異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

挿話15 陽だまり亭の年末年始 -4-

公開日時: 2021年1月6日(水) 20:01
文字数:1,140

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「『トイレって言わないでくださいましっ! トイレキャラはイヤですわっ!』」

「おぉ~、器用だなロレッタ」

「あはは! 似てる似てる!」

 

 あたしは、止まったマスに書かれていた『知人のモノマネをする』を見事に実行してみせたです。…………すごく恥ずかしかったです! 誰です、これ書いたのは!?

 あ、絶対お兄ちゃんです。吹けてない口笛吹いて誤魔化してるです!

 

 しかし! こんなものは序の口です! ふっふっふっ……あたしの書いたマスに先頭集団が近付いていくです。さぁ、誰が止まるですか? かつて、あたしがやられて三日三晩苦労したあの忌まわしい記憶……それと同じ苦痛を味わってもらうです!

 

 

「あ、私今一回休みだから、次はパーシーね」

「あ、ありがとうす! ネフェリーさんに渡してもらったサイコロ、大切に使わせてもらいます!」

 

 大袈裟に喜んでパーシーさんがサイコロを振るです。

 出た目は……『3』!

 

 やったです! あたしの書いた恐ろしい命令のマスに止まったです!

 

 

『顔に墨で落書きをされる』

 

 

「はっ!? パーシーさん、もう落書きしてるです!?」

「落書きじゃねぇ!」

 

 なんということですか……折角、以前お兄ちゃんにやられた、屈辱の『おでこに【肉】』をやってやろうとしてたですのにっ!

 

「使えないです、パーシーさん! ガッカリです!」

「酷い言われようだな!?」

 

 空気の読めない男、パーシーさん。

 これはダメです。モテないです。どこまで行っても『いいお友達』どまりです。

 空気が読めないとそういうことになるです。

 

「確かに、パーシーの顔に今さら何か書いたって面白くないよね」

「ちょっと! オレは面白くしようとしてこの顔してるわけじゃないぜ!?」

「えっ!? 違ったッスか!?」

「ちっきしょう! あんたは味方だと思ってたのに、なんだよ、このキツネ!?」

 

 立ち上がってぎゃいぎゃい喚くパーシーさん。

 みっともないです。絶対モテないです。

 

「よし、分かった。俺に任せろ」

 

 ぽんと膝を打って、お兄ちゃんが立ち上がりました。

 そしておもむろに厨房へ行き…………濡れたタオルを持ってきました。

 

「パーシー、顔を貸せ」

 

 お兄ちゃんがパーシーさんの顔を拭いていきます……

 

「よし! 完成だ」

 

 お兄ちゃんに弄られていた顔をこちらに向けるパーシーさん。

 途端、あたしたちは全員吹き出したです。……その顔は卑怯です……っ!

 

 パーシーさんは、左右の目の中央の黒い部分を綺麗に拭き取られていたです。その顔は、どっからどう見てもパンダです。パンダ人族です!

 

「「「ぶふぅーっ!」」」

 

 これは……卑怯です。

 こんなもん、笑うに決まってるです……

 

「パ……パーシーさん……面白い顔しないでです……っ」

「好き好んでこうなったわけじゃねぇよ!?」

 

『肉』よりも酷いものがあった……あたしはその日、それを知ったです。

 

 

 

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