異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

393話 役割分担 -3-

公開日時: 2022年10月6日(木) 20:01
文字数:4,162

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、お兄ちゃ~ん!」

 

 バタバタと、次女がフロアへ駆け込んでくる。

 ……なんで間に一回ロレッタを挟んだ?

 そのせいで『お兄ちゃん』がもう一人いるみたいになったじゃねぇか。

 

「なんだい、次女よ?」

「なに低い声出してんの、ナタリア?」

「シェイラたちがお化け屋敷で男性の声を出して演技してるのが羨ましいんだよ。この前もね、演技指導だとか言って混ぜてもらって遊んでたんだから」

「遊びではありません。強化訓練です」

 

 エステラに指摘されて、若干照れたらしい。

 ナタリアが素の表情で反論している。

 お前も好きなんだな、あーゆーノリ。

 

「それで、次女。どうかしたですか? まさか、トラブルですか?」

「大事件だよ! あのね、あのね!」

 

 両腕をぱたぱたさせて次女が声を上げる。

 嬉しそうな顔を見るに、大した話ではなさそうだが。

 

「カニぱ~にゃんがね、もう、ちょ~ぅ超チョウ可愛いの~!」

 

 ま、そーゆー感じだよな、次女の持ってくる大事件なんて。

 

 カンパニュラは、今二階で次女たちからのプレゼントだという服に着替えているところだ。

 おそらく、その服がとてつもなく似合っているのだろう。

 ま、カンパニュラくらいの年齢で、落ち着いていて、目鼻立ちが整っているなら、何を着せても可愛くなるもんだ。

 

「つまり、カンパニュラなら何を着ても可愛いのは当然だ」

「ヤシロ。それ、ものすっごい親馬鹿発言だって気付いてる?」

「つまり、カンパニュラなら何を着ても可愛いのは当然だ(Byハビエル)」

「はぅっ!? 同じセリフなのに、ちょい足しただけで全然印象が異なるです!?」

「……むせ返るほど漂う犯罪臭」

「みなさん、ハビエルさんに悪いですよ」

 

 いや、ジネット。

 むしろ悪いのはハビエルの方だろう。

 まったく、度し難い変態だな、あの木こりは。

 

「お姉ちゃ~ん。一人で先走っちゃダメって、あたし、いつも言ってるよ」

 

 むっくりとほっぺたを膨らませて三女が厨房から顔を出す。

 なんだアレ。

 アクの強い上二人を見た後だとすごく可愛く見えるな。

 

「三女可愛い」

「ちょっと待ってです、お兄ちゃん!? 長女もちゃんと可愛いですよ!? もっとよく見てです!」

「次女も~☆ 褒めて褒めて~!」

「うん。三女可愛い」

「ぁ、あの……ありがと、お兄ちゃん…………うきゅっ!」

 

 あ、照れて引っ込んだ。

 

「三女可愛っ!」

「それ以上はイジメになるよ」

「次女! あたしたちも照れるですよ!」

「うん! じゃあ、上を脱ぐね!」

「なんでです!?」

「『いや~ん』って言うためだよっ!」

「それは照れてないです! むしろイケイケです!?」

「でもお兄ちゃんには効果絶大だって、レジー……匿名希望の薬剤師さんが教えてくれたの☆」

「レジーナさん、ウチの妹になに教えてくれてんですか!?」

「よし。とりあえず試しに一度やってみよう」

「お兄ちゃんはちょっとあっち行っててです! 姉妹間の問題が勃発したですから!」

「もう、ヤシロさん。ダメですよ」

「エステラ様」

「……なんだい、ナタリア」

「ヒューイット家の過剰摂取は胃がもたれますね」

「うん。それには同意だね」

 

 特に長女と次女が揃うといっつも賑やかになる。

 ロレッタ、ピンだと薄味なのになぁ。

 

「……ヤシロ。三女の話を聞いてあげて」

 

 わちゃわちゃするロレッタたちをフロアの奥へと追いやりつつ、マグダが厨房の方を指さす。

 

