異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加10話 パジャマでおじゃま -2-

公開日時: 2021年3月28日(日) 20:01
文字数:3,733

「――というわけで、そのサル人族に対抗できる戦力が欲しいんだ」

「決闘……ですか?」

「まぁ、ちょっと乱暴な響きではあるが、テレサを救出するためには必要なんだ」

「そうね……そんな短絡的な人だと、一人で行かせるのは不安、よね?」

 

 と、決闘に難色を示すジネットを宥めるように、ネフェリーがジネットに語りかける。

 ジネットも、テレサの救出は急務だと感じているらしく、「そう、ですね……」と、小さく頷いた。

 

「話は聞かせてもろぅたで」

 

 ドアの向こうから声がして、レジーナが店から出てくる。

 黒猫の着ぐるみパジャマを着て。

 

「……どこで手に入れた、それ?」

「店長はんのお手製や」

「あの、ヤシロさんが以前、こういう物があるとおっしゃっていたので……作ってみたいなと……」

 

 確かに、日本にはそういうパジャマもあるんだぞと、どこかで言ったかもしれんが……作るかね。

 というか、いつも魔女みたいな服ばかり着ているレジーナが物凄く可愛らしいネコの着ぐるみパジャマを着ていて妙に可愛らしい。似合うな、お前。

 

「あんまじっと見んといてんか……この下が全裸やってバレるやん」

「いや、自分でバラしてんじゃねぇか!? つか、つけてこいよ、下着!」

「急いでたんや」

「はしょるとこ、他にもあったろ……」

 

 なぜそこを省略したのか……

 

「で、その妹はんの症状やけど……」

「あぁ。予測でしかないが、ビタミン欠乏症じゃないかと思うんだ」

「四十一区いぅたら、たしか立地的に魚の流通はあんまあらへんのやったなぁ」

「それに、内臓系も食わないらしいしな」

「……内臓? え、自分、内臓なんか食べるん?」

 

 そうか。

 この街では内臓って食わないんだ……美味いのにな、ハラミとか。

 レバーにはビタミンAが豊富に含まれているのだが、食べる習慣がないのであれば知られていなくても仕方ないか。

 

「食生活の改善は難しいんかもしれへんけど……早ぅ手ぇ打たな、手遅れになってしまうかもしれへんね」

 

 回復する見込みのあるうちに処置を施さなければ、失った光が戻ることはなくなってしまう。

 

「そのためには、視野の狭いバカ姉を力でねじ伏せる必要があるんだが……」

「なら、あたいが相手してやるよ」

 

 どばたーん! と、ドアを開け放ち、デリアが庭に出てくる。

 濡れた髪がぎざぎざに立っている。乱暴に髪の毛を拭いたんだろうな。……梳かせよ、少しは。

 

 ちょっと裾の長いタンクトップシャツに短パンという出で立ちのデリア。デリアらしい寝間着だ。

 普段はチューブトップみたいな服を着ているので布地は増えているのだが……隠れた部分が増えた分、なんかチラ見え感が増してちょっとドキッとする。

 シャツの裾から見え隠れする短パンとか。

 

「力押しが通用する相手じゃないなら、アタシが出ても構わないさよ」

 

 デリアの後ろから、長い髪をタオルで押さえ拭きながらノーマが姿を現す。

 

 薄手の浴衣のような寝間着を羽織り、歩く度に波打つ谷間と、ちらりと覗く眩しい内ももが視界に飛び込んでくる。

 

「あぁっ、俺はどこを見ればいいんだ!?」

「どこも見ないでくださいっ」

 

 ジネットの両手が俺の頬を挟み込んで強制的に首の角度を変える。

 待て待て待て! この体勢は無理がある! 攣る! 首の筋攣るから!

 

 ジネットの手から逃れ、首の筋を揉む。

 くそ……こんなにたくさん湯上がり寝間着姿の美女美少女がいるってのに、揉めるのは自分の首の筋だけとか……何か間違ってんじゃないのか、この世界。

 

「単純に聞きたいんだけど、デリアとノーマってどっちが強いんだ?」

「戦闘ってことならデリアさね。アタシじゃ到底太刀打ちできないさよ」

「いや、でもよぉ。ノーマはズルい技使うんだよなぁ。こう、あたいが力を入れられない方向に腕を曲げたりしてきてさぁ」

 

 それはズルいんじゃなくて、そういう技なんだよ。

 合気道とか護身術によくあるヤツだ。

 

「速さはノーマの方が上だよな。あたいが本気で殴ろうとしても大抵かわされちまうもんなぁ」

「けど、アタシが締め落とそうとしても、デリアのパワーには負けちまうからねぇ」

「……つか、お前ら、え、仲悪いの?」

 

 何回か真剣にバトってるって感じがするんだけど?

