異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

こぼれ話3話 話題の波は広がって -2-

公開日時: 2021年3月27日(土) 20:01
文字数:2,221

 ギルド長室を後にし、食堂と隣接するサロンへと向かう。

 サロンでは数人のギルド構成員が思い思いの時間を過ごしていた。

 サロンなんてしゃれた名前をしているが、実体は酒場のような場所だ。

 食堂から酒と飯を持ってきて日々の成果を自慢し合う、そんな場所だ。

 

「あ、ウッセさん。チッス!」

「おう。最近どうだ?」

「へへっ、それがっすねぇ――」

 

 本部の若いヤツと軽い情報交換を行う。

 というか、世間話か。

 

 支部と本部は基本的には別の機関という扱いだが、連携することも少なくない。

 特に、四十二区に街門が出来てからは、本部の人間と接する機会が一段と増えた。

 門番も、狩猟ギルドから何人も派遣しているしな。

 

 大体は、ベテランと若手が一緒になってやって来て、若いヤツらの研修兼修行の場となっている。

 連携を取ったり、手頃な魔獣を狩ったりして。

 マジでヤバそうな魔獣が出た時は俺たち支部の人間も協力して討伐したりする。

 たまに、俺が飯を奢ってやったりもしている。ま、大人の役目だよな、若い連中の面倒を見るのは。

 

「おっ、ウッセさん。ご無沙汰だゼ」

「今日は報告ダか?」

 

 サロンの窓際、日当たりのいい一等席に白髪のひょろっとしたガキと、水牛のような角を生やした牛男が陣取っていた。

 エールの入ったジョッキを掲げて挨拶を寄越してくる。

 

「よう、アルヴァロ。それにドリノのオッサンも」

「オッサンじゃねぇダよ、オラ。オメェさと一個しか違わねぇダ」

「一個でも上ならオッサンだろうが」

「じゃあ、ウッセさんはオレから見りゃか~な~りのオッサンってことだゼ?」

「誰がだ、こら!?」

「くはははっ」

 

 アルヴァロがイヤミのない顔で笑いやがる。

 けっ。

 こいつはこんなガキみたいな性格のくせに、実力では狩猟ギルドトップファイブには食い込んできやがるからな。

 今はこんなナリだが、こいつは変身する。白虎の姿を色濃く残した姿に。

 

 マグダの『赤いモヤモヤしたなんか光るヤツ』とよく似た、『白いシュワシュワしたなんか漂うヤツ』を使うと、その強さは十倍にも二十倍にも膨れ上がる。

 これでまだ十六だってんだから、末恐ろしいヤツだ。

 

「リカルド様が丘クジラを狩ったらしいな」

「あ、聞いたんだゼ? 食ってくといいゼ」

 

 二人と話しながら、同じテーブルに交ざる。適当な椅子を引き出し腰を下ろす。

 と、ギルドの新人が俺にもエールを持ってきてくれた。

 ……この後帰らなきゃいけねぇし、あんまり飲み過ぎないようにしないとな。

 

「あれだけデカけりゃ、たらふく食えるダ。特訓できるダな」

 

 ドリノが鼻息荒く語る。

 妙に燃えていやがる。

 

「特訓? なんのだ?」

「あぁ、ドリノさん、大食い大会で負けたのが悔しいらしんだゼ」

「いや、お前は勝ったじゃねぇかよ、陽だまり亭の普通娘によ」

「んダども、総合で負けたダ。それで、ママやリカルド様にご迷惑をかけちまったダ」

 

 いやいや。

 アノ男が絡んでいる以上、多少の差はあれ似たような結果になってたと思うぞ。

 それに……これを言うとこっちのヤツらに悪いから言えねぇが……あの時はあぁする以外に道はなかっただろうよ。

 仮に四十一区が勝って、四十二区に不平等な条約を結ばせていたら……アイツが全力で四十一区をぶっ潰しにかかってたぜ。きっと。

 そうなってたら、今四十一区はこんなに穏やかではいられなかっただろう。

 午後の明るいうちからサロンで酒を飲んでなんか、いられなかったはずだ。

 

 アイツは、そういう男だ。

 

「次の大会では、オラたちが圧勝してやるダ!」

「あんまりいきり立つんじゃねぇよ、ドリノのオッサン。面倒クセェからよ」

「なんダ、ウッセ? オメェさ、勝ったから余裕ダか?」

「そうじゃねぇよ」

 

 大人しくしているアイツを刺激すんなっつってんだよ。

 ……碌なことにならねぇから。

 

「だいたいダな、四回戦にアルヴァロが出てりゃ、オラたちが勝ってたんダからな?」

「四回戦…………あぁ、アレかぁ」

 

 なんだろうな、アイツが絡んだ事象はどうにも思い出したくねぇな。

 

「アルヴァロは、精霊神様んことぜーんぜん信仰してねぇダからな」

「そんなことねぇだゼ!」

「可愛いもんでも、平気でバリバリ食うダぞ」

「オレ、どんなイメージなんだゼ……」

「どっちにしても、結果論だろ。そっちの戦略でグスターブを四回戦に持ってきたんだ。今さら文句は無しだぜ」

「そうだゼ。勝負は勝負。正々堂々やるって誓ったはずだゼ?」

「んダども! ……だいたい、あの五回戦はズルかったダしな……」

 

 納得いかねぇのか、ドリノのオッサンがぶつぶつ言い始める。

 まぁ、五回戦が正々堂々としてたかって言われると……ま、微妙だわな。

 

「いいや、そんなことねぇだゼ」

 

 空になったジョッキをテーブルに叩きつけ、アルヴァロが声を張る。

 ドリノのオッサンも、その迫力に不満を止める。

 俺も、ちょっと黙っちまった。

 

「確かに、普通の戦いじゃなかったゼ。けど、オレ自身があのやり方でいいって判断して、それでも勝てるって自信もあって、同じ条件で正々堂々と勝負したんだゼ。五回戦に負けたのは、オレの心の弱さ……いや、あの虎っ娘の心の強さに敵わなかったからだゼ」

「じゃあ、お前は納得してんだな。マグダとの勝負に」

「もちろんだゼ。けど、次やったらオレが勝つだゼ」

 

 潔い。

 この若さで大したもんだ。

 これくらいの年の頃は勝ちにこだわり過ぎていろいろやらかしちまうもんなんだが……まったく、末恐ろしいヤツだ、アルヴァロ。

 強さも器も持ち合わせてやがる。こいつは、そう遠くない未来、大物になりやがるだろうな。

 

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