――一方、その後の陽だまり亭。
ヤシロ「なぁ、マグダ。ちょっと台を持ってきてくれ」
マグダ「……そう言うと思って、すでにここに」
ヤシロ「気が利くなぁ、お前は……よいしょっと」
マグダ「……撫でてもいいよ」
ヤシロ「……うん、これが終わったらな? もう上っちゃったし」
ウーマロ「ヤシロさん、何してるッスか?」
ヤシロ「ん? あぁ、超期間限定の新メニューの札を外そうと思ってな」
ウーマロ「えっ!? そんなのがあったんッスか!? 食べてみたかったッスねぇ……どんなメニューだったんッスか?」
ヤシロ「これだ、これ。読めるか?」
ウーマロ「うっわ!? 小さい字ッスねぇ………………え~っと、なになに…………『猛毒を持つ物しか使われていない非常に危険なケーキで、シェフですら触るのを嫌がるほどの凶悪な食べ物で、一口食べれば一月後には絶命し、二口食べれば丸一日で確実にあの世行きな危険極まりない、全世界が、『オイそれ食っちゃダメだろ』と認めた最強最悪の毒物の塊という恐ろしいケーキ――略して猛毒ケーキ』……って、なんなんッスか、この禍々しい名前のケーキは!?」
ヤシロ「俺が作ったケーキだからな、どんな名前を付けようが俺の自由だろ」
ウーマロ「それはそうなんッスけど……センスがあまりにも……」
ヤシロ「何言ってんだよ。この名前を思いついた時、俺は自分が天才なんじゃないかと思ったね」
ウーマロ「えぇ~……」
ヤシロ「この名前じゃなきゃ、あの詐欺師は引っかかってくれなかったろうよ」
ウーマロ「あぁ、その時のケーキッスか。納得ッス」
マグダ「……このケーキの正式名称を口にしただけだから、ヤシロは『精霊の審判』をかけられてもカエルにならなかった」
ヤシロ「それに、ちゃんとメニューとして存在しているという証拠に、ここに札を掛けてあったしな。なかなかフェアだろ?」
ウーマロ「……そんな小さい字で書いといて、フェアも何も……」
ヤシロ「だってお前。こいつだけやたらデカい札に書くわけにはいかないだろ? 同じサイズに収めようとしたら、『自然と』こんなサイズになったんだよ」
ウーマロ「……自然と……ッスか?」
ヤシロ「で、まぁ。今日でこの札もお役御免なわけだ」
ウーマロ「ところで……、本当に猛毒を使ったわけじゃないんッスよね?」
ヤシロ「当たり前だ! 俺は食べ物で遊ぶヤツが一番許せないんだ! リア充の次に!」
ウーマロ「一番じゃないじゃないッスか!?」
マグダ「……あの時は、ウーマロもよく頑張った」
ウーマロ「むっはぁ! マグダたんに褒められたっ!? お安い御用ッス! 馬車で四十区に乗りつけてポンペーオに席をあけてもらって、一芝居打ってくれるように頼んだだけッスから!」
マグダ「……おかげで、あの詐欺師を陽だまり亭へ誘導できた」
ウーマロ「マグダたんの演技が光ってたからッス!」
マグダ「……あれくらい、普通」
ウーマロ「謙虚なところに惹かれる、痺れるぅ!」
マグダ「……光っていると言えば、ウェンディもお手柄だった」
ウーマロ「あぁ。顔を知らない詐欺師を探す際、ウェンディさんの発光塗料が目印になったんッスよね」
マグダ「……馬車の停留所でウェンディが詐欺師に触れていたおかげで、詐欺師の手が夕闇の中で光っていた。すぐ見つけられた」
ウーマロ「何が何に役立つか分かんないもんッスよねぇ」
ヤシロ「よし、この札もういらねぇから、ウーマロにやる。記念に自室に飾っとけ」
ウーマロ「うわぁ……すごくいらないッス……」
ヤシロ「マグダ、釘抜き取ってくれ」
マグダ「……そう言うと思って、ここに」
ヤシロ「ホントに気が利くな、マグダは」
マグダ「……撫でればいい」
ヤシロ「うん……だから、これが終わったらな」
ウーマロ「それで、これって、本当はどんなケーキなんッスか?」
ヤシロ「中見は普通のストロベリーレアチーズケーキだよ」
ウーマロ「美味そうッスね!」
マグダ「……食べる? ウーマロは頑張ったから、特別に期間延長して提供してもいい」
ウーマロ「本当ッスか!?」
マグダ「……死ぬほど食べるといい……『猛毒ケーキ』……」
ウーマロ「……なんか、そう言われると…………遠慮したいッス」
ヤシロ「本当に毒が入ってるわけじゃないから心配ねぇよ。死ぬまで食ったって死にゃしねぇよ」
ウーマロ「いや……死ぬまで食ったら死んじゃうッスよね!?」
ヤシロ「たらふく食って、売り上げに貢献しろ」
ウーマロ「けど、甘いものの摂り過ぎもある意味毒なんッスよね? コレステロール的に」
ヤシロ「なぁに、いざとなりゃ、キノコを摂ってりゃ大丈夫だ」
ウーマロ「なんなんッスか、それ? キノコ?」
ヤシロ「キノコに含まれる食物繊維が、過剰摂取したコレステロールを体外に排出してくれる……ま、バカみたいに食い過ぎなきゃ問題ねぇよ」
ウーマロ「そんなの、ケーキに限ったことじゃないじゃないッスか」
ヤシロ「物は言いようってことさ…………よっと、これでよし」
マグダ「……お疲れ様」
ウーマロ「それで、あの。この札、どうすればいいッスか?」
ヤシロ「さぁ、今日も頑張って働くかぁ!」
ウーマロ「あ、無視ッスか……」
マグダ「……ヤシロ」
ヤシロ「どした?」
マグダ「…………じぃ~」
ヤシロ「…………分かったよ。頭貸せ」
マグダ「……むふふ」
ヤシロ「はい、もふもふもふっと」
マグダ「……むふー!」
ウーマロ「あぁっ! むふーってしてるマグダたん、マジ天使ッス!」
――こうして、異国の詐欺師の詐欺計画はヤシロによって打ち破られました。
異国の詐欺師も改心したようで、めでたしめでた……
エステラ「……はぁ」
――あ、もう少しだけ続きそうな予感……
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