異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加43話 パン食い競争ファイナル -1-

公開日時: 2021年4月1日(木) 20:01
文字数:2,302

 順調とは言わないまでも、進行していくパン食い競争。

 その次の走者を見て、俺は「ん?」と首をひねった。

 

「モリーだな」

「はい。徒競走での健闘が認められて、青年の部への参加が認められました。

「いやそれ、ただ不利になるだけじゃねぇか」

「面白いかと思いまして」

 

 面白ければいいのか。

 ……まぁ、いいのか。

 そもそも、獣人族は単純に年齢で分けられるような連中じゃないしな。三歳のガキでも俺より力が強いなんてザラだ。

 

 で、そんなモリーの対戦相手はと見てみると、赤組にミリィがいた。

 

「お子様の部?」

「違ぅよぅ! みりぃ、もう成人! ぉとなだょ!」

 

 ぴょんぴょん跳ねて抗議するミリィ。

 え、なにアレ、持って帰りたい。

 

 で、隣の黄組を見てみると、見たことのない華奢な少女が立っていた。

 

「黄組のアレは誰だ? 大通りのウェイトレスか?」

 

 黒髪を高い位置で束ねているのだが、ポニーテールというより侍のような雰囲気だ。

 精悍な顔つきは美少女と呼ぶになんの躊躇いも抱かせない。ただ、少しまだ幼い印象だ。

 年齢は、十二~三歳くらいか?

 

「あれは、金物ギルドの見習いだそうで、たしか名前はルアンナさんだったかと」

「ルアンナ? 初乳だな」

「ですね」

「『初耳』さね! あんたがちゃんと訂正しないでどうするんさよ、ナタリア!」

 

 気付いたら、ノーマがすぐ後ろにいた。

 もうすぐ自分の番だっていうのに。

 

「ルアンナは、アタシを慕ってくれているんさよ。憧れを抱いてくれていて、将来はアタシのようになりたいとまで言ってくれる、可愛い娘なんさよ」

「え、ノーマみたいに……」

 

 まさか、あのルアンナって少女は……

 

「結婚したくない理由でもあるのか?」

「技術面さね、あの娘が憧れてくれてんのは! あとアタシは結婚したくないわけじゃないさね! 今、たまたまそーゆー相手がいないだけさよ!」

 

 いたためしがないのにたまたまとは…………まぁ、本人がたまたまだというのであればたまたまなのだろう。そんなことはよくあることだし、なんにも不思議じゃないし、当然何一つ悪くもなければ気にするようなことでもない。だからその煙管の中で煌々と赤く輝く熱せられたタバコの灰は灰皿に捨てるように。

 

「アタシに憧れてるんはいいんだけど、ちょっと体力に不安がある娘でねぇ」

 

 見た感じ、ルアンナに獣特徴は存在していない。

 獣人族ではなく、人間なのだろう。

 

「獣人族でなきゃ厳しいのか、お前んとこ」

「そうさねぇ…………ウチの乙女たちみたいな体になりゃあ、一人前に仕事が出来るんだけどねぇ」

「えぇ……過酷ぅ……」

 

 あんな、人間の規格を超えたマッチョにならなきゃ無理なのか……

 

「アタシと同じ作業でなく、事務とか接客ならあぁいう娘にも任せられるんだけどねぇ」

「あの娘が憧れてるのは、ノーマの仕事なんだろ?」

「そうなんさよ……努力は買うんだけどねぇ……」

 

 とかなんとか言いながらも、ノーマは随分と嬉しそうだ。

 なんだかんだ、懐いてくれる後輩が可愛いのだろう。

 

 ……でもいいのか?

 あんな美少女があそこの乙女みたいなむきむきマッチョになってしまって……

 

「筋肉は、おっぱいを殺すのに……」

「まだ成長途中の娘相手に、なに言ってるんさね……言うにしても相手を選んでおくれな」

「ノーマのおっぱい、最高☆」

「そーゆーことじゃないさね!」

 

 最も適した人物をきちんと褒めたのに! 理不尽だ!

 

「まぁ、この獣人族たちの中でどれだけの成績が残せるか、アタシがきちっと見届けてやるつもりなんさね」

 

 この獣人族の中、とノーマは言った。

 モリーはタヌキ人族で、ミリィはナナホシテントウ人族だ。

 んじゃ、白組は誰なんだ~と見てみると、そこにはバルバラが立っていた。

 

「テレサが取れなかった一等賞、必ずやアーシがっ!」

 

 特別枠のレースでマーシャに惜敗したテレサの代わりに一位をゲットする……ということらしいが、マーシャを運んでいたのはデリアなわけで、あいつに勝つのは至難の業、というか負けてもしゃーないと思うんだが。

 それでも、意気込まずにはいられないバルバラ。

 キッ……と、救護テントの方へと視線を向けて、こくりと頷く。

 見れば、テントの中でモコカがグッドラックと親指を突き立てていた。

 出場できない親友の分も背負って走るのか。お前はいろいろ背負いたがるな。損をする性分だな、絶対。

 

 と、そんなバルバラを見て、俺はあることに気が付いた。

 そうか、このレース……

 

「全員Bカップだ!」

「あんた、他に考えることはないんさね!?」

「ぁぅう……てんとうむしさん、大きい声で、そぅいぅこと、言わない、で……」

 

 ノーマに怒られ、ミリィに涙目で見られてしまった。

 コースに目を向ければ、モリーとルアンナが真っ赤な顔をして俯いていた。

 しまったな……

 

「ノーマみたいにおっぱい耐性があるわけじゃないんだった。反省せねば……」

「アタシもないさよ、そんな耐性!」

「なんでだよ。おっぱい弄られ慣れてるだろ?」

「誤解を招く発言はやめておくれな!」

 

 いや、俺は特に間違ったことは言っていないはずだ!

 ……が、まぁ。反論するのはやめておこう。大人気ないしな。あと、どう考えても賛同を得られないだろうし、この場所では。アウェーだなぁ、まったく。

 

 運営委員の給仕が腕を上げる。

 スタンバイの合図だ。

 モリーとルアンナが引き締まった顔でぶら下がるパンを見つめる。

 ミリィは少し不安げに、けれどどこか楽しそうな顔をしている。

 そしてバルバラは……

 

「まっすぐ行ってかぶりつく……全速力でかぶりつく……」

 

 意気込みが先行しまくって鼻息が荒い。

 大丈夫かなぁ……バルバラ以外の女子がみんな大人しい上に生真面目そうな娘ばっかりだから……怪我しないか心配だ。

 

 そんな俺の心配を他所に、レースは始まった。

 

 

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