異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

226話 準備は上々、そして訪れる招待客 -2-

公開日時: 2021年3月23日(火) 20:01
文字数:2,096

「ヤシロさん。ジネット」

 

 とことこと、ベルティーナが何人かのガキを引き連れてやって来る。

 懐かれてるなぁ、初対面のガキにも。

 

「よぅ、食べる担当」

「うふふ。その自覚はちゃんとありますよ」

 

 こっちが準備してる時に手伝いもしないでってイヤミだったんだが。

 まぁ、ベルティーナがガキどもを一手に引き受けてくれているから、こっちの準備が捗ってるんだけどな。

 

「ジネットがここにいるということは、もう準備が済んだのですか? 子供たちがお腹を空かせているようですよ」

「子供たち『も』だろ」

「うふふ。否定はしません」

 

 ガキをダシに、何か食い物にありつこうという魂胆か。

 

「下準備は終わったので、あとは始まる直前に作るだけなんです……けど、まだ先ですよ?」

 

 ジネットはもう準備を終えたらしい。

 あとはちゃちゃっと仕上げるだけでいいようだ。

 とはいえ、飯が出てくるのはドニスたちが揃ってから、つまり昼過ぎになる。

 

 ……うむ。まだまだ時間があるな。

 

「ソフィー」

「は、はい!」

 

 ベルティーナに会ってから、ずっとそわそわと落ち着かないソフィー。

 相当憧れているようだ。

 気が付けばぽぉ~っとした目で見つめていたりする。……トレーシーがエステラを見つめるような目で。

 

「ガキどもって朝飯食ったのか?」

「はい。みなさんがお見えになる前に」

 

 俺たちがここに着いたのは九時前くらいだ。四十二区と同じ時間に朝飯を食っていたのだとしたら、そろそろ小腹が減ってもおかしくはない。

 ずっと走り回ってるもんな。竹とんぼを追いかけて。

 

「『宴』の最中に腹減ったコールとかされると厄介かもしれんな」

「うふふ」

 

 隣でジネットがこれでもかとにこやかな笑みを漏らす。

 ……んだよ。

 

「では、今のうちに軽食を食べさせてあげた方が『都合がいい』ですよね」

「…………何が言いたい?」

「いいえ。含むところはありませんよ」

 

 嬉しそうに言って、満面の笑みを見せる。

 絵に描いたような「言ってやった」感満載の表情だ……生意気な。

 

「青竹踏…………軽食でも作るか」

「青竹踏み、今は絶対関係ないじゃないですか!?」

 

 過剰反応を見せるジネット。

 俺をからかおうなんざ百年早いんだよ。

 

「何かを作るのですか?」

 

 ソフィーが少し怪訝な表情を見せる。

 

「間食は体にも教育にも経済的にもあまり勧められません」

 

 お堅いなぁ、相変わらず。

 こうと決めれば梃子でも動かない。

 ベルティーナを見習って柔軟な思考を身に付けてもらいたいもんだ。

 …………ベルティーナほど柔軟過ぎるのもどうかと思うけどな。食に関してのみ。

 

「ベルティーナが腹を空かせているんだと」

「えっ、ベルティーナさんが!?」

「このまま放置すると、泣くかもしれん」

「そんな、まさか。ベルティーナさんが……」

「……みぃ」

「鳴きましたね!? すごくきゅんとする声で!」

 

 ベルティーナも、面白そうな方に乗っかるようになってきたな。

 もしくは、ソフィーを納得させれば何かが食べられると踏んでの行動か。

 

「シスターは、お腹が空き過ぎると、子供たちのほっぺをはむはむするんですよ」

「マジでか!?」

「はい。わたしも、幼い頃に何度となく」

「もう、ジネット。それは家族だけの内緒ですよ」

 

 はむはむされてぇ!

 それ、もはやほっぺチューだからね!

 

「ソフィーさんは、色白でほっぺたも柔らかそうですから、食べられちゃうかもしれませんよ」

 

 くすくすと、ジネットがそんな冗談を言う。

 そんな冗談を受けて、ソフィーは――

 

「ベルティーナさんに食べられるのなら本望です!」

 

 ――冗談にならないマジなトーンで叫んだ。

 はい。トレーシーコース確定。お気の毒様です。

 

「はっ!? いえ、違いますよ。そういう意味ではなく、あの、……い、いい意味で!」

 

 いい意味で食べられたいってどういうことだよ。

 お前は因幡の白ウサギか。

 

「いいではないですか、ソフィー」

 

 バーバラがかたかたとからくり人形のような速度で近寄ってくる。

 ここが薄暗いダンジョンの中だったら逃げるか迎撃してるだろうな、うん。

 

「今日は特別な日。楽しい記憶は、子供たちの心を豊かにし、未来の可能性を広げるものですよ」

「また、そうやって……バーバラさんは子供たちを甘やかし過ぎです」

「……みぃ」

「今日だけは許可しましょう! 特別な日ですから!」

「ベルティーナを甘やかすんじゃねぇよ、ソフィー」

 

 誰に対しても毅然とした態度を取れる人間というものがいないのか、この街には。

 

「なんだ? なんか作んのか? あたいもちょうど腹減ってきたところなんだよなぁ」

「あ~、私も~☆ 何か食べた~い☆」

「ぁの……みりぃも……ちょっと、ぉなか、すいた……な」

 

 食い物の気配を感じ取ったのか、女子たちが群がってくる。

 ……ベルティーナが感染している。四十二区に。危機的状況だ。

 

「しょうがねぇなぁ……」

「はい。しょうがないですよね、ヤシロさん」

 

 だから、なんでそんな嬉しそうな顔してんだっての。

 俺が誰かを甘やかす度ににこにこすんのやめてくんない?

 

 いや、別に甘やかしてないけどな!

 

「オイラも、朝から動き詰めでお腹空いたッス」

「お前は働けよ」

「酷いッス!? マグダたんの姿が見えない中でも頑張っているッスのに!」

 

 知らねぇよ。

 空腹とマグダは関係ないだろうが。

 

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