 

「デリアが決闘を挑んでくるんさよ」

「ノーマだってたまに挑んでくるだろう!?」

 

 戦闘マニアかよ、お前らは。

 

「あたし、知ってるですよ!」

 

 武闘派二人の間に立ち、ロレッタが訳知り顔を「どやぁ」っとさらす。

 

「前にゴロツキギルドの人たちを追っ払う時に頼られて以降、いつお兄ちゃんに頼られても応えられるように、二人とも鍛錬してるです」

「ちょっ!? バラすなよ、ロレッタ!」

「ア、アタシは、別に…………適度な運動は健康と美容のためさね」

 

 そっか。

 こいつら、そうやっていつも気にかけてくれているんだ……

 で、まんまとこうやって頼っちまってるわけか。

 

「ありがとうな、二人とも」

「い、いやさね、ヤシロ。なに改まってんだい、らしくもないさね」

「そうだぞ、ヤシロ! あたいは頼れる女だからな! これくらい当然だぞ!」

 

 俺の何気ない言動が、こいつらに影響を与えてるんだな。

 ありがたいような……ちょっと怖いような。

 

「いつかまとめて礼をするよ。借りを作りっぱなしは落ち着かないからな」

「ホントか!?」

「なんでもいいさね?」

 

 物凄く食いついてきた二人。

 さて、何を要求されるのか……と身構えていると。

 

「「あれが欲しい!」さね!」

 

 と、同時にレジーナを指差した。

 

「あんな変態が欲しいのか?」

「さらっと酷いなぁ、自分」

「違ぇよ! あの変態じゃなくて、ガワだよ、ガワ!」

「クマの美人はんも酷いわぁ」

「あの寝間着が欲しいんさね! 中の変態じゃなく!」

「キツネの美人はんに言われると、なんや、そーゆープレイみたいでむらむらするなぁ」

「なんでアタシん時だけ反応が違うんさね!?」

 

 きゃいきゃいと戯れるノーマとレジーナ。

 けど、寝間着って……

 

「俺じゃなくて、ジネット案件だな」

「では、みなさんの分も作っておきますね」

「ほんとか!?」

「なら、頑張って役に立つさね!」

 

 そんなに欲しいかねぇ、着ぐるみパジャマ。

 まぁ、目新しい物好きだからなぁ、こいつら。

 

「では、ヤシロさんはいろんなバリエーションを考えておいてくださいね」

「デザインは俺がするのかよ……」

「ヤシロさんの方が、わたしよりも可愛いのを思いつきそうですから」

 

 普通逆じゃねぇか。お前の方が可愛いの好きそうなのに。

 まぁ、やるけども。

 

「でも、強さで言ったら、やっぱマグダが一番だよな」

「あれは別格さね」

「え、そうなのか?」

 

 俺はてっきり、お前ら三人は同じくらいなのかと。

 

「当たり前だろう? マグダはプロだぞ」

「『赤いモヤモヤしたなんか光るヤツ』を使われたら、到底太刀打ちできないさね」

「アレがない状態でも強いのになぁ」

 

 そうだったのか。

 マグダって、すげぇんだな。

 あと、ノーマは律儀だな。略さないんだ『赤モヤ』。

 

「ちなみにだけど、ナタリアは?」

「あいつは種類が違うよなぁ」

「そうさね。あれは戦闘というより暗殺向きさね」

 

 物騒なワードが出てきたな、おい。

 

「ルールがあって、開始のタイミングが決まっていて、移動範囲が制限されていれば、アタシらでも太刀打ちできるさね。けど、ルールなしの殺し合いなら、たぶんアタシは負けるんじゃないかぃねぇ」

「あたいは……ん~…………どうかなぁ。やりにくいんだよなぁ、ナタリアとかノーマって」

 

 ナタリアって、やっぱすげぇんだな。

 四十二区トップクラスの獣人族にそこまで言わせるとは。

 

「じゃあ、エステラなら?」

「「あれには勝てる」さね」

 

 エステラは、まだまだっぽい。

 それでも、俺なんかよりずっと強いんだけどなぁ、エステラも。

 

 戦略を練ってくる切れ者タイプでない場合はデリアの方が有効そうか。

 ナタリアみたいに状況を利用して仕掛けてくるタイプだと、ノーマの方がいけるかもしれない。

 ……ナタリアに任せてみるってのも手ではあるのだが…………やっぱり圧倒的に打ち負かしてやる必要があるだろうし、デリアかな。

 

「マグダは、カンタルチカの仕事があるからなぁ」

「あの、でも……!」

 

 ロレッタが一歩、俺に詰め寄ってくる。

 そして、「あぅ……」と照れた顔で言葉を探す。

 

「一応、話だけはしに行ってあげたいです……マグダっちょ、除け者にされるの、寂しがる……ですから」

 

 飯を断った罪悪感が今さら芽生えてきたのか、はたまた単純にマグダのことを気にかけているだけか。

 とにかく、ロレッタは一度マグダに会いに行きたいらしい。

 

 ……決闘できる場所の確保をエステラに頼んだら、「ちょっと時間がかかるかもしれないよ」とか言ってたし、まだ猶予はあるか。

 

「じゃあ、話だけしに行くか」

「はいです!」

「ではみなさん。寝間着で街をうろつくのはどうかと思いますので、外套をお持ちしますね」

 

 別に全員で行く必要はないのだが……ジネットもマグダに会いたいのだろう。昼に会ったってのに。寂しがり屋が多いんだから、この店。

 

「で、イメルダは?」

「もう寝とるで。起こしたるか?」

 

 ……小学生かよ、イメルダ。

 

 ジネットとイメルダが揃って陽だまり亭から出てきて、俺たちは揃ってカンタルチカへと向かった。

 結構な大所帯だ。

 なんだかんだと決闘ってのが心配なようで、全員付いてきたいと言っていた。

 

 エステラの呆れ顔が今から目に浮かぶようだ。

 

 

 

 

 

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