「買ってきたッスよ~!」
「暑いでござる! 川に飛び込みたい気分でござるな」
「オレは洗いたい……」
男三人がむさくるしい顔をして戻ってくる。
その両脇にパウラとネフェリーがいた。
「ほらほら。弱音吐かないの! 男でしょ!?」
「こんな美女二人と一緒に歩けるんだから、役得でしょ? ね、ネフェリー」
「そうよ、感謝しなさいよね」
おぉう……肯定しやがったか、ネフェリー……
「何を買ってきたんだ?」
「あ、ヤシロさん。おはようございますッス」
「拙者たちの水着と、あとはお酒でござる」
「酒なんか飲んで川に入るなよ?」
「あたりめぇだろ、兄ちゃん。こいつは冷やしておいて、あとで飲むんだよ」
まぁ、それならいいが。
「それじゃ、先に俺たちが着替えてくるな。おい、行くぞ」
「あ、はいッス」
「心得たでござる」
「オレも行くぜ」
「いや、オメロはもう水着着てんだろ」
「……この中に一人残されるくらいなら、オレは帰るぜ」
「…………なんでこう、この街の男は女に免疫ないんだよ……つか、オメロはビビり過ぎだ」
そんなわけで、四人仲良く小屋に入って着替えを始める。
……なんで、こんな狭いところに男四人も…………オメロ、出ろよ。
「ちょいっすー! お待たせーい!」
突然ドアが開け放たれ、チャラチャラとした挨拶と共にパーシーが飛び込んできた。
「きゃー、のぞきよー!」
「ちょっ!? 勘弁してくれよ、あんちゃん!?」
慌てふためくパーシー。
つか、なぜお前がここにいる? 呼んでねぇぞ。どこで聞きつけてきた?
「オレさ……いい砂糖を作るのに必要なものが何か、ようやく分かったんだよな」
なんか語り出した。
俺の隣ではベッコがケツを丸出しにしているというのに、この中途半端イケメンが何かを語り出したぞ? 丸出しのケツの前で。
「それは……愛」
「あ、ベッコ。ケツのホクロから長い毛が生えてるぞ」
「ホントでござるか!?」
「抜くッスか?」
「ダメでござる! ホクロ毛を抜くと不幸になるでござる!」
「なんねぇよ」
「つか、聞けよ、お前らっ!?」
お前の愛よりホクロ毛の方が面白いんだよ。
「オレさ、これまで卵ってあんま食わなかったんだよな。なんつうの? 腹壊したって話、結構聞いててさ。怖いじゃん?」
「卵で腹を壊すなんてのは管理が出来てない証拠だ。四十二区の卵は生でも余裕で食えるぞ。まぁ、新鮮なうちは、だがな」
「そう! そこなんだよ!」
あ……藪蛇だったか……
「それってつまり愛だろ!?」
「殺菌だ」
「ネフェリーさんの愛に満ちた優しさが、卵を安全な食い物にしてんだろって話だよ!」
「ベッコ、ホクロ毛三つ編みにしていい?」
「ダメでござ……三本も生えてるでござるか!?」
「ホクロ毛もういいだろ!? 聞けよ、オレの愛の話!」
要するに、ネフェリー会いたさに卵を買いに四十二区まで頻繁にやって来るようになって、「砂糖作りにも愛が必要だ!」とか、訳の分からん感化をされたんだろ?
「で、日課のストーキングをしていたところ、ネフェリーが出かけると知り、尾行をしたら川に来たもんだから、慌てて水着を買ってきて、ここに駆けつけたってわけか」
「大正解だけど、人聞き悪ぃよ、あんちゃん! ストーキングは無いだろう!? プラトニックラブだぜ! 純愛だよ、わっかんねぇかなぁ!?」
水着見たさに全力疾走するようなヤツが純愛を語るな。
「妹は来てないのか?」
「ウチの妹の水着姿なんか、誰にも見せねぇよ! 嫁にもやんねぇし!」
「うわぁ……ヤシロさん、またこんな変態と知り合いになってたんッスね」
「ホント、変態ばっかりで困ってんだわ、お前も含めてな」
「オイラ変態じゃないッスよ!?」
黙れロリコン。
「まぁ、来ちまったもんはしょうがねぇ。さっさと着替えるぞ。あとが支えてんだ」
男の水着なんぞいくら見たって益はない。さっさと女性陣にここを譲ってやるべきなのだ。
「あ、それからみんな」
俺は重要なことを思い出し、全員に告げておく。
「パーシーの目の周りの黒いの、メイクだから。『絶対に』水とかかけてやるなよ? 『絶対』だぞ?」
「「「へぇ~…………(にやにや)」」」
「あんたら、全員鬼かっ!?」
さっさと着替えを済ませ、俺は小屋を出る。
他の連中が出てくるのを待って、今度はジネットたちが小屋に入っていく。
「では、少し待っていてくださいね」
「おう。手伝いが必要ならいつでも呼んでくれて……」
「ナタリア。監視をよろしく」
「かしこまりました、お嬢様」
くっ……ナタリアだけ先に着替えさせていたのはそのためか、エステラ!?
まぁいい。焦らずとも少しの辛抱なのだ。少しすれば水着パラダイスが向こうからやって来るのだ。待つ時間も宝。そういうもんだろう?
「んじゃ、その間にウーマロ、ベッコ、オメロとチャラ男。手伝え」
「パーシーだっ!」
俺は、荷車から半分に切った長い竹を持ってくる。
流しそうめんをするのだ。
素麺はすでに茹でてあり、水にさらしてある。
めんつゆは俺のオリジナルだ。
とりあえず、竹を組んで準備だけはしておく。
「なんだこれ? 面白そうなことやってんなぁ」
「ぎゃあ!? 親方ぁ!?」
「うひゃあ!? お腹丸出しッスー!?」
「おっぱい『ドーン!』でござるぅぅぅ!?」
デリアの登場に、チーム四十二区の男どもが一斉に悲鳴を上げ、組みかけていた竹は倒壊した。
……何やってんだ、こいつらは。
「なんだよ!? あたいが近くに来たら、そんなにいけないのか!?」
怒りゲージを溜めるデリア。……いかんな、このままでは川が真っ赤に染まってしまう。主にオメロの血で……
今日は楽しいバカンスだ。デリアの機嫌を直しておいてやるか。
「いや、お前の水着が可愛過ぎて、みんな照れてんだよ」
「かわっ!? …………ま、またぁ! ヤシロは口がうまいんだからなぁ!」
ズンッ!
――と、肩の骨が軋みをあげた。
……なんで、俺がこんな深刻なダメージを負わなきゃいけないんだ…………
「兄ちゃん、男だなっ!」
「ヤシロさん、かっけーッス!」
「ヤシロ氏、さすがでござる!」
「美女とさり気にスキンシップ……今のテクニックもらっていいかな、あんちゃん?」
俺の周りに群がって好き勝手騒いでるバカ四人……一回川に沈んでこい……
「まったく。男ってのは、ホ~ントバカだねぇ」
「ぎゃああ! あっちもおっぱい『ぼーん!』でござるっ!?」
「背中っ!? 背中とか見えちゃってるッスよ!?」
ノーマに対しても大騒ぎするウーマロとベッコ。こいつら、今日死ぬんじゃないか? 騒ぎ過ぎて。
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