異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

無添加42話 パン食い競争 メインディッシュ -3-

公開日時: 2021年4月1日(木) 20:01
文字数:3,920

 そうして、白熱の第1レースが終了し、第2レースを始めようとしたところで、ちょっとしたトラブルが発生した。

 

「あれの後に走るのは絶対嫌だ!」

「賛同するぞ、エステラ!」

 

 四十二区と三十五区の領主が駄々をこね始めやがったのだ。

 なんでも、あんなにぶるんぶるんしたレースの後に走るのは悲しい気持ちになるとかなんとか。まぁ、言葉は違えど要約すればそんな内容だ。

 

「大丈夫だ。お前らには期待してないから!」

「「大きなお世話だ!」よ!」

 

 各給仕長が説得にあたり、ようやく第2レースが始まる。

 青組はエステラ、黄組はパウラ、白組はイネス、赤組はルシアだ。

 

「パウラとイネスの一騎打ちか……」

「私も参加すると言っているだろうが、カタクチイワシ! 天日で干した後で煮出すぞ!」

 

 そりゃあ、美味い出汁が取れそうだな。グルタミン酸が豊富そうだ。魚ならイノシン酸か? どーでもいいわ。

 

「ヤシロ様。ご指定の通り、メロンパンを第2コースにセッティングしておきました」

「ありがとよ。これでたぶん、面白い物が見られるだろうよ」

 

 パン食い競走は、スタートと同時にコースアウトしても構わない。

 好きなパンを狙ってもいいルールなのだ。

 

 

「位置について、よーい」

 

 ――ッカーン!

 

 

 鐘の音と共に、両サイドのコースから二人の領主が猛スピードで中央へと切り込んでくる。

 

「え、ちょっ!?」

「何事ですか!?」

 

 コースを横切られたパウラとイネスが、凄まじい気迫を纏う二人の領主に目を丸くする。

 

「「メロンパァァァアア……ン!」」

 

『BU』騒動の時は手を取り合っていた二人の領主が正面から激突する。

 

「……ヤシロ様。ルシア様にも?」

「あぁ、言っておいたぞ。『メロンパンはEカップ』って」

 

 その結果、Eカップに群がる領主たち。

 

「末期だな」

「世も末ですね」

「「うるさい、外野!」」

 

 血眼の領主たちに睨まれる俺とナタリア。

 やだ、こわ~い。

 

「しかし、一つではどうにもバランスが悪くないでしょうか。片手落ちと言いますか、片乳お乳と言いますか」

 

 片乳お乳は言わねぇよ。

 けど、これから前向きに言っていこうよ! ね、そうしよう!

 言葉は、俺たち若い世代が作り上げていくものさ!

 

「あいつらの狙いは、無料配布されるパンだ」

「……なるほど。ここで一つメロンパンをゲットしておいて」

「あとでもう一つもらおうって算段だ」

「おそらく……『メロンパン二つ欲しいって言うと~「あ、こいつ、服の中に入れて『Eカップ!』ってやる気だな、ぷぷぷー」って思われちゃうしぃ~』とかなんとか考えているのでしょう、無駄なことなのに」

「あぁ、無駄なことなのに、小さな見栄を張ろうとしているんだ」

「「ごちゃごちゃうるさい! 集中できないだろ!?」ではないか!」

 

 その後も、メロンパン以外目に入っていない領主たちの醜い争いが繰り広げられた。

 が、さほど面白くもないので……もとい、全然揺れないので他に注目しよう。

 …………あ、建前を訂正して本音がぽろりしちゃった。しっぱい、しっぱい☆

 

「難しいものですね」

 

 イネスがぶら下がるクリームパンを睨みつけて、額の汗を拭う。

 そして、もう一度狙いを定めてジャンプ!

 波打つ銀髪。

 弾むEカップ。

 

「本物はいいなぁ!」

「偽Eカップに群がる権力者が滑稽に見えますね」

「「がるるるぅ!」」

 

 あ~あ~もう、争い過ぎて野生化しちゃってんじゃん。

 それよりも、イネスだ。

 Eネスだ!

 

「どうにも思い通りになりません……」

「イネス。髪型を変えてみろ」

「髪型……なるほど、普段しない髪型なので気が付きませんでしたが、このポニーテール(ジネット店長作)のせいで重心が私の意識よりも後ろにずれてしまっているのかもしれませんね。……盲点でした」

「だから、結び目を二つにして、左右に振り分けるんだ」

「なるほど。やってみます」

 

 有言実行。

 迅速対応。

 

 イネスがポニーテールをほどき、結び目を頭の左右二つに分ける。

 そう、ツインテールだ!

 長い銀髪が、可愛らしく頭のサイドに垂れる。

 

「これで、イケます!」

 

 イネスがジャンプ!

 毛先が舞い、顔の振りに合わせて暴れ、踊る。

 顔面に髪の毛ぐちゃー。

 

「邪魔じゃないですか!?」

 

 猛抗議が飛んでくるが、俺は「髪型を変えればうまくいく」なんて言っていない。ただ「変えてみれば?」と言っただけだ。

 見てみたかったしな、イネスのツインテール。

 髪の長い女子はほとんどポニーテールにしているので、ちょこっと変わり種を入れてみたかっただけだ。

 

「まったくもう……」

 

 文句を言いながらも、イネスはツインテールのままレースを続けるらしい。

 なんだかんだ、期待には応えてくれる。そのあたり、あいつも給仕長らしいなと思う。

 

 イネスの向こうでパウラがジャムパンに飛びついていた。

 

「メロンパンの次に狙ってたのが、ジャムパンなんだよね!」

 

 勢いよく飛びつくが、ジャムパンは額に当たりバウンドする。

 そんなことよりも、ゆったりと揺れている!

