異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

挿話12 異世界詐欺師VS異国の詐欺師~決着~ -4-

公開日時: 2020年12月20日(日) 08:01
文字数:2,268

 ――一方、その後の陽だまり亭。

 

ヤシロ「なぁ、マグダ。ちょっと台を持ってきてくれ」

マグダ「……そう言うと思って、すでにここに」

ヤシロ「気が利くなぁ、お前は……よいしょっと」

マグダ「……撫でてもいいよ」

ヤシロ「……うん、これが終わったらな? もう上っちゃったし」

ウーマロ「ヤシロさん、何してるッスか?」

ヤシロ「ん? あぁ、超期間限定の新メニューの札を外そうと思ってな」

ウーマロ「えっ!? そんなのがあったんッスか!? 食べてみたかったッスねぇ……どんなメニューだったんッスか?」

ヤシロ「これだ、これ。読めるか?」

ウーマロ「うっわ!? 小さい字ッスねぇ………………え~っと、なになに…………『猛毒を持つ物しか使われていない非常に危険なケーキで、シェフですら触るのを嫌がるほどの凶悪な食べ物で、一口食べれば一月後には絶命し、二口食べれば丸一日で確実にあの世行きな危険極まりない、全世界が、『オイそれ食っちゃダメだろ』と認めた最強最悪の毒物の塊という恐ろしいケーキ――略して猛毒ケーキ』……って、なんなんッスか、この禍々しい名前のケーキは!?」

ヤシロ「俺が作ったケーキだからな、どんな名前を付けようが俺の自由だろ」

ウーマロ「それはそうなんッスけど……センスがあまりにも……」

ヤシロ「何言ってんだよ。この名前を思いついた時、俺は自分が天才なんじゃないかと思ったね」

ウーマロ「えぇ~……」

ヤシロ「この名前じゃなきゃ、あの詐欺師は引っかかってくれなかったろうよ」

ウーマロ「あぁ、その時のケーキッスか。納得ッス」

マグダ「……このケーキの正式名称を口にしただけだから、ヤシロは『精霊の審判』をかけられてもカエルにならなかった」

ヤシロ「それに、ちゃんとメニューとして存在しているという証拠に、ここに札を掛けてあったしな。なかなかフェアだろ?」

ウーマロ「……そんな小さい字で書いといて、フェアも何も……」

ヤシロ「だってお前。こいつだけやたらデカい札に書くわけにはいかないだろ? 同じサイズに収めようとしたら、『自然と』こんなサイズになったんだよ」

ウーマロ「……自然と……ッスか?」

ヤシロ「で、まぁ。今日でこの札もお役御免なわけだ」

ウーマロ「ところで……、本当に猛毒を使ったわけじゃないんッスよね?」

ヤシロ「当たり前だ! 俺は食べ物で遊ぶヤツが一番許せないんだ! リア充の次に!」

ウーマロ「一番じゃないじゃないッスか!?」

マグダ「……あの時は、ウーマロもよく頑張った」

ウーマロ「むっはぁ! マグダたんに褒められたっ!? お安い御用ッス! 馬車で四十区に乗りつけてポンペーオに席をあけてもらって、一芝居打ってくれるように頼んだだけッスから!」

マグダ「……おかげで、あの詐欺師を陽だまり亭へ誘導できた」

ウーマロ「マグダたんの演技が光ってたからッス!」

マグダ「……あれくらい、普通」

ウーマロ「謙虚なところに惹かれる、痺れるぅ!」

マグダ「……光っていると言えば、ウェンディもお手柄だった」

ウーマロ「あぁ。顔を知らない詐欺師を探す際、ウェンディさんの発光塗料が目印になったんッスよね」

マグダ「……馬車の停留所でウェンディが詐欺師に触れていたおかげで、詐欺師の手が夕闇の中で光っていた。すぐ見つけられた」

ウーマロ「何が何に役立つか分かんないもんッスよねぇ」

ヤシロ「よし、この札もういらねぇから、ウーマロにやる。記念に自室に飾っとけ」

ウーマロ「うわぁ……すごくいらないッス……」

ヤシロ「マグダ、釘抜き取ってくれ」

マグダ「……そう言うと思って、ここに」

ヤシロ「ホントに気が利くな、マグダは」

マグダ「……撫でればいい」

ヤシロ「うん……だから、これが終わったらな」

ウーマロ「それで、これって、本当はどんなケーキなんッスか?」

ヤシロ「中見は普通のストロベリーレアチーズケーキだよ」

ウーマロ「美味そうッスね!」

マグダ「……食べる? ウーマロは頑張ったから、特別に期間延長して提供してもいい」

ウーマロ「本当ッスか!?」

マグダ「……死ぬほど食べるといい……『猛毒ケーキ』……」

ウーマロ「……なんか、そう言われると…………遠慮したいッス」

ヤシロ「本当に毒が入ってるわけじゃないから心配ねぇよ。死ぬまで食ったって死にゃしねぇよ」

ウーマロ「いや……死ぬまで食ったら死んじゃうッスよね!?」

ヤシロ「たらふく食って、売り上げに貢献しろ」

ウーマロ「けど、甘いものの摂り過ぎもある意味毒なんッスよね? コレステロール的に」

ヤシロ「なぁに、いざとなりゃ、キノコを摂ってりゃ大丈夫だ」

ウーマロ「なんなんッスか、それ? キノコ?」

ヤシロ「キノコに含まれる食物繊維が、過剰摂取したコレステロールを体外に排出してくれる……ま、バカみたいに食い過ぎなきゃ問題ねぇよ」

ウーマロ「そんなの、ケーキに限ったことじゃないじゃないッスか」

ヤシロ「物は言いようってことさ…………よっと、これでよし」

マグダ「……お疲れ様」

ウーマロ「それで、あの。この札、どうすればいいッスか?」

ヤシロ「さぁ、今日も頑張って働くかぁ!」

ウーマロ「あ、無視ッスか……」

マグダ「……ヤシロ」

ヤシロ「どした?」

マグダ「…………じぃ~」

ヤシロ「…………分かったよ。頭貸せ」

マグダ「……むふふ」

ヤシロ「はい、もふもふもふっと」

マグダ「……むふー!」

ウーマロ「あぁっ! むふーってしてるマグダたん、マジ天使ッス!」

 

 

 

 

 ――こうして、異国の詐欺師の詐欺計画はヤシロによって打ち破られました。

 異国の詐欺師も改心したようで、めでたしめでた……

 

 

エステラ「……はぁ」

 

 

 ――あ、もう少しだけ続きそうな予感……

 

 

 

 

 

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