「おいおい、なんだよ!? 邪魔な男どもだな!?」
「まったくさね。暑苦しいったらないねぇ」
どたどたと店を出て行く大男どもの向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「客じゃねぇヤツはさっさと出て行きな!」
「まったく、図々しいったらないねぇ」
ドア付近でごった返す大男たちをかき分けて入店してきたのは、デリアとノーマだった。
よく来てくれたな。当然、ご招待客だ。
「ワタクシもいますわよ」
そして、少し遅れてイメルダが入店する。
目立ちたかったようだ。……一緒に入ってくりゃいいものを、小さいところにこだわるなぁ、こいつは。
両手を広げ、華やかに登場したイメルダを無視して、デリアとノーマは突っ立っている大男の前に立つ。一対一。顔を覗き込み明確な声で言う。
「邪魔だ、どけ」
「目障りさね」
はっきりとケンカを売られた大男が腰にぶら下げた剣を抜こうとする。
が……
「「――っ!?」」
剣の柄を押さえるデリア。
それだけで、大男は剣が抜けなくなったようだ。デリアのパワーの前に、為す術もない。
そしてノーマは、大男が柄を握る前に煙管を大男の首筋にピタリと宛がっていた。
一目で分かる。実力に差があり過ぎる。
故に、大男はデリアとノーマ、この二人に対して何も出来ない。
「まったく。騒がしいですわね。ワタクシは優雅に紅茶をいただきますわよ」
イメルダはそう言って、椅子に座る大男の前へと行き、仁王立ちになる。
「おどきなさい。今日はワタクシ、この席で紅茶をいただきたい気分ですの」
「……あぁ!?」
野太い声を出し、大男がイメルダに掴みかかろうとしたまさにその時、大男に引けを取らない、非常に暑苦しくも頼もしい、図体のデカい男どもがなだれ込んできた。
「「「「お嬢様に、気安く触れんじゃねぇぇぇえええあああああああっ!」」」」
木こりギルドのイメルダ親衛隊だ。
…………もう四十二区に来てやがったのか。
イメルダを守るように立ち、そしてイメルダに狼藉を働こうとした大男を威嚇するように取り囲む。
さすがの男も、これだけの数の暑苦しい……もとい、むさい……いやいや、ガタイのいい木こりどもに囲まれては平常心ではいられないようで、額から汗をダラダラ流し始めた。
「最後にもう一度だけ申し上げますわ。『お退きなさい』!」
「……は、はい…………」
イメルダの言葉に、大男はゆらりと立ち上がり席を譲った。
「テメェら……やってくれんじゃねぇか!?」
ロン毛が声を荒らげ机を蹴り倒す。
「おい! テメェら! 構うことはねぇ! 全員入ってこい! こうなりゃまどろっこしいのはやめだ! この店ぶっ壊して営業できなくしてやれ!」
ロン毛の声に、外に出ていた大男は…………反応しなかった。
「おい!? どうした!? 入ってこいよ!」
そう言われて、無数の大男が店内へと入ってくる。
ただし……
「……え、誰だよ、てめぇら……?」
ゴロツキどもではなかった。
ロン毛が戸惑い、次々入ってくる大男たちを前に呆然としている。
「こいつらはあたいの仕事仲間だ」
「こっちが、アタシが可愛がってる連中さね」
そいつらは、川漁ギルドの漁師たちと、金物通りで板金工や鍛冶師をしている職人たちだった。
俺も何度か顔を合わせたことがある連中だが…………オッサンども、相変わらず顔怖ぇよ……ゴロツキどもが萌えキャラに見えてくるほどだ。
「こいつらはデリアやノーマの知り合いであると同時に、俺の知り合いでもある。十七分ごとにどっちかの連れってことでその都度変わっていくがまぁ気にするな。邪魔なら言ってくれ。退けさせるから」
ロン毛の顔が分かりやすく歪む。
「……ふ、ふん。そうかよ。よく分かったぜ」
ロン毛が、冷や汗を浮かべながらも口元に笑みを浮かべる。
「確かに、今日のところは引き下がった方がよさそうだな。だがな! これで終わりじゃねぇからな? この店は明日も明後日もずっと営業するんだろ? 今回みたいな総力戦が、いつまで続けられるかな?」
「総力戦? なんのことだ?」
「とぼけんじゃねぇ! 四十二区で腕に覚えのあるヤツを全員かき集めてきたんだろうが! 大方、お前がメモを渡した特徴のない普通な女が使いに走ったんだ!」
ロレッタのことらしい。
「だが残念だったな! 今回は準備が足りなかっただけで、こっちには打つ手がいくらでもあんだよ!」
「ほぅ……」
虚勢を張るロン毛の目は、盛大に泳いでいた。
「そ、そんな余裕かましてられんのも今のうちだぜ! こうなりゃ、手下をかき集められるだけかき集めて、この店を取り囲んで……っ!」
意地になったロン毛が唾を飛ばしてがなりたてる。
その時――
「「「りょーーーーーしゅさまあぁぁあああーー!」」 」
突然、食堂の外から元気のいい声が聞こえてくる。
ガキどもの声だ。
「な、なんだよ、今度は!?」
「兄貴っ! 大変ですぜ!」
外に追いやられていたゴロツキの一人が、取り乱した様子で駆け込んでくる。
「そ、外に、恐ろしい軍隊が!?」
「軍隊だぁ!?」
ロン毛は走り出し、ドアの前に立つゴロツキを押し退けて外へ転がり出て行く。
俺もその後を追う。ゆっくりとな。
「…………なっ…………!?」
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