「ゆーぐー!」
「おもしろそー!」
「ぅはははーい!」
遊具に殺到するガキども。
酒に群がるオッサン共。
ドーナツやピーナッツバターに興味津々のレディたち。
会場が一気に賑やかになる。
「お兄ちゃーん! 売り切れー!」
「そんなバカな!? ……マジじゃねぇか…………。ジネット!」
「はい! すぐに追加を作りますね!」
料理をじゃんじゃん作れるように、簡易キッチンも設けられている。
食材は、モーマットやアッスントから大量にぶんどっている。
他にも協力者は多数。そして金はすべて領主持ち!
ここでの出費はかなり嵩むだろうが、領主を接待しておけば、後々の利益に繋がる。――と、エステラを説得して出させた。
そして、俺たちは最低限の出資でおいしい利益を甘受するのだ。
儲けてやるぜ!
そのためにも、盛り上がれ、住民どもぉぉおおー!
「ゆーーーぐ、おもしろーーーーーーい!」
「きゃっきゃっきゃっきゃっきゃっ!」」
「うしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ!」
「ぴぎゃーーーーーー!」
「ぎゃーすぎゃーす!」
……うん。盛り上がり過ぎだ。怪獣かよ。
「あらあら、賑やかねぇ」
「賑やか……というレベルを超えてるでしょう、これは……」
開始から数十分が経過した頃、マーゥルの楽しそうな声が聞こえてきた。
その後に聞こえてきたアホのゲラーシーの声は無視しておく。
自分基準で相手の行動を量るようなヤツの言うことなど、聞く価値がない。というか、ゲラーシーの言葉など聞く価値がない。
「さぁ、みなさん。四十二区がご用意した心ばかりのおもてなしです。心ゆくまでご堪能ください!」
両腕を広げて、エステラが領主たちへと言葉を向ける。
「あとは適当に過ごせや、ボケ!」という言葉に置き換えることも可能だ。
そう言ってやれば面白かったのに。
ぞろぞろとやって来た『BU』の一団は、七領主に各給仕長。
そして、麹工場からリベカと、二十四区教会からソフィー。
あとはどこぞの区の適当な要人らしき人物がチラホラという大所帯だった。
「ベルティーナさーん! お手伝いしますー!」
ソフィーが、来るや否や目聡くベルティーナを見つけて走っていく。
さすがウサギ人族。足が速いなぁ。
「リベカさん! すごく賑やかですね!」
「うむ! それにあっちこっちからいい匂いがするのじゃ!」
「い、一緒にっ、見て回りませんか!?」
「う……うむ…………一緒、が、いい……のじゃ」
俯いて、そっと手を差し伸べるリベカ。
その小さな手を、何度も服で汗を拭ってからしっかりと掴まえるフィルマン。
「な、なんだか……デート、みたいですね」
「う、うむっ、デート……なのじゃ…………むきゅっ!」
「ノーマぁ! そっち、煮えたぎった煮汁があるんだっけー!?」
「お兄ちゃん、不穏な行動は慎むですよ!?」
たまたまそばにいたロレッタに邪魔をされた。
お前は俺とリア充と、どっちの味方なんだ!?
心清らかなる俺と、妬みと怨嗟を生み出し続ける悪の権化のようなリア充の、どちらが正しいと思っているのだ、まったく!
「おぉ、これはこれは! ミズ・エーリン。お久しぶりですな」
「まぁ、ミスター・デミリー。相変わらず……(チラッ)お元気そうで」
「ミズ・エーリンこそ。相変わらず正直な視線をしておられる」
思いっきり視線を頭皮へ向けられたデミリーが顔を引き攣らせている。
そして、真っ先にマーゥルに挨拶をしたデミリーに対し、ドニスが顔を引き攣らせている。
「ふん。毛根はまったく元気ではなさそうじゃがの」
「そちらも似たようなものでしょう、DD!?」
「『雲泥の差』という言葉を辞書で引くがよいぞ、デミリー」
「ではそちらは『五十歩百歩』という言葉を……!」
「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて。ムキになることはないわ。だって、ほら。つるんとしているのは可愛らしいじゃないですか」
「わし、抜こうかな!?」
「早まるなDD! 『覆水盆に返らず』『後悔先に立たず』という言葉があるんですよ!」
なんか、仲いいな。あそこの頭皮コミュニティ。
あ、デミリーとリカルド、あとハビエルもすでに会場にいるんだけど、別に言及しなくてもいいよな? 興味ないだろ? いつも通りだし。
ただ、マーシャが遅いんだよな、マーシャが!
