異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

125話 参加者を押さえる -2-

公開日時: 2021年2月1日(月) 20:01
文字数:2,318

「それじゃ、ボクはもう行くよ。ヤシロ、予選会は明後日でいいかい?」

「あぁ。お前の都合のいい日でいいぞ。四十二区の代表者選考だからな」

 

 領主代行が不在では決められないだろう。

 と、視線で送っておく。

 

「了解。それじゃ、またね」

「おう」

「…………」

「……なんだよ?」

「いや、何か言いたそうな顔をしているなぁって思ってさ」

 

 エステラが俺の顔を覗き込んでくる。

 別に言いたいことなんかないぞ?

 ……あ、そうか。これは催促か。そうなんだな? まったく、どいつもこいつも甘えん坊化しやがって。

 

「はいはい。気を付けて行ってくるんだぞ」

「なんだよ、それ?」

「優しいお見送りの言葉が欲しかったんだろ?」

「あのねぇ……ボクはそんな甘えん坊じゃ……まぁ、いいや。じゃあね」

「おう、行ってこい」

 

 エステラを見送ったところで、俺もそろそろ出発しなければいけない時間だな。

 

「それじゃあ、俺も行ってくる。留守を頼むぞ」

「はい。お気を付けて。あの……」

「ん?」

 

 声をかけられ振り返ると、ジネットがなんだかもじもじしている。

 

「漏れそうか? 見送りはいいから早く行ってこい」

「ち、違いますよ! あの……こういうことを言うと、ちょっとどうかと思うんですが……」

 

 半歩身を寄せて、ジネットは遠慮がちに囁く。

 

「お早いお帰りを……」

「……え?」

「いえ、あの……ヤシロさん、最近働き詰めですので……あまり無理をしないでほしいなぁ……って…………あの、すみません。なんだか、差し出がましいことを」

 

 ……ジネットが、甘えモードに入っている?

 俺は、何かフラグでも立てたのだろうか?

 

「まぁ、今日は参加予定の選手に話をつけに行くだけだ。そんな大変な用事じゃねぇよ」

「そう、ですよね。あはは……わたし、なんだかダメですね」

「疲れてんじゃないのか? 今日はマグダたちがいるんだから、ちょっと休ませてもらえ」

「はい。そうします」

 

 疲れていると人恋しくなるものだからな。

 

「……ヤシロ」

 

 噂をすれば、マグダがすすっと俺に近付いてきた。

 ジッと俺を見上げて、小さな口をパカッと開けてこんなことを言う。

 

「……またね」

「…………なんだよ、それ? いってらっしゃいだろ、普通」

「……いってらっしゃい」

「おう、行ってくる。ジネットと店をよろしくな」

「お兄ちゃん! あたしもいるので安心していいですよ!」

「あと、あいつの暴走も止めておいてくれな?」

「……心得た」

「酷いですよ、二人とも!? あたし、暴走なんてしないです!」

 

 そうやって賑やかに送り出され、俺は一路ミリィのもとへと向かった。

 

 

 

 

 

 店の前で、ミリィがちょこちょこと花の世話をしている。

 

「よう。精が出るな」

「ぁ……てんとうむしさん。いらっしゃいませ」

 

 剪定バサミをエプロンのポケットにしまい、手を拭いて俺のもとへと小走りで近付いてくる。

 

「花束を頼みたい。あまり嵩張らないヤツで」

「ぅん。……プレゼント?」

「あぁ。ちょっとデリアにな」

 

 デリアとは二人きりでデートという約束をしているのだ。

 デートと言えば花束。それが、四十二区での定番になりつつある。

 

「…………ぃいなぁ」

「ん? どうした、ミリィ?」

「ぁ……ぅうん。なんでもないよ。選んであげるね」

 

 にこりと笑い、ミリィが花をいくつか見繕い始める。

 俺がここで花を買う時はミリィにお任せで花束を作ってもらうようにしているのだ。

 ミリィはセンスがいいからな。受け取る方も、どうせならセンスの光るものの方が嬉しいだろう。

 

「こんな感じで、どう、かな?」

 

 少しだけ不安そうに、ミリィが花束を見せてくれる。

 うん、申し分ない。

 

「じゃあ、それを頼む」

「ぅん…………ぁ、ちょっと待っててね」

 

 少しボーっとした後で、ミリィは慌てて店内へと入り花をラッピングしてくれる。

 ……もしかして、花を提供するばかりで、ミリィは花束をもらったことがないのかもしれない。以前俺がミリィにやったのだって、ミリィからもらったものをそのままプレゼントしただけだ。こう、他所で手に入れた花束をミリィに……っていうのはハードルの高いことなんだろうな。

 そういうのも、やっぱり寂しいもんなんだろうかね。

 ……今度、デートにでも誘ってみるか………………いやいや。普通に断られるだろう。ミリィにだって選ぶ権利がある。

 ま、機会があれば花でも贈ってやるくらいがちょうどいいかもな。

 

「ぉまたせしましたぁ」

「ありがとう」

 

 花束を受け取り、さり気なく聞いておく。

 

「そういえば、四十二区内に咲いてる草花って、やっぱ生花ギルドの管轄下にあるのか?」

「ぇ? ……ぁ、ぇと……森、は、生花ギルドの管轄下だけど、他は、特に」

 

 河原に綺麗な花が咲いていたんだよな。

 アレを花束に出来るなら、ミリィを驚かせることが出来るかもしれない。

 

「ぁの……てんとうむしさん」

 

 そんなことを考えていると、ミリィが俺に控えめな視線をチラチラと向けてきた。

 料金の督促かと思いきや、そうではなかった。

 

「また……みりぃと一緒に……もり、行ってくれる?」

 

 森へ?

 それはまぁ、構わんが。

 

「また、俺が食虫植物に食われるところでも見たいのか?」

「ぁぅ……ち、ちがうよぉ」

 

 わたわたと手を振り、困った顔を見せるミリィ。

 しばらくは大会の準備で時間が取れそうにないからなぁ、返事に困るぜ。

 

「あ、そうだ。ミリィってどれくらい飯食うんだ?」

「ぇ……ごはん? ふつうだよ?」

 

 まぁ、ミリィがドンブリ三杯も四杯も食うようなイメージはないからな。

 期待薄だな。

 

「明後日、大食い大会の予選をやるんだ。よかったら見に来いよ」

「ゎあ、面白そう。見に行きたいなぁ」

「参加してもいいぞ?」

「みりぃ、そんなに食べないもん」

「そっか。じゃ、花、ありがとな」

「ぅん! ばいばーい!」

 

 大きく手を振るミリィ。

 俺は見送られて、花屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

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