「そして、いよいよ第一位は……っ!」
「いや、もうさっき言っちゃったじゃん!?」
「白組ですっ!」
「だから知ってるって!」
とにかく盛り上げたいらしい給仕長ズ。
……というか、一位が嬉しかったようだ。
「ターゲットを絞り、無駄のない配置に無駄のない連携。まさしく、これぞ勝利の方程式です」
「参加選手が均等に、それぞれ成果を上げたのが勝利に繋がったと分析できます」
などと冷静に分析しているように見えるが……
「「いぃえ~い!」」
……うん。なんとなく分かってきたよ、お前らの思考パターンが。
背中合わせでVサインを突き出すイネスとデボラ。
こいつら、いつの間にか完全に白組に馴染んでたな。
忘れてるかもしれないけれど、……お前らが徒競走に出てりゃ、もうちょっとポイント稼げたんだからな?
「すごいですね、ヤシロさん! まさか一番になれるなんて!」
ジネットは、まるで優勝したかのような喜びようだ。
けれど、ジネットの貢献は大きい。
ちなみに、優勝した我が白組の内訳は――
100ポイント:2人
50ポイント:5人
10ポイント:1人
3ポイント:0人
合計八人と、4チーム中最下位のゲット数だ。
100ポイントのハムっ子を二人ゲット出来たことが勝因だ。それ以外にない。
「私とデボラさんのナイスコンビによる100ポイント(50ポイント×2人)が勝利に大きく貢献しましたね」
「これは、盛大にご褒美がいただけるに違いないですね」
「「ね!」」
給仕長ズがちょっとウザい……
「……白組の勝利は、マグダの貢献なくしてはあり得なかった」
一人で100ポイントのハムっ子を捕まえたマグダ。
確かに、マグダの貢献は大きい。文句なしに。
だが、それ以上に……
「ジネットの貢献が大きいだろう」
「いえ、わたしは何も……ただ運がよかっただけで」
「その運が大きかったんだよ」
「あたしもそう思うです。あれ以外でハム摩呂を捕まえる方法が思いつかないです」
「そう、なの……でしょうか?」
ハム摩呂が完全に無防備になれる相手であったこと。それがジネットに幸運を招いたのだ。
他のヤツではこうはいかない。
……よかったぁ、ベルティーナを退場させておいて。
「ただのラッキー。そう言ってしまえばそれまでだ。だがそのラッキーの結果、俺たちは高ポイントを得たのだ!」
ここで、ハムっ子ゲットだぜの内訳以上に発表したいことがありそうな顔をした給仕長ズに合図を送る。
言ってやれ。盛大に発表してやるがいい!
「今回の大量ポイント獲得により」
「我々白組は――」
「ついに――」
「ついに――っ!」
「「最下位を脱しました!」」
わっと歓声が上がる。
モーマットなんかは拳を振り上げ、ウーマロも飛び跳ねて喜んでいる。
な~んでリカルドがあんなに得意そうな顔でほくそ笑んでいるのかは謎だが、まぁ喜んでいるらしい。
今回の競技のポイントを加算した合計点は、このようになった。
1位 青組:1560ポイント
2位 白組:1500ポイント
3位 黄組:1445ポイント
4位 赤組:1365ポイント
ここへ来て、ついに白組が巻き返した。
ハム摩呂が黄組か赤組に取られていたら、白組は最下位のままだった。
青組に取られていたら3位だった。
ハム摩呂を、たとえラッキーだったとしても、ゲット出来た。
それが、この大逆転劇を生んだのだ。
「店長さん偉いです!」
「やりやがるですね、店長さん様!」
「大活躍デシタヨ!」
「やったダゼ!」
「店長さ~ん、いいこいいこしてあげるから、こっちきてしゃがんで~☆」
などなど、どいつもこいつも大はしゃぎだ。
「褒めてくださってありがとうございます。ですが、みなさんが――マグダさんやイネスさんやデボラさん。それに、バルバラさんやモコカさん、ウーマロさんたちやモーマットさんたちがいなければ、これだけのポイントにはなりませんでした。これは、みんなで獲得した成果です」
ジネットは、これほどまでにもて囃されても浮かれることもなく、みんなで頑張ったんだと主張する。
そして、単独で100ポイントを獲得したマグダを、誇らしげに抱っこする。
あ、分かってたんだ、ジネットも。ハム摩呂が抱っこされてるのを見て、マグダがちょっと羨ましそうにしてたこと。
「……皆の者、静粛に」
ジネットに抱っこされていたマグダが選手たちに向き直る。背中から抱かれる格好になり、その身長差から、小さな頭に大きなおっぱいが乗っかる。
「いいなぁー!」
「……ヤシロ、関係ない話はしないで」
俺も乗っけてほしいなぁー!
