玉を守るのさ!」

「それしかねぇのか、チキショウ!」

 

 メドラの指示に従い、青組と黄組はポイントゲッターと防御の2チームに分かれ、それぞれのチームの玉を守ることに徹した。

 さすが狩猟ギルド。マグダたちの妨害玉をことごとく撃ち落としていく。

 しかし……

 

「あれ!? ナタリア、玉がないよ!?」

「狩猟ギルドのみなさんが物凄い勢いで敵地陣地へ向かって投げているせいでしょう」

「ちょっと、狩猟ギルドのみんな! ストップストップ! カゴに入れる玉がなくなっちゃうから!」

「けどよぉ! ここで手を休めたら全部撃ち落とされちまうじゃねぇか!」

「カゴに入れる玉がなくなったら本末転倒じゃないか!? ……っていうか、どうして白組は玉がなくならないんだ? 同じ条件のはずなのに……」

 

 こちらの誘導にまんまとハマり、タマ切れを起こした青組と黄組。

 その間に、白組はマグダたちも含めて全力でポイントを稼いでいく。

 

 エステラ。不思議か?

 なぜ白組の玉がなくならないのか……それはな。

 

「あぁっ!? ロレッタ!」

「むふふふ! ここ一番で頼れる縁の下の立役者! 陰の主役! ロレッタちゃん全力前進です!」

 

 ロレッタが、マグダたちが投げた玉を回収していたからだ。

 迅速に、且つ目立たずに。

 

「ロレッタ! ナイス地味!」

「地味って言わないでです! あえて隠密に徹していたですよ! ステルスロレッタです!」

「くそっ! 投げた玉を拾うだなんて……あんな普通な作戦にっ!」

「普通もやめてです! 効果絶大ですから!」

 

 ロレッタの活躍により、こちらの玉は一つも無駄になっていない。

 人員を攻撃と防御の2チームにしか分けられなかったお前たちの負けだ!

 

「何やってんだい! あんたらも玉を拾いに行くんだよ!」

「「「えぇ~! あたしたちがぁ~!?」」」

「いいから行っといで!」

「「「え~ん! メドラママのいけずぅ~!」」」

「ほっほ~ぅ、金物ギルドの乙女たちがタマタマ求めて右往左往やなぁ~」

「「「いや~ん、レジーナちゃんのえっちぃ~!」」」

「早く拾っといで!」

 

 完全に後手に回った青組と黄組。

 ガキメインの編成だと甘く見ただろ? ガキの中にはハムっ子も数人いるんだよ。

 白組と赤組は持ち玉十分。今さら慌ててももう遅い。

 狩猟ギルドの力自慢が遠慮なく投げ飛ばした玉はそうそう拾い集められるものではなく……補給がままならないうちに、玉入れは終了した。

 

 やっぱ競技ってのは頭を使わなきゃダメだよな。うん。

 

 

 

 

 

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