異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加59話 最終競技の必勝法 -3-

公開日時: 2021年4月2日(金) 20:01
更新日時: 2021年6月4日(金) 06:52
文字数:2,784

「選抜選手の皆さんは、入場門へお集まりください」

 

 

 本日最後の招集がかかる。

 

 本日、最後の競技は運動会の花形――『選手選抜リレー』だ。

 各チーム十名を選抜し、代表者が優勝を懸けてトラックを駆け抜ける。

 選抜選手は持てる力の限りに全力疾走し、それ以外の者は残った力をすべて注ぎ込んで声援を送る。

 選抜ではあるが、だからこそチーム一丸となって全力を出し切る、振り絞る、絞り尽くすのだ。

 

 選手選抜リレーにはドラマがある。

 リレーというものが初めて開催されるここ四十二区においても、きっとそれは例外ではないだろう。

 今日。この後、ドラマが生まれるのだ。

 必ずそうなる。

 

「みなさ~ん! がんばってくださ~い!」

 

 白組陣地では、ジネットが大きな声を上げて手を振っていた。

 料理は一時中断らしい。というか、棒引きの間に下ごしらえをほぼ終えていたようで、今は教会の寮母や給仕が火の加減なんかを見ているようだ。

 なんて手際のよさ。効率のよさ。

 なのになんで基本属性が『鈍くさい』なんだろうな、ジネットのヤツ。

 

 白組の選抜選手は、マグダ、ロレッタ、イネス、デボラ、バルバラ、モコカ、ニッカ、リベカ、ソフィー、で、なんでか俺。

 

「ヤシロが出てくるとは意外さね」

「ロレッタの妹たちを出した方がよかったんじゃないの?」

 

 入場門でノーマとパウラが声をかけてくる。

 今回も、公平を期するためヒューイット弟妹は1チーム三名までということになっている。

 白組以外の3チームはきっちりと三名のハムっ子をメンバーに入れている。

 

 対する俺たちはというと――

 

「……これが白組最強のメンバー。残念ながらハムっ子たちの入る余地はなかった」

 

 マグダの言うとおり、ハムっ子はゼロだ。

 

「それに、ロレッタが『長女がいれば弟妹三人分くらい補ってあまりあるですぽよ~ん』って言ってたからな」

「お兄ちゃんの言うとおりです! あたしがいれば弟妹三人くらい余裕で……『ぽよ~ん』は言ってないですよ!? 捏造やめてです!」

「……やめてあげてぽよ~ん」

「マグダっちょ、味方のフリして傷口広げるのやめてです! ウチの家でちょっと流行るですから、お兄ちゃんとマグダっちょの遊び!」

 

 ヒューイット家長女のロレッタがいるので、白組にハムっ子弟妹は必要ない――っていうとあいつら拗ねるから……えっと……、ロレッタ一人で十分なのだ。うん。そうそう。十分十分。

 

「ロレッタ一人でもうお腹いっぱいなんでな」

「なんか悪口言われたです!? おそらく方向性だけ合っててあと全部間違えてるですよ、その発言!」

 

 うむ。

 おそらくそんなところだろう。鋭いなロレッタ。

 

「コメツキ様……そろそろ」

「おぉ、そうだな。よし! 無駄口叩いてないでさっさと競技を始めようぜ!」

「君たちじゃないか、散々遊んでいたのは……まったく。それじゃあ入場するよ」

 

 エステラの言葉で、選手一同がトラックの中へと移動する。

 

 今回のリレーは年齢性別人種が一緒くたになっているため、それらで走る長さを調整することは出来ない。

 提示される条件はみんな同じ。何走者目に誰を置くか、各チームでそれを調整するしかないのだ。

 

