「それでは、選手の皆さんは入場してください!」
給仕が言って、各チームの選手が一斉に入場門をくぐる。
各チーム二十人ずつ。年齢制限無しの選抜制。
白組にガキが多いことをエステラが訝しんでいたようだが、赤組も同様の布陣なので特に何かを言ってくることはなかった。
ジネットやベルティーナの意見を尊重しガキが参加できる競技にはなるべく参加させてやりたい、そんな思惑のように映ったのだろう。ヤツの目には。
そんなつもりはさらさらないのにな。
「おい、英雄!」
トラックの中に入ると、救護テントの中からバルバラの騒がしい声が飛んできた。
「そういう競技ならテレサも参加できただろうが! 誘えよ!」
「テレサが出るならお前も出るって言い出すだろ?」
「当然だろう! アーシとテレサは一心同体だからな!」
だから声をかけなかったんだよ。
バルバラみたいな堪え性のないヤツには『今回の作戦』は無理だ。邪魔にしかならない。
「テレサはさっき走ったばっかだろ。今回は見てて、次の競技に参加しろ。きっといいことがあるから」
「ホントだな!? 絶対だな!? テレサが喜ばなかったら鼻にカンチョーするからな!?」
鼻にカンチョーってなんだ!?
おっそろしいことを言うな……
大丈夫だ。なにせ、次の競技はパン食い競争だからな。
参加すりゃ誰もが大喜びするだろうよ。
そして、テレサみたいなヤツが大喜びすれば……俺が儲かるのだ。むふふふん。
それはあとのお楽しみとして、今は玉入れに集中だ。
「よし、みんな集まれ」
俺は白組の選手を呼び集める。
十人の大人と十人の子供。
全員の目が俺を見つめる。
「玉入れは、カゴに玉を当てる競技じゃない。玉を入れる競技だ」
「そんなこと分かっておるのじゃ」
「まぁ聞けよリベカ。玉は一直線に飛んでいくが、落ちる時は放物線を描くものだ」
「……つまり、玉を投げる際、最高到達点はカゴよりもわずか前方に設定するべき?」
「そういうことだ」
カゴの真上に放物線のピークを持ってくると、カゴを飛び越えて向こう側に落下してしまう。狙うのは『カゴの少し手前』だ。
この当たり前のことを意識しているのとしていないのとでは、結果に大きな差が生まれる。
制限時間がある競技ゆえに、選手は常に焦りによるプチ興奮状態へと陥ってしまう。
そんな状態で冷静に軌道修正など出来ない。とにかく玉数を増やそうとしてしまい、結果無駄撃ちが多くなる。
特に十歳未満のガキは空間把握能力が未発達であることが多く、玉の軌道を予測することが苦手なものだ。
とある機関の調査では、十歳未満のガキに玉入れを練習させて、成功率が八割を超えたところでカゴの高さを10センチ下げたら成功率が三割にまで急落したらしい。
カゴが下がった分の微調整が出来なかったのだ。
つーわけで、純粋で素直な……まぁつまりアホばっかのガキどもにはあらかじめコツを教えておいてやらなければいけないわけだ。
しっかり頼むぜガキども。
白組が何ポイント稼げるかは、お前らの頑張り次第なんだからな。
「あと、玉は山なりに投げろ。カゴにダメージを与えて撃ち落す競技じゃないからな。勢いはいらん。分かったな?」
「「「はーい!」」」
元気のいい返事をもらい、ガキどもを解放する。
白組のカゴの周りにガキが散らばっていく。
「かわいい隊は、かわいく勝利をもぎ取るのじゃー!」
「「「おー!」」」
で、残った大人たちにはしっかりと、『作戦』を伝達しておく。
ジネットとマーシャ以外の大人たちに。
「特にロレッタ。お前の役割は重要だから、しっかり頼むぞ」
「任せてです! あたし『足』には自信あるですから!」
期待してるぞ、お前の『足』に。
「……マグダも、『脚』には自信があっは~ん」
「違うですよ、マグダっちょ!? セクシーさの話じゃないです! で、最後まで言い切る前にセクシー前面に出し過ぎです!」
ま、好きにしてくれ。
マグダに期待するのは、『目』と『腕』だからよ。『脚』はどうでもいい。見せびらかしたければ見せびらかせばいい。
「はぅうう! オイラ、外野なのにすでに戦闘不能ッス!」
……うん。あいつをメンバーから外しておいてよかった。
「制限時間は二十分です。二十分間でカゴに入った玉の数がポイントとして加算されます」
進行係の給仕が改めてルールを説明し、各チームのかごの周りにチームごとの色分けがされた玉がばら撒かれていく。
白組は、白組のカゴに白玉を入れて初めて点数となる。
赤玉が白カゴに入ったとしても、赤組にも白組にも点数は入らない。
「なお、他チームの玉を奪う行為、玉拾いを妨害する行為は反則となります。他チームが投げた玉を掴む行為も反則です」
と、エステラがしつこいくらいに釘を刺してきた禁止事項を、エステラんとこの給仕が改めて禁止であると告げる。
「だが! こちらから選手に玉をぶつける行為は禁止されていない! ウッセを戦闘不能にしてやるぜ!」
「あっはっはっ、ヤシロ! 当然その『裏技』には気が付いていたよ。けど…………真っ向勝負を受ける勇気はあるのかい?」
エステラの周りに居並ぶ狩猟ギルドのおっさんたち。
メドラも含めて、こちらに威圧的な視線を向けてきてやがる。
いくらマグダと給仕長ズがいるとは言え、メドラ&狩猟ギルドとの全面戦争は分が悪い……
俺は口をつぐんで、大人しく両手を上げる。降参のポーズだ。
「賢明な判断だね」
エステラが勝ち誇ったように言う。
もっとも、こちらとしても玉のぶつけ合い合戦などするつもりはなかった。
ただ、『それもありなのだ』ということは、今ここであえて知らしめる必要があっただけで。
「紳士協定を結ぼうじゃないか。スポーツはあくまで正々堂々、気持ちのいいものにしたいからね。人体への不当な攻撃はお互い無しにしないかい?」
「アタシたちはかまわないよ。ウチのチームは乙女ばかりだからね、荒事は望むところじゃないのさ。なぁ、みんな?」
「「「さんせ~い!」」」
「いや、乙女って……ねぇ、ノーマ?」
「うるさいよ、パウラ。あたしに振るんじゃないさね……」
青組の申し出に、黄組が賛同する。
後ろを振り返りデリア、ルシアと目配せをする。
「あたいらもそれでいいぞ」
「カタクチイワシの野蛮な戯言など、一顧だにする価値もない」
赤組までもが賛同したということで、白組もその紳士協定に乗っておく。
人体への攻撃は行わない。
……ただし、正々堂々って部分には同意しかねるけどな。
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