「死ぬかと思いましたわ……」
教会の前で拾ったイメルダが、陽だまり亭の薪ストーブに当たりながらお汁粉を飲んでいる。
まぁ、連れてきたわけだ。
教会へ食料をお裾分けに行ったところ、道にイメルダが倒れていた。そして、微かに埋まっていた。
聞けばイメルダは、「こんな天気の日は陽だまり亭に行けばきっと面白いことがあるに違いありませんわ!」と、根拠のない確信を持って陽だまり亭に向かう途中だったらしい。
だが、そこにきての降雪だ。
ホワイトアウトとまではいかないまでも、視界は悪く、体力も必要以上に浪費させられ、教会のそばまで来たところで力尽きたらしい。
「ホント、デリアが見つけてくれたからよかったが、発見が遅れてたら死んでたぞ」
「その点は大丈夫ですわ」
「何がどう大丈夫なんだよ?」
「ワタクシ、運はいい方ですの」
「遭難しかかって何が幸運だ……」
揺るぎない自信を浮かべ、イメルダはお汁粉を飲み干す。
デリアがクマ人族の勘で「何かいる」って言い出してなきゃアウトだったという自覚はないのだろうか。……ないのだろうな。
「美味しかったですわ。ベッコさん、これの食品サンプルをお願いしますね」
「またでござるか!?」
「陽だまり亭で出される料理は、すべて、食品サンプルにしてくださいと、以前お願いしましたでしょう?」
「……では、雪がやみ次第作業にかかるでござる」
イメルダとベッコの間にはどんな契約がなされているのか。
見た限り、完全に不平等条約を結ばされてるようなんだがな。
「こちらも、なかなか暖かいですわね」
薪ストーブに手のひらを向け、イメルダは満足そうに言う。
教会には暖炉があり、談話室はかなり暖かかった。そこと比較しての発言だろう。
イメルダを拾った後、凍えるイメルダを教会へ運び込み、レンジでチンする勢いで冷えきったイメルダの体を温めた。暖炉の前に連れて行き、デリアに抱きしめてもらいつつ、その体をガキどもがタオルでこすりまくったのだ。
一応、男子は全員外に出されていた。
「……デリアさん。ワタクシのあのような姿を見たからといって……な、馴れ馴れしくしないでくださいましね」
「するか、バカ!」
頬を染め、襟元をキュッと握りつつイメルダが言う。
とんでもないのに勘違いされちゃったな、デリア。
「ですが、ワタクシと出会えたおかげで布団と薪が手に入ったのですから、感謝してほしいですわ」
教会で毛布を拝借しようと考えていたのだが、思ったより借りられる数が少なかった。
数ヶ月前よりロレッタのとこの弟妹が増えたことと、今日から豪雪期が終わるまでの間、寮母たちも教会に寝泊まりするからというのがその要因だ。
そんなわけで、すっかり当てが外れて困っていたところ、イメルダが「毛布でしたらウチにたくさんありますわよ?」と、申し出てくれたのだ。
……ま、そのせいでイメルダというお荷物まで引き取ることになったのだが……背に腹は代えられない。
その後、俺たちはイメルダの家に行き、食材を降ろして空になったソリに布団を積み込んだ。
そこで状態のいい薪を発見した俺は、ついでにそれも拝借することにした。
女子の居候が増えるということは……男連中が食堂で雑魚寝になるということだからだ。
せめて一晩中火を絶やさないようにしなくては凍死者が出てしまう。
さすがは木こりギルドというか……薪のストックは呆れるくらいにあり、大量に持ち出しても減ったことに気が付かないほどだ。もちろん承諾は取ったぞ。事後承諾だったけど。
「まぁ、そんなわけで、男はここで寝起きすることになった」
「酷いッスよ! 食堂でなんて!」
「拙者、これで割と敏感肌でござって……!」
「うっせぇ! 嫌なら帰れ!」
一番の被害者は俺だ。
なんで俺が自分の部屋を追われなければいけないのか……
部屋に人を詰め込めば、全員が二階で寝ることは可能だろう。
だが、こうも女が増えてしまうと、男が同じ階に寝るのはどうだろうと、そう思ったわけだ。
男は俺とウーマロ、ベッコ、弟たちが三人の計六人。
まぁ、食堂で寝るにはちょうどいい数だ。部屋でギュウギュウ詰めよりかはな。
「こんなことでしたら、ネフェリーさんやノーマさんもお誘いすればよかったですね」
無邪気な顔でジネットが言うが……
「やめてくれ。ネフェリーが来ればパーシーが来る。これ以上面倒くさいヤツは増やしたくない」
「まさか。四十区からはお越しになりませんよ。きっと」
甘い。甘いよジネット。
お前は変態の底力を過小評価している。
ヤツなら、来るぞ。こんな雪などものともせずにな。
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