異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

130話 ハチミツ -3-

公開日時: 2021年2月6日(土) 20:01
文字数:2,319

「ジネット。今から陽だまり亭へ戻って、弁当を作ってきてやってくれないか?」

「はい。任せてください」

「じゃあ、デリアとロレッタはジネットの手伝いに行ってくれ」

「おう! 任せとけ!」

「了解したです!」

 

 そして、残った三人に向き直り話をする。こいつらにはいろいろと用意してもらいたいものがある。

 

「エステラ。エンジュバチを閉じ込められる厚手の大きな袋を用意できないか?」

「う~ん……すぐにとなると……」

「ワタクシの屋敷にありますわ、おがくずを詰め込むための大きくて頑丈な布袋が」

「よし! じゃあ、それを頼む」

「分かりましたわ。マグダさん、荷物持ちをお願いできますかしら?」

「……了解した」

 

 イメルダとマグダが連れ立って歩いていく。

 

「じゃあエステラはカーレと一緒に火を起こす用意を頼む」

「火?」

「前にレジーナの薬品棚を見せてもらった時に、あったんだよ。害虫駆除に使える香草が」

 

 草を燃やして煙を焚き、エンジュバチの動きを止めるのだ。

 そして、動きの止まったエンジュバチはみんな袋の中にしまっておく。……使えるかもしれないからな。

 

「んじゃ、俺はレジーナのところへ行ってくるな!」

 

 高台を駆け下り、大通りを抜け、見慣れた薬屋のドアを開けると……

 

「ホコリちゃ~ん! 一緒にオヤツ食べへんか~……ん? あれ? どないしたん自分?」

 

 相変わらずホコリと会話してやがった。

 こいつ、自分の薬で心の病治せればいいのにな。

 

 事情と経緯を説明し、レジーナに虫除けの薬草を分けてもらおうとしたのだが……

 

「そんなら、おすすめのもんがあるわ!」

 

 手を打って、レジーナが取り出してくれたのは…………ネームーリークーサー!

 ……なんだか、未来の世界のネコ型ロボットを彷彿とさせる取り出し方だった。

 

 

「これな、『ネムリクサー』いうて、害獣・害虫駆除のお役立ちアイテムなんやで」

 

 ネムリクサーを燃やすと催眠効果の高い煙が発生するらしい。

 なるほど、駆除にはもってこいだ。

 

 ……つか、エリクサーのバッタもんみたいな名前だな。

 

 

 

 

 

 

 養蜂場に戻り、早速ネムリクサーを試すと、その効果は抜群で……

 

「……ベッコが爆睡しているね」

「まぁ、この位置からじゃあベッコを避けて煙浴びせるの不可能だしな」

 

 風上で火を焚いて煙を送る。

 あれほど騒がしく鳴り響いていた羽音はピタリとやみ、飛び交っていた数百匹のエンジュバチは皆地面の上に落ち、動かなくなっていた。

 

「今のうちに袋へ」

 

 俺とエステラ、戻ってきたマグダとイメルダでエンジュバチを袋へと詰め込んでいく。

 

「ワタクシ、虫には触れられませんわ!」

「……威張って言うことかな、それ」

 

 訂正。イメルダは一切役に立っていない。

 俺に必要とされる云々は、こういうところでは発揮されないらしい。

 

「ヤシロさ~ん!」

 

 エンジュバチを捕獲し終えたあたりで、ジネットたちが戻ってきた。

 折角弁当を作ってきてくれたのだが……肝心のベッコが眠ってしまっている。

 無駄にするのは惜しいなぁ……

 

「任しとき」

 

 ネムリクサーを安全に使うために連れてきたレジーナが、ここでも役に立ってくれた。

 

「ミントの仲間で、覚醒効果の高いヤツがあってな。そのエキスを絞り出して作った目覚めの薬、『メッチャ臭ぅてお目々ぱっちりんX』やっ!」

「名前がもう使用を拒絶させるに十分値するろくでもない薬だな」

 

 結果がはっきりと想像できる謎の薬をベッコの口へと流し込むと……

 

「クッサッ!? 臭いでござるっ!?」

 

 ……と、想像通りのリアクションで飛び起きやがった。

 

「お前さぁ……もうちょっと意表を突いたリアクションしろよぉ」

「寝起きに無茶苦茶な要求されたでござる!?」

 

 なんだか不満そうにしながらも、エンジュバチから解放され飯にありつけたベッコは、俺たちに大袈裟なほど感謝の念を述べ、そして弁当をぺろりと平らげた。……こいつも大食いイケんじゃねぇの?

 

「いやぁ、かたじけないでござる。このご恩は何かしらの形でお返しするでござる!」

 

 そんなベッコの言葉に、ジネットは少し「もじっ」と体を揺する。

 ん? ダメだからな? 俺の蝋像は作らせないからな? 期待しても無駄だぞ、ジネット。

 

「いやぁ、それがしのせがれのために、みなさんにはご迷惑をおかけしたでござんす」

「なぁに、養蜂家のくせにハチ対策がまるで出来てないプロ失格のヤツの尻拭いをちょっとしてやっただけだから、まぁ気にすんな」

「まったく。お恥ずかしいせがれでござんす」

「いや、お前のことだよ?」

 

 こういう事態に備え、ハチを大人しくさせる方法の一つでも確保しとけっての。防護服くらいあってもいいだろうに。

 

「いやしかし! それがしのせがれのために、こんな美しい女性たちが一所懸命動いてくださるとは……もしや、この中にせがれの『いい人』でもいたりするのでござんすか?」

「「「「「それは無い」」」です」ですわ」

「あの……ご期待に添えず、すみません」

 

 エステラ、マグダ、デリア、ロレッタ、イメルダが声を揃えて即答し、ジネットですらも困り笑顔でやんわり否定した。

 

 視界の隅でベッコがへこんでいたが、まぁ、無視する。

 

「それより、ハチミツを分けてくれないか?」

「せがれの恩人の頼みとあらば、いくらでも、でござんす」

 

 にこにこと、カーレは特大の瓶に詰まったハチミツを持ってきてくれた。

 これだけあれば、いろいろなことに使えそうだ。

 

「あ、それからもう一つ……」

 

 俺は花畑を指さして言う。

 

「そこらの花、いくつかもらっていっていいか?」

「えぇ、構わんでござんすよ」

 

 俺の記憶が正しければ、ここに咲いている何種類かの花は、花屋では見たことがない。

 観賞用にするには少々見劣りするからな。

 だが……色合いを考えて花束にすればちょうどいい物が出来るだろう。

 

 明日、ミリィへ贈るオリジナルの花束がな。

 

 

 

 

 

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