むしろ埋もれたい!
「……みんな、聞いてほしい。特に、『むしろ埋もれたい』みたいな顔をしているヤシロ」
へいへい。聞けばいいんだろ。
「……先ほどの競技。確かにマグダの貢献がきらりと光ったけれど、この逆転はみんなの功績だと、マグダは思う」
あ。ジネットが言ったいいセリフを自分のものにしようとしてるな、マグダのヤツ。
なに、そのドヤ顔? なに、その『いいこと言いましたよ』顔?
「……けれど、この逆転劇はまだ序の口。第一歩。……ここから白組の快進撃が始まる」
「そうです! 白組は、あたしたちは、まだまだこんなもんじゃないってとこ、見せつけてやろうです!」
「そうなのじゃ! わしらはもっともっとすごいのじゃ! このまま青組にも逆転して、絶対絶対優勝するのじゃ!」
チームリーダーと盛り上げ隊長、そしてかわいい隊長が選手たちを鼓舞する。
俺たちはまだイケるのだと。
もっと高みを目指せるのだと。
勝利をもぎ取れと。
「……白組選手一同よ。勝って、勝利を分かち合おうぞ」
「「「「うぉおおおおお!」」」」
「マグダたんマジ勝利の女神ッスー!」
単純な選手どもが乗せられて拳を振り上げる。
若干一名、いつも通りのキツネもいたけれど。
そんな中、ジネットが俺を見てくすくすと笑いをこぼす。
その視線を追うと、なんということでしょう、俺の拳も高々と突き上げられていた。
……いつの間に。
まぁ、それくらいには、俺もはしゃいでるってことだな。
最下位からの大逆転に。
とはいえまだ二位だ。
逆転したからこそ、気合いを入れないとな。ここから先は、他のチームも躍起になってくるだろう。
油断すれば、あっという間に転落してしまう。
マグダも同じことを考えていたらしく、同じようなことを口にした。
「……ここからは、戦いが激化していくと思われる。一瞬の油断が致命傷になり得る。だから……」
ジネットの腕から抜け出し、選手一同の注目を集めながらマグダが移動を開始する。
マグダが近付くと、そこにいた者は自然と場所を譲り、マグダの前に道が出来ていく。
その道を歩きながら、マグダは告げる。
「……後半戦を勝ち抜くための秘密兵器を用意した。それが、これ」
そう言って、開かれた道の先に立つ一人の少年を指差す。
頭に白い鉢巻を巻いた、非常に見覚えのある少年。そいつは――
「……ハム摩呂をこっそり白組に引き込んでおいた」
「はむまろ?」
「「「いや、反則だからそれ!?」」」
直後、ルシアが烈火の如き速度でハム摩呂を掻っ攫っていった。
その際「ムダ毛以外のすべての毛が抜け落ちろ、カタクチイワシッ!」などと暴言を吐いて。……だから、なんで俺に言うんだよ。
マグダの、こっそり鉢巻の色チェンジ作戦は失敗に終わり、俺たちは白組だけで残りの競技を戦うことになった。
……つか、それが普通だっつの。
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