異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

挿話14 陽だまり亭のクリスマス -7-

公開日時: 2021年1月6日(水) 20:01
文字数:2,285

☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

「綺麗ですね、ヤシロさん」

「まぁ、こんなもんだろう」

 

 飾りつけられたモミの木を見て、ヤシロさんは満足そうに頷きました。

 

「クリスマスって、こういうものなんですね」

「まぁ、雰囲気だけのなんちゃってクリスマスだけどな」

 

 ヤシロさんはそう言いましたが、その楽しそうな雰囲気が伝わればそれで十分なんだと、わたしは思います。

 

 セロンさん特製の大きな鉢植えに植えられた、高さ150センチの小さなモミの木は、カラフルな色彩の飾り……オーナメントというらしいです……をたくさん枝につけて、夢の国の木のように可愛らしく着飾っていました。

 

「お兄ちゃん! 鶏肉が焼けたですよ!」

「……ケーキも完成した」

 

 お昼からずっと、ヤシロさんが下ごしらえをしていた料理も完成し、いよいよパーティーが始まろうとしています。

 

 窓の外では、空が真っ赤に染まり、庭先の光るレンガが徐々にその光量を上げていく頃合いです。

 この後、たくさんの招待客がここを訪れ、また、みなさんで楽しいお食事をする予定になっています。

 

「楽しみですね」

「あぁ。たぶんそろそろみんな来るから、対応はよろしくな」

 

 わたしの肩を叩いて、ヤシロさんは厨房へ向かいます。

 

「え……あのっ」

「ん?」

「どちらへ行かれるんですか? お料理なら、みんな揃っていますよ?」

 

 わたしも、わずかばり手伝って、料理はすべて食堂に並べてあります。

 

「準備があるんだよ」

 

 そう言い残して、ヤシロさんは行ってしまいました。

 ……準備?

 もう、完了していると思うのですが……

 

「こんにちはッス~!」

「おぅ! 来たぞー!」

「お邪魔するでござる」

 

 ウーマロさんにデリアさん、そしてベッコさんが一番乗りでいらっしゃいました。

 お三方は一昨日までウチにお泊まりされていたので、逆に「なぜ昨日いなかったんだろう」という気になります。不思議です。

 

 その後、シスターや教会の子供たち、ロレッタさんのご弟妹やヤップロックさんご一家。

 金型屋のノーマさんに服屋のウクリネスさん、そしてミリィさんやネフェリーさんといったお仕事でお世話になっている皆様がお見えになりました。

 

「わぁ、美味しそう」

 

 テーブルに並ぶ料理を見て、そんな感想が聞こえてきました。

 嬉しいですね。

 

「ヤシロはどこ行ったんだい?」

「えっと……何か、準備があるからって……」

「あぁ、あれですねぇ。ふふふ」

 

 ウクリネスさんが得意げに微笑みを浮かべていました。

 何かご存じなのでしょうか?

 

「ふぉっふぉっふぉっ! メリークリスマスっ!」

 

 と、そこに、真っ赤な服を着たお爺さん……ヤシロさんが現れました。

 真っ白な口髭をつけておられたので最初分かりませんでした。

 

「なに……あの派手な服?」

「さぁ……?」

 

 ヤシロさんは全身真っ赤な衣服に身を包み、白い大きな布袋を肩に担いでいました。

 

「さぁ、よい子のみんなにプレゼントだよ」

 

 そう言って袋に手を入れ、そばに集まってきていたロレッタさんのご弟妹に小さな包みを配り始めました。

 

「おぉー!」

「ぷれぜんとー!」

「感激の嵐やー!」

 

 小さな包みを握り、ご弟妹は大はしゃぎです。

 教会の子供たちも真っ赤なヤシロさんに群がり、プレゼントを催促していました。

 

 そしてその後、ヤシロさんはわたしたちにも、そのプレゼントをくださいました。

 

「……むむっ、これは、いい物」

「ほわぁ、かわいいです!」

「これ、ヤシロが作ったのかい?」

「素敵ですわ……」

 

 マグダさん、ロレッタさん、エステラさんにイメルダさんが頬を緩めます。

 

「へぇ……あの切れっ端の鉄くずがこうなるとはねぇ……やってくれるさねぇ」

 

 ノーマさんが嬉しそうに呟きました。原材料はノーマさんのところからいただいた物だったようです。

 

「おにーちゃん天才ー!」

「チョーかわいいー!」

「おにーちゃんかわいいー!」

「こういうの欲しかったー!」

「ずっと待ってたー!」

「感動の暴風雨やー!」

 

 みなさん、それぞれに感想を述べます。そのどれもが歓喜に満ちていました。

 

「ほい、ジネットにも」

 

 ヤシロさんがそっと手渡してくださったもの……それは、小さなピンバッチでした。

 モミの木の形をした、可愛らしい小さなバッチ。

 ヤシロさんらしい、素敵な贈り物です。

 

「いただいてもよろしいんですか?」

「あぁ、いいんじゃよ。今日はよい子がプレゼントをもらえる日じゃからな、ふぉっふぉっふぉっ!」

 

 なぜ、そんなしゃべり方なのでしょうか?

 よく分かりませんが、ヤシロさんのすることですから、何か考えがあってのことなのでしょう。深くは追及しないようにします。

 

「それじゃあ、みなさん。お食事を始めましょう」

 

「わぁ」っと歓声が上がって、クリスマスパーティーが始まりました。

 とても温かい、楽しい時間の始まりです。

 

 また、ヤシロさんに素敵な時間を作ってもらいました。

 本当にヤシロさんには、感謝しっぱなしです。

 

「ぁは……うれしい」

「お揃いね、セロン」

「一緒だね、ウェンディ」

「なぁなぁ、なんかあたいのヤツは特別可愛くないか?」

「どれも一緒よ! いや……でも、私のはちょっと他より可愛いかも……」

「ふ~む……これを大工の技術に活かせないッスかねぇ……」

「拙者、まだまだ精進が足りぬでござるなぁ……ヤシロ氏、お見事っ!」

 

 ヤシロさんからの贈り物で、どんどん笑顔が広がっていきます。

 こういうすごい力を、ヤシロさんは持っているんですよね。

 

「ヤシロさん……すごいです」

 

 そこからは、いつものように賑やかで、少々騒がしい……でも、とても楽しいひと時となりました。

 

 クリスマスのことはまだちょっとよく分かりませんが、わたしは、とても好きです。

 

 来年もきっと、みなさんと一緒に過ごしたい。そう思うほどに。

 

 

 

 

 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート