異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

無添加42話 パン食い競争 メインディッシュ -4-

公開日時: 2021年4月1日(木) 20:01
文字数:3,271

 青組がウェンディ、黄組がネフェリー、白組がニッカ、赤組がイメルダだ。

 

「イメルダのせいで、他三人がすげぇ薄味に見える!」

「失礼ですわよ、ヤシロさん! 他の方々がワタクシより見劣りするだなんて、正直な発言は」

「いや、お前が濃過ぎるっつってんだよ!」

 

 どんだけポジティブなんだ、あのお嬢様は。

 

 しかし、組み合わせの妙というか……

 

「人妻(ブルマ)が二人も!」

「あ、あの、英雄様……その表現はなんだか恥ずかしいのですが」

「卑猥な目で見るなデスヨ、カタクチイワシ!」

「黄組がノーマだったら、人妻パラダイスが……!」

「あたしは未婚さね!」

 

 いや、でも、ノーマ!

 お前はダントツで人妻オーラが……おっと、煙管を取り出したな。やめておこう。

 

「さぁ、いよいよワタクシが輝く時間ですわ! 刮目なさいまし!」

 

 何を着ても華やかな輝きを放つイメルダ。

 出るところは出て、引っ込むところが引き締まり、顕わになった太ももまで眩しいとなれば、嫌でも視線を集めてしまう。

 

 こういうのにしか出たくないんだろうな、こいつは。

 

 そして、鐘の音とともに選手が一斉に走り出す。

 イメルダは華やかに、ニッカは果敢に、ネフェリーはのびのびと――

 

「そして、ウェンディは今晩の睡眠を諦める意気込みで!」

「いえ、あの! レジーナさんにお薬をいただきまして、夜間の発光はだいぶ抑えられるように…………うぅ、確かに、こんなに日の下にいれば夜には恐ろしいことに…………しくしく」

「ヤシロ様。新婚家庭は逆に眠れなくても好都合なのでは?」

「爆ぜろ、セロン!」

「どうして僕が!?」

 

 どうして!?

 理由が必要か!?

「やだ、恥ずかしい……明かりを消して」「何を言ってるんだい。輝いているのは、君だよ」「あ、ホントだ~、てへ~☆」とかやってんのか!? やってんだろ、どーせ! けっ!

 

「カール宅では絶対起こり得ない甘イチャを堪能しやがって!」

「言いがかりダゾ! ウチだって幸せにやってんダゾ!」

「ほぅ……じゃあ詳しく聞かせてもらおうか、お前の家の甘い夜のお話を!」

「いいダゾ……ふふふ……ニッカは、あぁ見えて実は…………パジャマがすごく可愛いダゾ!」

「お前に期待した俺がバカだったよ!」

 

 まぁ、ある意味安心したけどね!

 命拾いしたとも言えるな、カールよ。

 お前の周りを取り囲んでる狩人どもの殺気、凄まじいだろ? 感じないか? ニッカは地味ながらも素朴な可愛さがあるからな。それが嫁とか……お前、寿命四十年分くらいのラッキーを消耗してるってこと気付いておけよ。

 

「えーい!」

 

 なんとも昭和っぽい掛け声を上げてパンに飛びつくネフェリー。

 あんまり言わないよなぁ「えーい!」って。

 

「あれれぇ? 全然うまくいかないや」

 

 うわ。俺「あれれぇ」って言う人初めて見た。

 あの名探偵しか使わない言葉だと思ってた。

 

「おいおいおいおい、あんちゃん!」

 

 パーシーが小走りで駆け寄ってくる。

 なんだよ、来んなよ。特等席だぞ、ここ。

 

「ネフェリーさんが困ってんだろ! 何かアドバイスしてやれよ、ネフェリーさんのご友人にしたみたいに!」

「あれ? お前、まさかパウラの名前覚えてないの?」

「んなことは、今はどーでもいいんだよ!」

 

 うわぁ、こいつなんかサイテーだ。

 ネフェリー基準で物事を考えるヤツかと思いきや、ネフェリーのこと以外興味すら持ってやがらねぇ。

 下手したら、四十二区の領主の名前すら知らない可能性もあるな。

 

「あんちゃんには、ネフェリーさんのあの姿が見えねぇのか! あんなに、あんなにも……」

 

 震える指で飛び跳ねるネフェリーを指し、そして――

 

「跳んでる姿もマジマブい!」

 

 ――末期な叫びを上げる。

 やめてくれるかなぁ、ここでウィルスまき散らすの。

 

 とはいえ……

 いろいろと他の部分が強烈過ぎて忘れがちだが……ネフェリーもパウラと同じくらいは胸がある。俺の目測でDはある。

 この斜向かいの位置からの眺めは……まぁ、悪くはない。

 

 ちなみに、ニッカは初対面からインパクトのあったEカップ。イメルダは目覚ましい成長を見せていまやGカップ! 太陽に負けずに頑張るウェンディはCカップ。

 

「セロン、ドンマイ!」

「何がでしょうか、英雄様!?」

 

 ……いや、しかし。

 あのCカップを独占していると考えると…………

 

「セロン、爆ぜろ」

「なぜなんですか、英雄様!?」

 

 遠く、待機列で涙目のセロン。

 ふん、理由などいらん。嫁持ちのイケメンは一時間に一回くらい爆ぜればいいのだ。

 

「あんちゃん! あんちゃん!」

 

 俺の服を掴んでゆっさゆっさ揺らすパーシー。

 えぇい、やめろ! 男のゆっさゆっさなど微塵も楽しくない!

 

「ネフェリーさんを応援してやってくれよぉ!」

 

 あぁ、うるさい!

 なんとかこいつを黙らせる方法はないものか……

 

 ネフェリーを見ると、何度も果敢に挑戦してはいるもののなかなかうまくいかない様子だった。

 

「おかしいなぁ……でも諦めたりしない! 頑張れ、私!」

「くはぁ! ……かゎぃぃ」

 

 パーシーが血を吐いて倒れた。

 あぁ、ようやく静かになった。

 

「では、捨ててきます」

「ん。よろしくな、ナタリア」

 

 血に染まるパーシーを廃棄してもらい、俺は再びレースに集中する。

 

「ニッカ、頑張るダゾ!」

「ウェンディー! しっかり!」

「ネ……フェリー……さん…………ぐっど、らっく……!」

 

 それぞれに声援が飛ぶ中……

 

「なんだか気に入りませんわ!」

 

 イメルダが物凄くご立腹な様子だった。

 なんだかんだ、一番注目されてないかもしれない。

 

「声援が足りませんわ!」

 

 いや、お前には木こりーズの野太い声援があるだろうが。

 耳を澄まさなくても聞こえてくるだろう。

 

「「「お嬢様ぁぁぁぁああ! Go! Fight! Win!」」」

 

 あぁ、暑苦しい。

 

「もっと注目を集めるには……そうですわ!」

 

 何をひらめいたのか……まぁ、どうせろくなことではないんだろうが……イメルダが両腕を広げて声高らかに宣言する。

 

「みなさん、ハンデを差し上げますわ」

 

 その言葉に、他の三選手はきょとん。

 

「先にパンをお取りなさいまし。みなさんがパンを取った後、ワタクシが華麗に大逆転する……これこそが華やかなレース展開というものですわ!」

 

 どこからそんな自信が来るのかは知らんが、盛大なフラグを立てたもんだな。

 そもそも、他の三人がまったく同時にパンを取るわけじゃないから、三人全員がパンを取るまで待ってたら、先に一人二人はゴールしてそうな気もするんだが……

 

「「「それじゃあ、遠慮なく。……ぱくー!」」」

 

 まったく同時にパンを取りやがった!?

 えっ!? 今までの苦戦はなんだったの!?

 

「さっきまで何度も挑戦したおかげでしょうか……(もぐもぐ)」

「ここにきて急に成果が現れたデスネ!(もぐもぐ)」

「コツを掴むと簡単だよね(もぐもぐ)」

 

 三人仲良くパンを咥えてゴールに向かって走り出す。

 その背後で、イメルダが不敵な笑みを漏らす。

 

「ほーっほっほっほっほっ! 望ましい展開ですわ! そして、ここからがこのイメルダ・ハビエルのオンステージですわ!」

 

 言うや否や、美しいフォームで跳躍する。

 流れるブロンドが光を乱反射し、イメルダの全身をきらめかせる。

 しなやかな肢体が美しい線を描き、空を翔る。

 見る者に呼吸を忘れさせるほどの圧倒的な美しさ。会場中がイメルダに注目している。

 

 そんな中、イメルダが狙いを定めたメロンパンは――ぽーんと、跳ね飛ばされた。

 

「む、難しいですわ!」

「今さらかよ!?」

 

 一発で決めて大逆転しろよ、そこまで煽ったんなら!

 

 大方の予想通り、他の三選手――ネフェリー、ウェンディ、ニッカがゴールした後も、イメルダはメロンパンに苦戦を強いられ、しまいには優雅さなんてものをすっかり忘れて必死にぴょんぴょん跳ねまくるようになっていった。

 

「えい! やぁ! にょん!」

 

 跳ぶ度にいちいち漏れる変な掛け声と煌めくブロンド。

 そして、圧倒的存在感を遺憾なく発揮して堂々と揺れるGカップ!

 

 まさしくイメルダ・ハビエルのオンステージとなったわけだが……それはそれで十分に見応えがあったし、観客からは一切不満の声が上がらなかった。

 うん、いいものを堪能させてもらった。

 

 きっと、今日という日を境に、世界は少しだけ平和になったことだろう。

 

 

 

 

 

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