 レースが単調になるのを避けるため、走る距離を微妙に変えてある。

 第一走者がトラックを一周走り、第二走者が半周、続いて第三走者が残りの半周を走り、第四走者がまた一周走る。

 このように、第一、第四、第七、アンカーが一周を走り、その間の第二第三、第五第六、第八第九走者は半周ずつ走るようにしてある。

 当然、足の速いヤツに長い距離を走らせたいところではあるが、スタミナという点も考慮しなければいけない。

 それに、リレーはバトンの受け渡しでのトラブルによって順位を大きく落とすこともある。前後の選手の相性なんかも考慮に入れたいところだ。

 

 ――と、このようにいろいろと作戦を立てる余地を残してある。

 

 まぁ、見たところ、白組以外の3チームはみんな、距離の長い四、七、十週目にハムっ子を配置しているようだが。

 

 で、なぜ3チームとも第一走者にハムっ子を置かなかったのかというと……

 

「ふふふ……私が直々に葬ってくれるぞ、カタクチイワシ」

「やはり、君はボクに倒される運命にあるようだね」

 

 俺が第一走者として走ると前もって宣言しておいたからだ。

 エステラくらいは釣れるかと思ったんだが、まさかルシアまで釣れるとはな。

 

「ルシア、それにエステラか……よし! 『気が散らない乳』だから集中できる!」

「「どーゆー意味だ!?」」

 

 そーゆー意味だよ。

 これでまたデリアやノーマと同じレースだったら涙がちょちょ切れていたところだっつの。

 

「そりゃあ残念だったね、ダーリン」

 

 揺れない領主の間をかき分けて小高い丘が現れた。いや、丘じゃない、メドラだ。

 

「ア、アタシのは、ゆ、揺れちゃうんだからねっ☆」

「うわぁ、なんだろう、目がしぱしぱする……目に来るなぁ、メドラのツンデレは」

 

 視力落ちたら賠償金請求しようっと。せめてメガネ代くらいは。

 っていうか、ウクリネス~。お前は何を思ってメドラサイズのブルマなんか作ったんだ? 誰が穿くと想定してそのサイズを作ったんだよ。

 全人類対応にする必要はないんだってこと、今度切々と説いてやろう。

 

 何かと俺と張り合いたがるヤツが各チームに若干名ずついたから、俺が第一レースに出るといえば、ハムっ子を第四以降に配置するだろうなと考えたのだ。

 そうでなきゃ誰が出るかよ、こんな獣人だらけのリレーになんか。

 獣人じゃなくてもエステラやナタリアみたいな超人が多いのに。

 

 けど、俺が出ることで白組に勝利をもたらせるというのであれば、俺は喜んで出場してやろうじゃないか。

 辺りが暗くなってきたから、応戦席じゃ揺れが見えにくいかもしれないしね☆

 

 ……な~んて思っている間にも、領主二人と狩猟ギルドのギルド長がぐいぐいと詰め寄ってきて俺にプレッシャーを与え続ける。

 

「つかお前ら全員、俺の近くに立つな。俺の足が短いように思われる」

 

 エステラもルシアも、なんであんなに足が長いんだ?

 メドラは長いというかデカいだけども。

 

「『ように』ではないのではないのか、ん? カタクチイワシよ? ほれほれ」

「淑女が太腿を見せつけてくんじゃねぇよ、撫でるぞ」

「なっ、舐めるとは何事だ!? 変態か!?」

「言ってねぇ! 撫でるっつったの!」

「ヤシロ。それでも変態にかわりはないんだよ。自覚しようね」

「ダーリン、ほ、ほれほれ~」

「あれーなんだろう、目がしぱしぱする~」

 

 篝火の煙のせいかなぁー。

 レーシック代請求してやるからな。視力落ちたら。

 

「それでは、第一走者は位置についてください」

 

 木こりギルド厳選、トルベック工務店製作の無駄に高級感溢れる木製のバトンを握り、俺たちはスタートラインに立つ。

 

 

 ――時間は、ちょうどいい。

 

 

「さぁて……」

 

 ぺろりと、おのれの唇を舐める。

 まるで、毒蛇が獲物の末路を確信して見届けるような気分で。

 

 俺は言ったよな?

 

 

 

 俺の猛毒は『遅効性』だって。

 

 

 

 

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