「おやおや? 相変わらず賑やかさねぇ、この店は」
「ぁ……こんにちは……」
本日も谷間が眩しいノーマと、野花と戯れる妖精をさらにもっと純粋にしたような純真生物ミリィだ。
淫猥なる谷間と穢れなき膨らみ…………ナイスコンビネーション!
「変わった組み合わせだな?」
「そうでもないさね。ねぇ?」
「ぁ、はい。のーまさん、お花に詳しくて……花言葉とか、すごく知ってて……」
「ちょいと、ミリィ。それ以上は黙っておくれ……アタシにもイメージってもんがあるんだよ」
「ぁう……ごめんなさい。のーまさん、野の花の茎が折れていると『可哀想に』って、静かに涙を流すような優しい人だから、みんなもう知ってるのかと……」
「ミリィ! ……後生だから、やめておくれ……」
なんてこった。こんな荒ぶる谷間を見せつけるセクシーお姉さんが、傷付いた花に心を痛めていたなんて…………
「年齢からくる焦りで、ギャップ萌えを属性に追加したかったんだな?」
言い終わると同時に、俺の襟首に煙管の灰が落ちてきた。
「熱っ!?」
バカお前!
今、指の間に銅貨仕込んでるから振り払えないんだぞ!? あ、片手はいいのか落としちゃって。
右手の銅貨をテーブルに投げ出し、俺は灰を払う。
「……無茶苦茶しやがる」
「自業自得さね」
おかしい。店内は禁煙だからノーマは煙管を吸っていないはずなのに……こいつ、このために外で吸った灰を捨てずに来やがったな。……ってことは、灰が冷めるまでの間に弄られるつもりだったんじゃねぇか。
実は弄られ待ちなのか? Mっ娘か? うわぁ、虐めた~い。
「てんとうむしさん……だいじょうぶ?」
服についた灰を、ミリィがぱたぱたと払い落としてくれる。
まぁ、かわいい。お持ち帰りしていいですか?
「んじゃ、人も増えたし、改めてルール説明だ。これから俺は右手と左手を使って銅貨を隠す。お前たちは、銅貨が入っていると思った方の手を指さしてくれ。俺が指を開いた時、『手のひらの上に銅貨が載っていれば当たり。そうでなければ外れ』だ」
と、いうルールにしておく。
「じゃあ、エステラ。銅貨を一枚貸してくれ」
「君には記憶力というものがないのかい!?」
なんだよ、ケチケチして~! 最近ちょっと儲かってるだろ? お小遣いくれよぉ!
「街門の工事が遅れて、毎日冷や冷やしてるんだよ、ボクは。銅貨一枚だって無駄にしないからね」
まぁ、その精神は見上げたものだが。……領主としてそれはどうなんだろうな。
「んじゃ、ジネット。お前が載せてくれ」
「わ、わたしでいいんですか?」
先ほどテーブルに放り投げた銅貨を握り、ジネットは少し嬉しそうな顔をする。
マジックショーでお手伝いに選ばれると妙に喜ぶ人っているよな。
まずは、両方の手のひらに何も持っていないという『アピール』をする。実際には左手には銅貨が仕込まれている。が、それに気付く者はいない。
その後、俺が右手を差し出すと、ジネットはやや緊張した面持ちで俺の手のひらの真ん中に銅貨を載せる。
全員がその銅貨を覗き込む。
「じゃ、行くぞ」
ゆっくりと指を閉じ、拳を握る。次いで左手も握り、小細工に両手を素早くクロスさせる。
「あぁー! そういうことするなら先に言ってよね、ヤシロ!」
エステラが非難の声を上げる。が、どうせお前は外すんだ。よく見ていようが同じことだろうが。
ひとしきり腕を動かした後、スッとみんなの前に握った拳を差し出す。
全員の視線が俺の両手に注がれる。
「さぁ、どっちだ?」
素直に見ていれば右手、うがった見方をしていれば左手を指すだろう。
で、結果。
マグダとロレッタ、それからミリィとノーマが右手を指し、エステラはいの一番に左手を指した。なんだか勝ち誇っている……「ふふん、みんな分かってないなぁ」みたいな顔だ。
最後に、ジネットは散々悩んだ後、左を指した。
こいつは、足つぼをされたくないがために裏の裏の裏の裏あたりまでかいてきたようだが……自爆するヤツの典型みたいなタイプだな。
「じゃあ」と、俺は全員の見ている前で拳をひっくり返す。手のひらが上に向いて握られている状態だ。
