異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

挿話10 異世界詐欺師VS異国の詐欺師~序章~ -2-

公開日時: 2020年12月20日(日) 08:01
文字数:2,472

 門の先には、美しい街並みが広がっている。

 海に近いこの場所は、魚の売買で栄えている。ここから街全体へ魚が運ばれていくのだろう。

 

「と、そんなことよりも……」

 

 私は、ヌメヌメになったローブを脱ぐ。

 もともと、街に入ったらローブは脱ぐつもりだったのだ。

 ローブの下は、動きやすい身軽な服を着ている。

 胸を強調した露出の多い服と、太ももまであらわにした走りやすい短パンだ。ひざ上まであるブーツのおかげで、露出は抑えられ、娼婦のようには見えないだろう。いやらしさではなく、オシャレな露出だ。

 とはいえ、そこいらの男ならホイホイ引っかけられるだろうが……

 

 例えばあそこの、乗り合い馬車に並んでいる男たち……

 

「もう、なんでこんな遠いところから依頼が来るッスか!? 帰るのが一苦労ッス!」

「依頼受けたのは、……棟梁」

「そうですよ。陽だまり亭のお弁当もあるんですし、機嫌直して仕事してくださいよ」

 

 並んでいるのではなく、馬車に乗ろうとするキツネ顔の男を、ウマ顔の大男と、ひょろ長い男が説得しているようだ。

 

「いやッス! オイラ、マグダたんの顔を見ながらでないと食事が喉を通らないッス!」

「それ……マグダちゃんが嫁に行くと同時に、棟梁の人生が終わるシステム」

「ヤンボルド! バカなこと言うなッス! マグダたんは嫁になんか行かないッス!」

「いや、いつかは行くでしょう……棟梁、もう少し現実に目を向けてくださいよ」

「黙るッス、グーズーヤ! お前の給料を全部マグダたんにつぎ込むッスよ!?」

「それ、横領ですよ、棟梁!? どうせなら、デリアさんにつぎ込みますよ、僕は!」

 

 女の話で盛り上がる……こういう男どもはすぐに引っかけられる。

 

「ねぇ、お兄さんたち」

 

 相手によって口調を変える。これは詐欺師の常套手段。

 

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかなぁ?」

 

 大きな荷物が重くて持っていられない……という演技で荷物を地面へと下ろす。その際、これでもかと胸元を大きく強調する。

 これでつられない男なんて……

 

「ギャー!」

「え、なに!?」

 

 突然、キツネ顔の男が叫び声を上げて走り去ってしまった。

 なんなのよ……?

 

「棟梁の女性許容量を大きく超えた…………棟梁には、刺激が強過ぎた」

「まぁ、普通にしゃべるだけでもオーバーヒート気味ですもんねぇ」

 

 ウマ顔の大男とひょろ長い男が呆れ顔で話している。

 女性許容量? オーバーヒート?

 

 はっ!? いけない。

 おかしな人間が多いのがこの街、オールブルームなのよ。

 いちいち気にしない。

 逃げたヤツのことなんて気にしない。ここは残された男どもをたぶらかし、昼飯くらい奢らせてやらなきゃ。

 

「実は、私ぃ~、おなか空いちゃってるんだけどぉ~……お兄さんたち、どこか美味しいお店知らないかなぁ?」

 

 ここでさらに胸を強調して、グググッと身を寄せる。

 

「あとぉ……今夜泊まるところも決まってないんだけどぉ…………どこかいい場所、知らない?」

 

 これで、下心をくすぐられた男はあり得もしない妄想に掻き立てられ、ご飯を奢り、贈り物をしてくれる下僕と化す。微かな希望を手中に収めるために…………ふふ、男なんてチョロいもんよね。

 実際、この二人は私の大きな胸に視線が釘付けだ。

 

「…………キズ」

 

 馬顔の大男が、胸の谷間にある傷を見つけたようだ。

 このキズは、前に詐欺でヘマを踏んだ時に負った傷なのだが……場所的に心臓病の手術をしたようにも見える位置なので、今では詐欺に使わせてもらっている。

 病弱なお嬢様を演じる際に、最高の小道具となってくれるのだ。

 

 なら……手術を乗り越えて元気になった女の子が、その記念に旅行に来ている――って設定にしよう。そういう『頑張って乗り越えた女』に弱い男も数多くいる。

 そういう事情があると知れば、財布の紐も緩むというものだ。

 

 嘘なんていくら吐いても構わない。

 こいつらに二度と会わなければ、嘘は発覚しない。

 嘘さえバレなければ、『精霊の審判』にかけられることもないのだ。

 

「はい……実は、このキズは……その昔心臓の……」

「……豊胸手術」

「…………は?」

「偽おっぱい乙」

 

 偽……

 

「ち、違うわよ! 本物! これ、自前だから!」

「……ナイスジョーク」

 

 それだけ呟くと、ウマ顔の大男は歩き出してしまった。

 

「なっ!? ちょ、ちょっと! 嘘だと思うなら『精霊の審判』かけてみなさいよ! 自前だから! 本当に!」

 

 聞く耳も持たず、ウマ顔の大男は行ってしまった。

 ……なんなの? なんなのよ、ここの連中は!?

 

 チラリと見ると、ひょろ長い男が困ったような表情を浮かべていた。

 見たところ、さっきの二人よりも立場の低い、三流の男……まぁ、しょうがないからこいつでいいか。

 

「お兄さん……私の胸……変かな?」

 

 お前の知り合いのせいで傷付いたのだと暗に訴え、良心をくすぐる作戦だ。

 

「へ、変じゃない……です、よ?」

 

 胸をチラチラ見ながらしどろもどろになっている。

 よし、堕ちた。この男は余裕。

 

「じゃあ……お兄さんは、私の胸…………好き?」

「いや。特に」

 

 …………は?

 

「デリアさんの方が大きいですし、形も、張りも、あと香りもいいです! あぁ、デリアさん! 会いたいです、デリアさ~んっ!」

 

 くるくると踊るように、ひょろ長い男は行ってしまった。

 

 ………………ま、まぁ?

 好きな女がいるんじゃ、そりゃ仕方ないわよね。

 べ、別に、私の胸がそのデリアとかいうのに負けたわけじゃないし?

 そういう一途な男も、いるっちゃいるわけで……別に悔しくなんかないし! 全然!

 

「あんだよ!? なに見てんだよ!?」

 

 遠巻きにこちらを見ていた町民どもに、思わず怒鳴り散らしてしまった。

 ……いけない。こんな醜態をさらしたんじゃ、ここにはいられない。何より、この地区は肌に合わない。相性が悪い。きっと縁起の悪い場所なのだ。

 そうだ。そもそも、半魚人に抱きつかれたあたりから運がなかったんだ。

 場所を変えよう。

 

 と、乗り合い馬車の看板を見ると……

 

「……四十二区」

 

 この馬車は四十二区方面へ向かうらしい。

 四十二区……確か、しみ抜きのうまい婆さんがいる区だ。

 なら、そこに向かってみるか……ついでに、カモにしてあげるわ、四十二区のみなさん……うふふ。

 

 

 

 

 

 

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