ひとしきり飯を食い、あちらこちらで歓談し、招待客は思い思いの時間を過ごす。
そんな中、密かに行動を開始した一団がいた。
「みんな、注目するさね!」
「アテンションプリーズです!」
「……刮目せよ!」
「ぇ……っと、……み、見て、くださぁ~い!」
「食べながらでいいからね~! ちょっとこっち向いて~!」
「みんなー、鮭食ったかー!?」
壇上に、ノーマ、ロレッタ、マグダ、ミリィ、ネフェリー、デリアが登場する。ジネットとパウラは食事の準備があり、ナタリアはエステラのそばについていなければならず、エステラとベルティーナは立場上遠慮してもらい……このような面々になったわけだが……さて、こいつらが何をするのかというと……
「これから、ちょっとしたショーを披露するさね!」
ノーマが宣言すると、会場の……主に男どもが……歓声を上げた。
思い思いに食い物を摘まんでいた連中がステージ前に殺到し、立食パーティーは野外ライブのような盛り上がりをみせる。
「まずは、今回の目玉さね! ロレッタ!」
「はいです! 本日、正式に、四十二区に木こりギルドの支部が誕生したです! おめでたいです! 拍手です!」
腕をぶんぶん振り回して会場からの拍手を煽る。
盛大な拍手に満足したのか、今度は腕を「すーっ」と下ろして拍手を鎮める。
これでサングラスでもかけてりゃ、とある司会者にそっくりなんだがな。まぁ、三拍子で締めるなんてことはしてないけども。
「では、このめでたい日を歴史に刻むために、四十二区が誇る職人たちが、スペシャルな贈り物を用意したです! それが……あちらです!」
ロレッタが中庭の奥の方を指さす。
と、ハムっ子たちが曳く荷台に載せられて、巨大な『何か』が運ばれてきた。その『何か』には大きな布がかけられており、中を窺い知ることは出来ない。
「物凄く重いんで、マグダっちょデリアっちゅ、ちょっと降ろして、いいところに設置してきてです」
「……任せて」
「デリアっちゅってなんだ、デリアっちゅ!? ……ったくもう」
群がる観客を掻き分け、巨大な『何か』を荷車から降ろし、中庭の目立つところへ設置する。布の中を覗き込み、向きを確認して、マグダがこくりと頷いた。
「では! 主役のイメルダさん! 一番よく見えるここに来るです! ここですここ! そして、お兄ちゃんとエステラさんはあっちで除幕の準備をしてです!」
ロレッタに言われるがまま、イメルダが壇上に上がり、俺とエステラはその『何か』の両サイドに立った。
「これ、何か知ってるのかい?」
「あぁ。俺が発注したヤツだ」
「へぇ……楽しみだね」
そして、各々の準備が整ったところで、ベッコが壇上に上がる。続いてセロンとウェンディも壇上へと上がり、ノーマを含めて四人が横一列に並ぶ。
今回、この『何か』を制作した四人だ。
「では、制作チームのリーダー、ござるさんから一言もらうです」
「む、むむ……緊張するでござる。え~……こほん」
ガチガチに緊張しているベッコ。だが意を決して口を開き、堂々とした口調で話し始める。
「今回、拙者は初めて石の彫刻に挑戦したでござる。初めての挑戦、記念すべきめでたい日のメモリアルとなる重要な彫刻。凄まじいプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、協力してくれた仲間のおかげで、最高傑作と呼べるものが完成したでござる! 超自信作でござる! 実は拙者、この家にはしょっちゅうお邪魔して……というか、強引に拉致されて、訪問していたでござる。美しいもの好きのイメルダ氏の要望で、食品サンプルをたくさん作り、時には厳しい叱咤を受けながらも、実に充実した時間を過ごしたでござる。アノ時間があったからこそ、拙者はこの石像を作ることが出来たでござる。だからこそ、あえて言わせてほしいでござる。イメルダ氏、拙者に新しい世界を教えてくれて、ありがとうでござる」
深々と、腰を九十度に曲げる最敬礼をしたベッコ。イメルダは驚き、口元を覆っている。大きな目が零れ落ちそうなほど見開かれて……微かに潤んでいる。
「それでは、見ていただくとするでござる! タイトルは、『闇を照らす女神』!」
ベッコが叫び、ロレッタが「GO!」と合図を出す。
俺とエステラはその合図に合わせて、石像にかけられた巨大な布を引っ張った。
布が落ち、中から現れたのは……
「「「おぉ……」」」
思わず息をのんでしまうほど美しい、柔らかい笑みを湛えたイメルダの像だった。
気高く凛とした佇まい。誇らしく堂々と胸を張り、天を見つめるその姿はとても勇ましくもあり、包み込むような笑みを浮かべたその表情はとても淑やかでもあった。
静と動、明と暗、相反する二つの性質を兼ね備えたその姿は、まるで女神のように美しく、見る者の心を惹きつける。
『闇を照らす女神』――その名に相応しい、素晴らしい石像だ。
しかし、『闇を照らす』の部分の説明が一切なされていない。
まぁ、それは『闇』が訪れた時に分かるさ。
「大変素晴らしいものを……ありがとうございます。感謝いたしますわ」
イメルダが……アノ、イメルダが、自らの意思で深々と頭を下げる。
こいつは、本当に成長しているんだな。おそらく、これからもっと大きくなるに違いない。
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