「……カンパニュラのお披露目」

「おぉ、着替えてきたのか。じゃあ、見せてもらおうか」

 

 マグダが鼻をヒクヒクさせて教えてくれる。

 カンパニュラも厨房へ来ているようだ。

 それじゃあ、着替えたカンパニュラを見せてもらおうか。

 

「えっと、もう大丈夫? お姉ちゃんたち、言いたいこと言い終わった?」

「そんな気は遣わなくていいから。なんなら『黙れ上二人』って言っときゃいい」

「三女に変なこと教えないでです、お兄ちゃん! 序列が大切なんです、姉弟というものは!」

 

 上がいつまでも居座ってデカい顔をしてると、下がいつまでも育たないぞ。

 頃合いを見計らって離脱してやれよ。

 結婚するとか、自分探しの旅に出るとかしてな。

 

「ロレッタ、自分探しの旅でもしてみるか?」

「必要ないですよ!? あたしはちゃんとあたしを把握してるですから!」

「……じゃあ、自分隠しの旅」

「隠してどうするです!?」

「世界中に散りばめられたロレッタさんを集める大冒険ですね!」

「その状況、あたしバラバラになっちゃってるですよね、ナタリアさん!?」

「大丈夫だよ。たぶんロレッタはバラバラになったくらいじゃ死なないから。知らないけど」

「エステラさん、お疲れが溜まってるです!? なんか物凄く発言がテキトーですよ!?」

「ロレッタさんは、ずっとここにいてくれますもんね?」

「店長さ~ん! あたし、ずっとここにいるです~!」

「……こどロレ」

「なんです、その耳慣れない珍妙ワード!?」

「……子供部屋ロレッタの略」

「住み着きはしないですよ!? あたしは自立した大人ですから!」

「じゃあ、自立した大人のロレッタ。いい加減、気を遣ってじっと待ってる三女とカンパニュラの気持ちを考えてやれ」

「……まったく、ロレッタは」

「まぁ、分からなくもありませんね。騒ぎたい年頃なのでしょう」

「ほどほどにね、ロレッタ」

「はぅ!? なんかあたし一人だけがはしゃいでたみたいな空気醸し出されてるです!? なんかイくないです、この空気! ここは危険地帯です! 気を付けるですよ、次女!」

「三女~、カニぱ~にゃん、もう出て来てい~よ~」

「次女まであたしを置き去りです!?」

 

 最後まで騒ぐロレッタの口をマグダが強制的に塞ぎ、一同の視線が厨房へと向かう。

 恐縮しながら、三女がそろりそろりとフロアへと出てくる。

 

「えっと、それじゃ……、お姉ちゃん、大丈夫? ……じゃあ、カニぱ~にゃちゃんを呼ぶね」

 

 ロレッタの顔色窺ったな、今。

 三女はロレッタがイジられてると、ちょっと心配そうな顔するんだよなぁ。

 ロレッタは絶対「今、あたし、めっちゃオイシイです!」って思ってるのに。

 

「じゃあ、出てきて。カニぱ~にゃちゃん」

「はい。……あの、あまりこのような衣装は着たことがないので緊張しますが……」

 

 そんなことを言いながら、フロアに姿を現したカンパニュラは――

 

「でも、柔らかい肌触りが気持ちいいですし、大変動きやすい素敵なお召し物だと思います」

 

 

 ――ブルマ&体操服だった。

 

 

「何着せてんの、次女三女!?」

「ブルマー!」

 

 いやいやいや!

 それは見たら分かるんだけどね!

 

「あのね、お兄ちゃん。今日、妹たちみんなで体操服を着てて思ったんだけど、カニぱ~にゃちゃんだけ体操服持ってないなって思ったのね。テレサちゃんも持ってるのに。それって、なんだか可哀想かもって思って、お姉ちゃん――次女お姉ちゃんに相談したら、『じゃあ、プレゼントしてあげよ~☆』って」

 

 うん。めっちゃ似てるな次女のマネ。

 え、なに?