「ダァァァアアアーーーーリィィィーーーーン! アタシが来たよー!」
「やほ~☆ ヤシロく~ん、遅れてごめんね~☆」
マーシャが来た!
おぉっと、不思議なことがあるもんだ。水槽付き荷車がひとりでに動いている!
「……ヤシロ。メドラママのオーラをスルーするのは、現存するいかなる生物にも無理。不可能」
「……分かってるよ。どこに視線を逃がしても視界に割り込んでくるんだよな、あいつの巨体とオーラ」
たまたま通りかかったマグダに突っ込まれ、俺は現実を受け入れる。
「珍しいな、メドラがマーシャの荷車押してくるなんて」
「契約したの~☆」
契約?
メドラに荷車を押させるなんて、相当な暴挙と言える。
それを承諾させるほどの契約……どんな見返りを?
「私の荷車を押してくれると、ヤシロ君がメドラママに『あ~ん』してくれるよ、って☆」
「なんで俺だ!?」
ふざけんな、なんで俺が!?
「うぅ……ヤシロ君がやってくれないと、私、カエルになっちゃう…………そうしたら、折角動き始めた港の計画も、四十二区へ格安で譲ろうと思っていた魚介類もみんなパーになっちゃうよ~ぅ……しくしく……」
……こいつ………………ズルい……なんてあざとい女なんだ。
マグダとは方向性の違うあざとさだ。悪女だ悪女。
「え~んえ~ん……チラッ……めそめそ……チラッ」
「……分かったよ」
「ホントかい、ダーリン!?」
「………………一回だけだぞ」
「やったよぉおおお! 人魚の言うこともたまには信じてみるもんだねぇ!」
「勝負下着が効力を発揮したのかもねぇ☆」
「あぁ! 穿いてきてよかったよ!」
「何を入れ知恵したんだ、マーシャ!?」
「オンナノコの、お・ま・じ・な・い☆」
嘘だ!
確実に遊んでやがる!
メドラを手玉にとって腹の中で笑い転げているに違いない!
なんて女だ……マーシャ、恐ろしい娘。
「じゃあ、甘い物でいいか?」
「うん! ダーリンに食べさせてもらったら、四十区の激辛チキンも甘いお菓子になっちまうよ」
いや、それはない。
さっさと終わらせるべく、俺は手近にあったビワのタルトを一つ手に取り、メドラに向けて差し出した。
「あ……あ~ん」
若干、ヤンキーが因縁を付ける時の「あぁ~ん?」っぽいニュアンスになっちまったが、そこはガマンしてもらおう。俺のせいじゃない。
「あ、あ~ん…………んっ!? んんっ!?」
俺を一飲みに出来そうな大きな口が近付いてきて、器用に小さなタルトを奪い取っていく。
そして、タルトを咀嚼するや、体をビクンビクン震わせ始め……最終的に地べたへとへたり込んでしまった。
「こ………………恋の味が、したよ…………ぽっ」
「お~い、誰だ。こんなところにこんなもん不法投棄したの?」
「たぶん、それねぇ~、ヤシロ君だと思うなぁ☆」
はっはっはっ、冗談やめろよ。
俺はこんなもん、一瞬たりとも所有した記憶はないぜ。
「お、おい……あれ」
「う、うむ……まさか、オオバヤシロ……」
「魔神も裸足で逃げ出すという狩猟ギルドのギルド長を……」
「完全に手懐けているというのか…………勝てぬはずだ。勝てる道理がなかったのだ」
「「「「う~む……」」」」
と、ゲラーシー他、二十三区、二十六区、二十八区のアホ領主たちがぶつくさ言っている。
誰が手懐けてるか、こんなもん。
勝手に懐いてんっだっつの。
手懐けるっていうのはだな……
「エステラ様、このドーナツ、とても美味しいですよ。半分こいたしましょう」
「あ、あのトレーシーさん。別に半分こでもいいんですけど、一つずつ食べればいいのでは?」
「そんな、私とエステラ様の間でそんなこと、水くさいです」
「水くさくはないと思うんですが……」
「では、私がこちらから食べますので、エステラ様はそちらから」
「えっ、割らないの!?」
「端っこからもぐもぐ食べ始めて、もぐもぐもぐもぐ……ちゅっ……きゃっ!」
「ネネさぁーん! 大至急来てー! お宅の主が大変なことにー!」
……あぁいうのを言うんだよ。
くそ、エステラめ。うまい具合に隠れ巨乳を手懐けやがって、羨ましい。
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