「そう言えば、半生おっぱいさんがヤシロ様にお話があるとおっしゃっていましたよ」
「え、ノーマが?」
「誰が半生おっぱいさね!? で、なんでそれで伝わるんだい、まったく!」
俺とナタリアの背後にノーマが立っていた。
というか、そのタイミングを見計らってナタリアが話を振ってきたという方が的確だろうな。
それはそうと、『生』より『半生』の方が柔らかそうに感じるのは俺だけだろうか?
『生おっぱい』よりも『半生おっぱい』のほうが「とぅるん」っとしていそうな気がする。
「けど、『生おっぱい』の方がエロいけどな!」
「急にどうしたさね!?」
「大丈夫です、ノーマさん。いつもの発作です」
「……それが日常な時点で全然まったく大丈夫じゃないさね……」
呆れ顔のノーマが腰に手を当てて嘆息する。
そんな小さな動作にも微かに「たゆん」と波打つやわやわおっぱい。
「ありがとう。いいご褒美をもらったよ」
「あげてないさよ!? で、そんな話をしに来たんじゃないんさよ!」
胸を腕で押さえながら、俺に布袋を差し出してくる。
今日は体操服なので、谷間から取り出すようなことはなかった。……残念だ。
「ノーマだけ、いつもの服にブルマでもよかったのに……」
「お断りさよ!」
理解が得られず残念だ。
今日は谷間率がほぼゼロだからなぁ……運動会最大の欠点だな、そこは。
で、布袋を開いて中を見てみると。
「なんだ、この金具?」
「パンを固定するL字フックさね!」
急にノーマのスイッチがオンになった。
「今用意されてるのはただのフックだろ? あんなんじゃ子供たちには危険さね。口に入ったり目に当たれば大怪我をしかねないさね」
「いや、パンの下の方を咥えりゃ金具を飲み込むことはないだろう? 釣り針じゃねぇんだから」
「甘いさね! 獣人族の子供らは、時に大人の想像を上回る身体能力を発揮するんさよ!」
まぁ、それはそうなんだが……
そんな元気過ぎるガキなら、金具を口に含んだところでケロッとしてそうなもんだけどな。
「そこで、このL字フックさね。L字とは言いつつも先端が少し下がっているから、万が一口に咥えてしまっても閉じる時に引っかかったりしないんさよ」
「そしたら、振動でパンが落ちたりするんじゃ……」
「心配無用さね! L字の根元が微かに上向きになっているから、ここでパンをしっかり固定できるんさよ!」
言われて見てみれば、L字の根元は鋭角で上向いており、途中からなだらかに下向きになっていた。すごく平板な『へ』のような形だ。
「おまけに、フックの金属部分を薄い膜でコーティングしてあるんさよ。これはある魔獣の胃の粘膜でね、強力な殺菌作用があるんさよ。これで食中毒も心配いらないって寸法さね!」
いや、まぁ、食中毒は心配ではあるが……外で、それも砂ぼこり舞うグラウンドの真ん中にぶら下げるんだから、金具部分だけ厳重にしてもだな……
「あと、このコーティングをすることでパンへ金属の味移りが防げるんさよ! 金属の匂いや味が移っちまったら、折角のパンの風味が台無しじゃないかい? どうせなら、完璧なパンを食べてほしいじゃないかさ! ね、そう思うだろぅ?」
ノーマ……熱い。物凄く熱い。
すっげぇぐいぐい来るじゃん。
「っていうか、こんなもん、いつ作ったんだよ?」
「昨日寝る前にふと思いついたんさよ。で、試してみたらうまくいってねぇ」
「……つか、寝ろよ、お前は」
思いついたらやらずにはいられなかったのか。
ほんと、もうマジで、誰かノーマの私生活管理してあげて!
仕事にのめり込み過ぎるとどんどん婚期が遠ざかっていっちゃうよ!
美容の講師やってるんだから、自分のお肌にもっと気を遣って!
「分かった。ありがたく使わせてもらうよ」
「さすがヤシロさね! じゃあ、給仕に言って付け替えてくるさね!」
俺に渡した布袋をひったくり、嬉しそうに給仕のもとへと駆けていくノーマ。
準備をしている給仕に、ご自慢のL字フックの性能を喜々として語り片っ端から取り替えさせていく。
……あの娘の幸せ、あれでいいのかなぁ。
「おのれの仕事や生き様に誇りを持ち、堂々と生きる女性は美しいものですね」
ナタリアがノーマの背中を見つめながら肯定的なことを言う。
まぁ、それはそのとおりなのだが。
「狩猟ギルドのメドラギルド長然り、麹工場を支え続けたバーサさん然り、二十九区を陰ながら見守り続けたマーゥル様然り……」
「……なんでたとえが全員未婚のオバ……レディばっかなんだよ」
「たまたまでしょう」
絶対ワザとだ!
……まぁ、ノーマにはきっといつか良縁が舞い込んでくるさ。
きっと。………………きっと。
「ヤシロ様。ハンカチをどうぞ」
「ありがとう……」
なぜか目尻に浮かんだ美しい雫を、俺はそっとぬぐい取った。
ノーマ。がんば。
悲しみを乗り越え、いよいよパン食い競争が始まる!
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