「さて……どちらを最後にしましょうか…………」
「ナタリア、ボクに何か恨みでもあるのかな!?」
ほくそ笑むナタリアに、小屋の中からエステラの声が飛んでくる。
……ジネットの後にエステラとか、苛めだろ最早。
「では。クールでありながら夢見る乙女、膨らむのは夢ばかり! それ以外は一切膨らまない我らがお嬢様……」
ヒュン!
カキーン!
ナタリアの呼び込みの途中で、小屋からナイフが飛んできた。凄まじい速度で飛来したそのナイフを、ナタリアは取り出したナイフで迎撃する。
……あいつら、普段からこんな高度なボケとツッコミやってんのかよ? どこに命かけてんだ……あと、ナタリア、今パレオの中からナイフ取り出したよな? そんなとこにしまってんじゃねぇよ……
「我らがお嬢様! エステラ・ナイン・ツルーン!」
「誰がナイン・ツルーン家の娘なんだい!?」
架空の貴族の娘に仕立て上げられたエステラ。……つか、お前ら。今日何かいさかいでもあったのか?
「もう! ナタリアが変なこと言うから出難かったじゃないか!」
ぷりぷりと怒るエステラ。
しかしながら、身に着けている水着は可愛らしく、怒り顔は似合わない。
しょうがない。こいつのことも笑わせてやるか。
「エステラ、大変だ! お前、どっかにおっぱい落としてきてるぞ!」
「落としてないよっ!?」
「え、大変です! みなさん、手分けして探しましょう!」
「ナタリア、乗っからないで! そしてみんなも探さないでくれるかなっ!?」
おかしい……全然笑顔になってくれない。
「もう、帰るよ、本気で!?」
「あぁ、待て待て! まだじっくり見てないんだ」
「見なくていいよ! ……どうせ笑うんだろ?」
「バカ! お前が一番可愛く見える水着を選んだっつっただろ!」
この水着は、俺がウクリネスに特に力を入れて作るよう言い聞かせていた水着だ。
エステラは胸を気にするあまり、こういう服装を嫌う気がしてな。エステラがいないといろいろ物足りないからな。……いや、ほら、何か商売に繋がりそうな時に力を貸してほしいとか、そういう打算的なものもあるしな。
……うっさい。たまにはちっぱいも見たいんだよ。
「これはバンドゥビキニって言ってな。このチューブトップのブラは胸を大きく見せる効果があるんだぞ」
「そ、そうなのかい?」
エステラに渡したバンドゥビキニは、胸の前面と腰の部分が三段のフリルで飾られ視線が行きがちな部分をさり気なく隠している。フリルのボリュームで胸の小ささは誤魔化されるし、パンツの方は腰からのフリルでミニスカートのような感じになっている。
このボリュームのあるフリルのおかげで、そこから伸びる手足がさらに細くすらっとして見えるのだ。腰もキュッとしまって見える。
普段はクールな服装が多いエステラに、こういうフリフリの可愛い水着を着せることでまた新たな一面が垣間見えて、これはこれでなかなかいいのだ。
「ま、まぁ、折角の夏なんだ。お前も楽しめよな」
「……なつ?」
あ、そうか。今は十二月で、この暑い時期は『猛暑期』って言うのか。
「楽しむ時は、一緒がいいだろ」
「え………………」
ん?
なんだ?
なんでエステラはそんな赤い顔をして硬直してんだ?
あっれ~……俺、またなんか言ったか?
いやいや、そういう意味じゃないんだけどなぁ…………ヤバイ、背中に汗がじったり滲んできた。
「いや、そうじゃなくて……」
「分かってるよ……バカだなぁ。どれだけ君の迂闊な失言を聞いてきたと思ってるんだい?」
クシャッと苦笑を浮かべ、エステラは俺の肩をポンと叩く。
「ちゃんと分かってるから」
ぽんぽんと二度肩を叩いて、すれ違うように俺のそばを離れていく。
すれ違い様、こんな言葉を残して。
「今は、否定しないでおいてよ。……ね」
え、なにそれ?
なにその反応?
俺、どうするべきなの?
……く、訳が分からないままに心臓が痛い。
俺、絶対、触っちゃいけないとこ触ったよな?
発言には気を付けよう。マジで気を付けよう。
いつか傷付けてしまわないか……それが心配だ。
「さて、それではお待ちかね。四十二区の最終兵器の登場です!」
「そ、そんな煽りはやめてください! もう普通に出て行きますからね!」
ナタリアの呼び込みを待たず、ジネットが小屋から姿を現す。
「「「「………………ごくりっ」」」」
男子全員、生唾ごっくん。
いや、あれは卑怯だわ。
歩くだけでばるんばるん……リーサルウェポンと呼ぶに相応しい凶器だ。
揺れが大きいからか、ジネットは胸をキュッと押さえる。
手伝おうか!? 片方持ってあげようか!?
「あ、あの…………へ、変じゃ、ないですか?」
全然!?
むしろ普段からその格好していたらどうかな!?
ジネットの水着はホルターネックという、ブラの紐を首の後ろで結ぶタイプのビキニだ。
首の後ろで結ぶことにより、胸が持ち上げられ谷間をぐぐいっとより一層強調してくれる、おっぱい教の信者には非常にありがたい逸品だ。もし俺が三種の神器とか決める神様会議に出席したなら、このビキニを推薦するね。
パンツの腰には大きなリボンがあしらわれていて、心なしか露出が抑えられているように見える。パレオが無くても羞恥心を少し軽減させてくれるはずだ。
とにかくジネットの水着は動く度にふわふわぷるぷる揺れまくる仕様なのだ。
「ジネット」
「は、はい! ……なんでしょうか?」
水着を見られることにまだ慣れていないのだろう、ジネットは耳を赤くして落ち着かない様子だ。
そんなジネットにはっきりと伝えておく。
「ご馳走様です」
「そういうこと言わないでくださいっ!」
「「「ご馳走様です!」」ッス」
「みなさん懺悔してくださいっ!」
俺に便乗した男三人も怒られていた。
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