異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

後日譚36 他区領主への働きかけ -2-

公開日時: 2021年3月8日(月) 20:01
文字数:2,165

「つまりヤシロは、各区の大通りに、お祭りの時みたいな屋台を出せと言うんだね」

「大通りには店が並んでいるだろうから、そいつと向かい合わせになるように屋台を構えるんだ」

 

 大通りの両端に、既存の店と屋台に挟まれた小さな道を作るようなイメージだ。

 日本でも、大きな車道を挟んで縁日を開催するところはそういう手法を用いている。

 屋台の間隔を少し開けておけば、その間からパレードも見られるしな。

 どこかで広くスペースをとって、観覧席を設けてもいい。

 

「パレードが通るというだけじゃ、通る前と通り過ぎた後に客を留めておくことは出来ない。折角人が集まるのに、それではもったいないと思わんか?」

「……確かに。パレードだけじゃ、ボクもその時間以外はその場に留まらないかも……」

「どうしても見たいってヤツは早くから場所取りをするかもしれんが……それならそれで、そんなヤツが楽しめるコンテンツを用意しておけば金を落としてくれる可能性が高いだろ?」

「待ってる間に美味しいものを食べるとか……うん。それはいいね。利益は上がるし、見物客たちも楽しめる。一石二鳥だよ」

「そして、それらの収益の一部は、もれなく領主の懐に滑り込む」

「……なんか、人聞き悪くないかい?」

「でも、そうだろう?」

「大通りで臨時の商売をすれば、一定の税を取られるのは常識だろう?」

「ほら、私腹を肥やしてんじゃん」

「秩序だよ、これは! ……言い方に気を付けてよね」

 

 まぁ、きちんと税を納められるってのは、そいつがきちんとした商売人であるという証拠にもなる。必要なことだよな。

 

「その線で領主を説得し、なんとしても大通りを通る許可をもらってきてくれ」

「ボクが?」

「俺が言って話をつけてもいいぞ」

「あぁ、待って! 他区の領主には気難しい人もいるから……ヤシロじゃ絶対トラブルになる」

 

 凄まじい信頼をありがとう。

 むしろ起こしに行ってやろうか、トラブル?

 

「出来れば、大通りに大掛かりな飾りつけをして『非日常感』を演出できるといいな」

「『非日常感』?」

「普段と違う空気に触れると、…………人は財布の紐を緩める傾向にある」

「ホント……たまにだけど、君が怖くなるよ、ボクは。そういうことばっかり詳しくて、そして的確なんだから……」

 

 なんだか失敬なことを言われた気がする。

 これくらいのことはもはや常識の範疇だろうが。誰しもが経験し、身に覚えのあることを改めて言葉にしたまでだ。

 

「ヤシロが、ボランティア精神溢れる聖人みたいな性格だったら、この世界はもっと住みやすくなっていただろうね」

「はっはっはっ! 何をおっしゃるウサギさん」

「ウサ……ッ!?」

 

 俺がボランティア?

 ないない。

 そもそも、誰かに良くしてもらおうなんて考えの人間が大多数を占める世界が『素晴らしい世界』になるわけがない。

 

 ――と、そのようなことを言ってやろうとしたのだが。

 なぜか、エステラが真っ赤な顔をして固まっていた。

 

「なっ……なんだい、いきなりっ、う、う、ウサギちゃんとかっ!?」

 

 いや、『ちゃん』は言ってねぇだろ。

 

「ボ、ボクがウサギちゃんみたいに可愛いとか…………な、なんだかヤシロ、今日は変だよ!?」

 

 変なのはお前だろう。

 誰がいつ「可愛い」なんて言ったよ。

 

「そ、そりゃ、褒めてくれるのは嬉しいけどさっ! ほら、ウサギさんリンゴとか可愛いし…………はっ!? まさか、ウサギさんリンゴみたいに、『お前を食べちゃうぞ』的な意味合いが………………わぁぁあっ! わ、悪ふざけにもほどがあるよ、ヤシロ!」

 

 盛大にテンパって、エステラの顔表面が秋の京都みたいに赤く染まる。……風流さは欠片もないが。

 

「何をおっしゃるウサギさん」でここまで想像を飛躍させるヤツがいるとは……まだまだ奥が深いな、異世界は。

 

「落ち着け。俺の故郷の言葉遊びみたいなもんだ。食べちゃったりつるつるぺたぺたしたりしないから」

「こ、言葉遊び!? どこがどう言葉遊びになってるのさ?」

「そりゃお前…………」

 

 ……どこが言葉遊びになってんだ?

 そもそも、なんでウサギさんなんだ?

 語源はなんだ?

 あぁ、クソ! ネットがあれば即調べるのにっ!

 

「クソッ! なんかモヤモヤする!」

「こっちこそがだよ!」

 

 なんというか、胸んとこに引っかかってるような、つっかえてるような、まとわりついているような……そんな気持ち悪さがある。

 そこら辺に溜まっている気持ち悪さを解消するべく、俺は自分の胸を両手でまさぐってみる。揉めば出てこないだろうか?

 

「モヤモヤしてるんだよね、ヤシロ!? ムラムラじゃないよね!?」

「えぇい、くそ! ここまで出かかっているのに!」

「どこから出す気なんだい!? 君の胸はどんなに揉んでも何も出ないよ!」

 

 なんだかエステラが心底俺の頭を心配しているような顔になってきたので、非常に遺憾ではあるが何をおっしゃるウサギさんの由来を思い出すのはここらで中断するとしよう。……たしか童謡かなんかだった気がするんだが…………あっ! そうだ! 『ウサギとカメ』の歌詞だ! 二番の!

 

「あぁっ! スッキリした!」

「スッキリしちゃったの!? もう手遅れっぽいね、ヤシロは!?」

 

 ん?

 なんとなく、またあらぬ誤解が産み落とされた気がしなくもないが……まぁいいか。エステラだしな。エステラは残念な娘だから、訳の分からん勘違いをよくするのだ。今に始まったことじゃない。よし、スルーしよう。

 

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