「「「おーいしー!」」」
「ぅぐぁああ! 頭がぁぁあ!」
「「「いたーい!」」」
大通りで、ガキどもがかき氷をかっ喰らい例の頭痛に身悶えている。
獣人といえど、かき氷を一気食いした時のアノ頭痛には抗えないらしい。
「くぅ~! これは冷たくて甘くて、最高だなぁ、ヤシロ!」
デリアも、屋台の噂を聞きつけて食べに来ていた。
満足げに尻尾をぴこぴこ動かして、イチゴの果肉が乗った氷を口へ運んでいる。
「次は何味にしようかなぁ~」
「あんまり一気に食うと腹を壊すぞ」
「大丈夫だ! あたいは無敵だ!」
「腹を壊したら、川遊びに参加できなくなるぞ」
「う……そ、それは、イヤだなぁ……」
「一日一個くらいにしとけ」
「う~ん、そっかぁ……分かった! じゃあ一日三つまでにしとく!」
分かってねぇじゃねぇか。
まぁ、時間をあけて食えば問題ないだろう。
「ままー、おかわり~!」
「お昼ご飯の後になさい。お腹壊しちゃうわよ」
「はぁ~い」
不服そうにしながらも、親の言うことはよく聞く四十二区のガキども。
親には、頭痛と腹痛の危険性を購入時に説明してある。
そこら辺を理解した上で、ガキどもに与えるように注意を呼びかける。
陽だまり亭の物を食って体を壊されたと言われたのでは堪らんからな。
「ベッコさんを呼んでくださいまし!」
金に物を言わせて、一気に全部買いした残念なお嬢様もいるようだけどな。
一口ずつ食って、キウイを選んだようだ。
残りはお供の給仕たちへ下げ渡している。給仕たちは慣れているのか、一口食われたかき氷でも嬉しそうに食っていた。
「健気だな、お前らは」
「いえ。こうして新しいスイーツをいの一番でいただけますので、私たちは感謝しているのですよ、お嬢様の短絡的……もとい、好奇心に」
「お前のうっかりぽろりは悪意が透けて見えるなぁ、給仕長」
イメルダのとこの給仕長は控えめだが割と毒を吐く。
それくらいでないとイメルダの右腕は務まらないのだろう。
「今年も、陽だまり亭さんにはお世話をおかけするかと思います」
「あぁ、やっぱ泊まる気でいるのか、イメルダのヤツ……」
「半年前からわくわくしっぱなしでして」
「気が早ぇなんてもんじゃねぇな……」
その間にいくつかイベントやったろうが。
どっかで満足しろよ……ったく。
「我々給仕は館に控えておりますので、何かありましたら呼んでくださいませ。出来ることでしたらなんでもご協力致しますので」
「じゃあ、イメルダが抜け出さないように縛りつけといてくれ」
「『出来ることでしたら』ご協力致しますので」
不可能なのかよ、イメルダを館に留まらせるのは。
……ったくもう。また賑やかな豪雪期になりそうだ。
「あんたたち~! 暑いですから交代で休憩しながら働くですよ~!」
「「「は~い!」」」
妹たちに指示を出すロレッタ。
七号店はロレッタがかき氷係をして、妹たちが接客をしている。
大きな木のそばに屋台を構え、交代で日陰に入り水分補給をしっかりとさせている。
マグダの二号店も同じようにするように言ってある。
なにせ、かき氷が売れるのは一番暑い日中だからな。
「じゃあ、ロレッタ。俺、陽だまり亭に戻るからな~」
「はいです! ばっちり売り尽くしてみせるですから、期待しててです~!」
「お前も、適度に休めよ!」
「はいです!」
「「「かき氷、代わるよ~!」」」
「それはダメです! これは、正ウェイトレスにのみ許された名誉あるお仕事なんです!」
「「「ぶーぶー! ずーるーいー!」」」
簡単そうに見えて、意外と難しいからな、かき氷は。
山の成形には、それなりのテクニックがいる。
右手と左手をそれぞれ異なる動きで動かし続けるのは、何気に難しい。
妹にはまだちょっと任せられないだろうな。二人がかりでなら出来るだろうけど。
妹たちからは「イマイチ~!」と言われた抹茶小豆だが、甘過ぎるのが苦手な男連中には人気だった。