 パウラ、ちょっと大きくなったんじゃないか?

 

「パウラ……ちょっと見ない間に大きく……」

「へ? 何言ってんのヤシロ。昨日も会ったじゃ……」

「大丈夫です、パウラさん。別の話ですので」

 

 体操服、すごいな。

 ゆったりしていながら、見せるところはしっかりと魅せている。

 発明した人がノーベル平和賞受賞しても、きっとどこからもクレームは出ないだろう。

 

「もうちょっとでコツが掴めそうなんだけどなぁ……えい!」

 

 狙いを定めて飛びかかるが、今度は鼻先に当たってジャムパンが逃げる。

 確かに惜しいが、まだ時間は掛かりそうだ。

 

「もう一回!」

 

 と、屈んだパウラの顔に、銀髪の束がヒットする。

 

「きゃん!?」

「おっと、失礼しました」

 

 イネスのツインテール攻撃だ。

 

「申し訳ありません、髪が長いもので」

「絶対わざとでしょう!?」

「ぴゅーぴゅー」

「誤魔化すの下手過ぎ!?」

 

 イネスのヤツ、パウラが惜しいところまでいってるから焦りやがったな。

 

「イネス。予想できない動きに翻弄されるなら、予想しやすい動きをさせてやればいい」

「…………なるほど」

 

 ぶら下がったパンはどこに飛んでいくか分からない。

 

「ならば、パンの方から向かってこさせれば……いい!」

 

 一度クリームパンを鼻先で押して振り子のように揺らし、こちらに向かってきたところでキャッチする。

 イネスくらい器用なヤツなら、それだけのアドバイスで十分だ。

 

「極めました」

 

 クリームパンを咥えて走り出すイネス。

 無自覚なのかは知らんが、物凄く力強いガッツポーズをしている。

 どんだけ嬉しかったんだよ。

 

「ヤシロー! 取れないー!」

 

 イネスに先を越されたのが悔しいのか、パウラがふて腐れた様子で俺を呼ぶ。

 甘えるなよ、敵チームなんだから。

 

「パウラ。パンを一度、思いっきり弾き飛ばしてみろ」

「弾き飛ばす……?」

 

 疑い顔ながらも、パウラは言われたようにジャムパンを一度ヘッドバッドで大きく揺らした。

 ぶらーんと遠ざかっていくジャムパンが、頂点に達して、そしてパウラに向かってくる。

 

「ん――!?」

 

 迫り来るジャムパンを、パウラは見事に口でキャッチ!

 これぞ――

 

「疑似フライングディスクだ!」

 

 犬は、飛んでくるボールを見事キャッチするくせに目の前の唐揚げを落としたりする生き物だからな。

 きっとパウラの中にも、そんな犬の本能が根付いているのだろう。

 めっちゃ尻尾振ってるもんな、今。すげぇ楽しそうだ。うんうん。

 

「パウラー、今度公園で一緒にフリスビーしようぜー!」

「ぅええ!? そ、それってデートのお誘い!?」

 

 いいや。散歩の誘いだ。

 俺が投げる、パウラがキャッチ、おーよしよし。うん、楽しい。

 

「取ったぁ!」

「くそぅ!」

 

 どうやら領主対決にもケリがついたらしい。

 エステラが得意気に走り去っていく。ゲットしたメロンパンを、しっかりと両手に持って。

 齧ったまま走ると歯形が付くからな。

 ……必死か。

 

「カタクチイワシ! メロンパンの追加だ!」

「アンパンでも食ってろ!」

 

 残ったのはアンパンとルシア。

 どうにも出来ないと観念したルシアが、アンパンに向かってジャンプする。

 メロンパンのところで散々練習したせいか、無駄のないいいジャンプだった。

 パンに無駄な衝撃を与えず、最小限の接触でパンを咥える。

 

「ぁ……んむ」

 

 ……………………

 ………………

 …………

 ……いかん。つい見入ってしまった。

 なんというか……ルシアの唇の動きが思いの外セクシーだった。

 急にらしくないことするんじゃねぇよ。ちょっとドキッとしちゃうだろうが。

 

「ふん! 私が本気になればこんなものだ!」

 

 ――という内容のことを、パンを咥えながら「わはひはほんひになへふぁ……」ともごもごしゃべるルシア。

 これでもかと胸を張っている。

 最下位なのに。

 ……というか…………え?

 

「ル、ルシアに膨らみが!?」

「あると言っておるだろうが、カタクチイワシ! 燻すぞ!」

 

 燻されるのは勘弁願いたいが……そうか、キャラが先行し過ぎて忘れかけていたが……Bカップは、そこそこある!

 

「ミリィくらいはあるんだな」

「少し届かないくらいですが」

 

 Bの中でも、差はあるものだ。

 それはそうと、体操服でこんなに楽しいなら……レオタードを普及させればもっと………………『素敵やんアベニュー』で売り出してみるか……ぶつぶつ。

 

「ヤシロ様。真剣な顔で考えているのは、お金のことですか? おっぱいのことですか?」

「両方だ」

「両方でしたか…………もう、手の施しようがないですね」

 

 ナタリアの嘆息を聞きつつ、暫しレオタードについて考える。

 新体操とか、流行らないかな?

 ネフェリーなら食いつきそうだ。……いや、なんとなく。キャラ的に? 野球部のマネージャーと掛け持ちとかして、お隣に住んでる幼馴染の高校球児を応援とかしそうな雰囲気あるしな。

 で、そんなネフェリーはしばらく後の第7レースに参加していた。

 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート