異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

137話 第二試合 詰め込む詰め込む -1-

公開日時: 2021年2月14日(日) 20:01
文字数:2,940

 第一回戦が終わって、ちょっとした悶着が起こった。

 

「なんで俺が最下位なんだよ!?」

 

 四十一区のイサークが大会実行委員に噛みついていたのだ。あ、いや、物理的にではなく、比喩的な表現でな。

 

 積み上げた皿の数は四十区のオースティンも四十一区のイサークも同じ四十九枚。そして、五十皿目の残りはイサークの方が少ない。

 だが……

 

「イサーク選手は食べこぼしが多く、八皿分減点されます!」

「なん……っだよ、そりゃあ!?」

 

 あいつはルール説明を聞いてなかったのか?

 あれだけ食い散らかしゃあ当然だ。

 

 と、隣を見ると……ベルティーナが真っ青な顔をして立っていた。

 

「もしかして私は……そんなに、頑張らなくても、よかったのでは?」

 

 みんなー! ルールちゃんと聞いてー!

 

 イサークが減点になると知っていたら、オースティンにだけ気を配っていればよかったわけで……っていうか、そのオースティンですらも、イサークに引っ張られるようにペースを上げていたわけで…………ルール聞けよ。イサークは最初っから負け確定だったんだからよ。

 

 まぁ、かくいう俺も、あの雰囲気にのまれてちょっとハラハラしちゃっていたけどもな。

 

「それより、ベルティーナ」

「はい。ありがとうございます」

 

 何も言っていないのに礼を言われた。

 それ以上言うなということか。

 分かっているからと。

 へいへい。もう大丈夫だってことでいいんだな。

 

 チラリとレジーナを見ると、すぐ俺の視線に気付いて、満足そうにこくりと頷きをくれた。

 

「えぇ、おっぱいやったで」

「なんの頷きだったんだ、今のは!?」

「いや、えぇおっぱいやったっていう……」

「二回も言うな『えぇおっぱい』!」

 

 つか、なんで胃薬を処方するのにおっぱいを見る必要があるんだ!?

 くっそ。次からは俺が問診と触診をしてやる!

 

「お兄ちゃん!」

 

 盛り上げ隊長のロレッタがぴょこりんと、俺の前に跳んでくる。

 

「次は誰が行くんです? 煽りの文句を考えたいので、教えてです」

「お前って、意外と下準備しっかりする派なんだな」

 

 ノリと勢いだけで生きているのかと思っていたが。

 

「もちろんです! 誰が出場することになっても、きっちりしっかり盛り上げてみせるですっ!」

「んじゃ、お前行ってこい」

「それは想定してなかったです!?」

 

 さすがに、自分が出場している時に、自分で盛り上げるのは無理か。

 

「大丈夫だ。応援はノーマが覚醒したし、パウラもネフェリーもいる」

「私もいますっ!」

 

 あえて無視したナタリアが、グイグイと割って入ってくる。

 

「ま、まさか……あたし、応援団クビですか?」

「そんなことするかよ」

 

 今こそロレッタが輝く時なのだ!

 

「ロレッタの盛り上げ力は四十二区には欠かせないものだ。一勝を挙げ、ノリに乗っているこの雰囲気をいい具合に持続させるには、ここでお前を投入するのがベストなんだ! 舞台の真ん中で、盛大に盛り上げてきてくれ!」

「おぉっ! それはあたしにしか出来ない盛り上げ方ですね!?」

「おう! 任せたぜ!」

「はいです! しっかり任されたです!」

 

 やる気に火が点いたロレッタ。

 うんうん。お前はただ盛り上げることを考えて善戦してくれればいい。

 

 たぶん、ここで一回負けるし。

 

 俺の計画では、ベルティーナと、マグダ、そしてデリアに甘い物を任せて、これで三勝できると踏んでいる。

 今回、イサークが減点されたことにより、最下位は四十一区。

 あのままイサークが勝っていれば、四十区が最下位となり、次の料理は四十区が担当することになるはずだった。

 四十区の名物と言えばケーキ。

 

 もし、ここでオースティンが負けていたらデリアを投入していたところだ。

 だが、負けたのはイサークだった。

 

 四十一区のメニューは、おそらく肉系の物だろう。

 デリアでは少々不安が残る。

 

 また、俺たちが一勝を挙げたことにより、四十区も四十一区も早く一勝を手にしようと、強力な選手を投入してくる可能性が高い。

 下手したら、暴食魚グスターブが出てくる可能性もある。

 

 ならば、ここは無難に引いて、負けてもともと、勝てればラッキーくらいのスタンスでいた方がいい。

 一位か最下位になれれば優勝も見えてくる。

 もし勝てればリーチとなり、マグダで優勝が決まる。

 もし最下位なら、次のターンでレモンパイでも出してやればデリアが一勝を挙げてくれる。

 四十区が最下位になった場合も、結果は一緒だ。

 

 ロレッタが一位になり、四十区が最下位になるのが一番の理想なのだが……まぁ、そこまでうまくは行かないかな。

 

 

 そんなわけで、最下位となった四十一区が料理を担当することとなり、第二回戦の準備が始まった。

 観覧客の入れ替えも同時に行われる。

 

 しばらく時間があくため、ここにいる連中は各々好きなように過ごしている。

 ベルティーナとジネットは一度会場の外へと出て、教会のガキどもと話しに行っている。

 ノーマ率いるチアガール軍団は、何やら応援の練習を開始していた。振りを付けて応援するつもりらしい。

 

「一時間のインターバルは、ちょっと長かったかな」

 

 すっかり退屈した様子のエステラが、伸びをしながらそんなことを言う。

 

「それは、勝ってるから言えることだよ。負けてる方はこの一時間で作戦を立てて、あっちこっち奔走するんだ。短いくらいかもしれんぞ」

「ヤシロはしないのかい、奔走」

「あのな……」

 

 にやにやと、からかうような目で俺を見てくるエステラ。

 お前は何か勘違いしてないか?

 

「四十二区の代表者はお前だろうが。奔走ならお前がしろよ」

「じゃあヤシロ。素晴らしい作戦を授けよう」

「なんだよ?」

「『おまかせで』!」

「…………お前なぁ」

 

 こいつは、ここ最近でいろいろ反省したんじゃなかったのか?

 領主として、きちっと責任を持って行動するよう心がけるのかと思いきや、『おまかせ』と来たか……

 

「……だから育たないんだよ」

「か、関係ないよね!?」

 

『どこが』とは言っていないにもかかわらず、エステラはしっかりと両腕で胸を押さえていた。

 

「お兄ちゃん! ちょっと質問があるです!」

 

 鼻息を荒らげて、ロレッタがやって来る。

 まゆ毛をキリリと上げ、なんだか勇ましい表情だ。

 

「物理攻撃は、有りですか!?」

「有りなわけあるか!」

 

 それを認めたら、真っ先にお前がノックアウトされちまうぞ。向こうは狩猟ギルドや木こりギルドなんだからな。

 

「ふっ…………ふふふふ……な、なんだか、やる気が満ち満ちてきたです! 思えば、いつもいつもあたしはサポート……隅っこに存在するような、ちょびっと控えめな女の子だったです」

 

 え、どの辺が?

 

「しかし! 今回は、あたしが主役です! 見ててです、お兄ちゃん! あたしが、華麗に、盛大に、盛り上げてみせるです!」

 

 握り拳を突き上げ、ロレッタが天を見上げる。

 なんだか、物凄く盛り上がってるな…………ロレッタが。

 お前じゃなくて、周りを盛り上げてくれな。

 

「お……おぉぉおお……なんか、急にプレッシャーが…………お腹痛いです」

「おぉーいっ!?」

 

 こいつ、マジで大丈夫か!?

 

「しょうがねぇな……レジーナ」

「すまんなぁ……アホの娘につける薬はあらへんわ」

「いや、胃腸薬を頼みたいんだが……」

 

 アホの娘につける薬なんかがあるんなら、すぐにでも連絡してほしいね。

 つけたいヤツがたくさんいるから。

 

 

 そうして時間は流れていき……

 

 

 ――カンカンカンカン!

 

 

 スタンバイの鐘が打ち鳴らされる。

 

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