 お前らは姉弟間のモノマネ、練習とかしてんの?

 

「それでね~」

 

 三女の話を、次女が引き継ぐ。

 

「お姉ちゃんに相談しようと思ったんだけど、お姉ちゃん忙しそうだったし、いつもカニぱ~にゃんの近くにいたから相談できなくて、それで、お財布からお金だけ抜いたの~!」

「最後、めっちゃ犯罪ですからね!? 姉妹でなければ大問題だったですからね!?」

「お姉ちゃんの物は妹の物!」

「誰が決めたですか、そんなもの!?」

「……両親?」

「………………おのれ、両親め」

 

 

 ロレッタの黒い部分がチラ見えしたな、今。

 

「お姉ちゃんのパンツも、弟妹でシェアしてるし~」

「初耳ですし、その前に弟はシェアしないでです!」

「この前ハム摩呂が、窓枠拭いてたよ」

「使い方っ! なんか安心しつつもちょっと釈然としないものがお腹の中に溜まっていくですね、その情報!? 明日、ちょっと弟妹全員で家族会議するですよ!」

「ちなみにそのサブスク、俺も参加できる?」

「お兄ちゃんは今ちょっと入ってこないでです! これは家族間の問題ですから!」

 

 問題多いな、お前の家族。

 家族単位で見れば、四十二区でトップクラスに裕福な家庭なのにな。

 

「それよりもヤシロさん。カンパニュラさんの体操服、可愛いですよ」

 

 ジネットがロレッタのパンツ事情を『それよりも』と流す。

 視線の動きを見るに、ロレッタに気を遣って、俺を遠ざけようって魂胆か。

 俺としては、ロレッタのパンツ話で一晩語り明かしてもいいくらいの覚悟は出来ているんだけどな。

 しょうがない。

 

「カンパニュラ。これでみんなとお揃いだな」

「はい。……ただ、足が、ちょっと、恥ずかしいです」

「そんなことないですよ。とても綺麗な脚ですから、よく似合っていますよ」

「そうそう。ジネットも太もも全開だったもんな」

「はぅっ!? ……あ、あの…………思い出さないでくださいっ」

 

 カンパニュラには「大丈夫」と言ったのに、自分は大丈夫じゃないらしい。

 

「エステラ。今年もやるのか、区民運動会?」

「そのつもりだよ。今度はちゃんと競技のルールを決めて、まっとうに競えるように調整するからね」

 

 その前に、他区からの飛び入りを禁止しとけよ。

 どうしても参加したいなら、クッソ高い参加料を徴収しろ。

 もうあんなしんどい思いは御免だぞ、俺は。

 

「パン食い競争は難しそうだけどね」

「ならアンドーナツでやればいい」

「それでしたら、陽だまり亭でご用意できますね」

「名前も『パン食い競争』じゃなくて『あぁ~ん食い競争』に変えてな」

「なんで伸ばしたの!? 『あん食い競争』でいいじゃないか!?」

 

 なぜ伸ばしたか?

 そんなもん、その方が楽しいからに決まっているだろうが!

 

「とにかく、運動会はやるってことで――」

 

 ぽんっと、カンパニュラの頭に手を乗せる。

 

「そん時は、それを着てお前も参加するといい。まだ随分先の話だけどな」

「ご一緒してもよろしいんですか?」

「もちろんだよ。カンパニュラなら大歓迎さ」

「同じチームになれるといいですね、カンパニュラさん」

「よく分かりませんが、とても楽しそうですね」

 

 運動会は口頭で聞かされてもよく分からないんだよな。

 

「とりあえず明日はテレサや妹たちと一緒にそれで売り子をしてみるか?」

「はい! テレサさんや妹姉様たちとお揃いなのは、とても嬉しいです」

 

 

 にっこりと、全力の笑みを浮かべるカンパニュラ。

 でもな、カンパニュラ。

 

 いくらお前よりは年上で、みんなから妹って呼ばれてるとはいえ、『妹姉様』はなくないか?

 

 

 

 

 

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