さっぱりとした後味と抹茶の芳醇な香りがウケているようだ。
とはいえ、ちゃんと甘みもあるので子供でも好んで食べる者もいる。
小豆と白玉の分、ほんのちょっとお高いんだけどな、抹茶小豆は。+5Rbだ。
「ヤシロ。陽だまり亭に戻るなら、あたいもついていく」
「忙しくないのか?」
「おう! 川漁ギルドの仕事はもう済んでるんだ」
「……豪雪期の準備は?」
「ヤシロ……実は、折り入って相談が……」
「難しい言葉覚えてきたんだな。いいよ、ジネットに言っといてやるよ」
「本当か!? ありがとうな、ヤシロ!」
どうせ、豪雪期の準備なんか何もしていないのだろう。
去年、楽しそうにしてたしなぁ。今年も陽だまり亭でって思っていたに違いない。
だがふと、「あれ? 勝手に決めちゃダメだよな?」って自分の中で気付きがあって、それで俺にお願いしようと思っていたのだろう。
そうでなきゃ、デリアが「折り入って」なんて言葉を口にするはずがない。
むしろ俺は、「何時から泊まりに行けばいい?」とか、普通に聞かれるんじゃないかとすら思っていた。
ちゃんとお願いしようってその姿勢だけでも評価できる。……評価点甘々だけどな。
「陽だまり亭での豪雪期、楽しかったからさぁ。また一緒にいられて、嬉しいなぁ」
その言葉、ジネットに聞かせてやれば即座にお泊まりセットが出て来るだろうよ。
あぁ、そういえばマーシャが川遊びに参加するって言ってたし……マーシャも泊まりそうだな。
部屋足りるか?
ジネット、マグダ、ロレッタ、デリア、イメルダ、マーシャ、ノーマ……まぁ、相部屋にすればなんとかなるか。
エステラとナタリアには、今年は館で過ごすように言っておこう。
……下手したらルシアも来るとか言い出しかねないし。最悪そうなったらエステラの館に押し込めておくとしよう。
「あ、そういえばナタリアが、『仲間はずれにされたら泣くかも』って言ってたぞ?」
「なぜデリア経由で!?」
あいつ、攻め方が巧妙になってきてるな……
これがミリィだったら、「じゃあ、邪魔にならないところで泣いとけって伝えてくれるか?」って言えたのに。
そしたら、ミリィは優しい言葉で慰めつつこちらの拒絶を伝えてくれただろう。
だが、デリアじゃダメだ。
歯に衣を着せたことがないデリアは、きっと刺々しい言葉をダイレクトに相手へと叩きつけるだろう。
……そこまで読んでの人選か。ナタリアめ。
「全裸のデリアを使うなんて卑怯者め!」
「んなっ!? あ、あたい、服着てるぞ!?」
あぁ、気にするな。歯の話だ。
歯に衣着せたことがないんだから、生まれてからずっと全裸だったと言えなくもない。いや、むしろ進んでそう言っていこう。
あ~ぁ。俺は今年も陽だまり亭のフロアで寝泊まりかぁ。
風呂に入るのがキツいんだよなぁ……厨房で入ってたのだが、地味に寒いんだよなぁあそこ。
どーせウーマロもベッコも来る気だろうし……
「ウーマロ、雪の中でも気にせず寝れたりしないかな?」
「さぁ、聞いてみたらどうだ?」
聞くまでもないのだが……
いかんな、デリア相手ではこういう会話は不毛だ。
さっさと帰って、本人を弄ろう、そうしよう。
大量に押し寄せてくる気満々の珍客たちにうんざりしつつも、微かに気分が軽やかなのはきっとかき氷の売れ行きがいいからなのだろう。
まぁ、抗っても仕方がないって側面もあるので早々に諦めているんだけどな。
なにせ、ウチの大家さんが迎え入れる気満々なんだから。
去年の豪雪期が相当楽しかったようだ。
また雪だるま教を再興させるつもりらしい。
「楽しみだなぁ、ヤシロ」
「ん?」
屈託なく笑う顔を向けられ、俺は少し考えた後でこう返事をしておいた。
「……まぁな」
なんだかんだ、俺も楽しみにしているらしい。
金にはならないんだけどなぁ。
ま、何かしら利益は得てやるさ。
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