「指を開いて、手のひらの上に銅貨があれば当たり。なければ足つぼだ。いいな?」
「いいよ。今回は自信があるんだ」
エステラの自信満々の勝利宣言に続き、全員が頷く。
さぁ、結果は…………
「「「「「「えっ!?」」」」」」
両手の指を同時に開くと、どちらの手のひらにも銅貨はなかった。
「はい、全員外れー!」
「インチキだ!」
「あぁ、インチキだよ?」
エステラが怒る。だが、俺は正々堂々とルールを確認したはずだぞ。
『指を開いて、手のひらの上に銅貨があれば当たり。なければ足つぼだ』と。
「ど、どどど、どこに行っちゃったんですか、あの銅貨は?」
ジネットがおろおろと、「今、それどうでもよくない?」みたいなことを聞いてくる。
どこにあるのか? それは……ひ・み・ちゅ☆
「さぁ、テメェら、一列に並べ! 最初に足つぼされたいのは誰だ!?」
「え、ふぇ!? あ、あああ、あの……ど、どどど、どうしましょうか、みなさん!?」
ジネットが大いに狼狽える。
相当嫌らしい。
「店長さんからやりゃあいいんじゃないかい? 経験者なんだろう?」
「ぅええっ!? と、とんでもないです。わたしなど、まだまだ未熟者ですし!」
被足つぼ者に未熟も何もないと思うが。
「こういう時は、だいたいウーマロかロレッタと相場が決まっているよね」
「決まってないですよ、エステラさん!? そういう印象操作やめてくださいです!」
「……ロレッタ。英断」
「してないですよ!?」
「ぁ……がんばって……」
「頑張らないです!」
「ロレッタさんの犠牲は……無駄にはしません」
「足つぼの時ばかりは店長さんが鬼に見えるです!?」
ギャーギャー騒ぐロレッタを見て、「やれやれ……」とノーマがため息を吐く。そして、指先を揃えたすらっと美しい手でスッと挙手をする。
「それじゃ、アタシが一番にやられるよ」
「そんな。ノーマさんが行くくらいなら、わたしが行きます!」
「……待って。店長に負荷をかけるわけにはいかない。ここはマグダが先陣を切る」
「ぁ……まぐだちゃんが一番はかわいそうだから、怖いけど……みりぃでもぃい、よ?」
「ミリィにやらせるくらいならボクが行くよ!」
「えっ、えっ!? あ、あのっ、じゃ、じゃあ、あたしがやるです!」
「「「「「どうぞどうぞ」」」」」
「なんですか、このみなさんの一体感!? 連帯感生まれ過ぎです!」
ロレッタがおいしいところを持っていったようなので、まずロレッタを血祭りにあげる。
落下防止のために、背もたれと肘置きがついた、作りのしっかりした脚の低い椅子を用意して、いざ、足のツボを押し込む。
「ぎゃああああっ! いーたーいーでーすぅぅぅうううっ!」
軽くツボを押しただけでロレッタは体を仰け反らせて、ナイスなリアクションを見せる。
「はい。これが基本的な、普通のリアクションだから」
「こんなに体張って、普通とか酷いです!」
「なんだか、ちょっと興味があるねぇ」
ロレッタの反応を見て、ノーマが二番手に名乗りを上げる。
……やっぱり、ちょっとMっ気が? ……どきどき。
すらりと長い素足が目の前に差し出され、思わず頬擦りしたくなる。
が、ジネットとかミリィとかいるのでグッと我慢する。
そして、軽く土踏まずを押す。
「……………………っんふ!」
ノクタァーーーーーーンッ!
と、思わず理解不能な雄叫びを上げてしまいそうになった。……なんだか、未成年には聞かせちゃいけない声が漏れてきた気がするんだが。
これ以上は危険なのでやめておく。
「……はぁ……はぁ…………思ったより、クるねぇ……また、今度ゆっくりお願いするさね」
うん。きっと、金型作るのって、肩とかすごい凝るんだ。だからすごく痛かったんだ。そうに違いない。決してMっ気とか関係ない。
「ぁう……ぁの…………やさしく…………して、ね?」
……意味深っ!?
いやいやいや! ミリィに限ってそれはない!
ミリィには…………すご~くすご~く、優しいタッチで……えぃ。
「ふ………………んっ! ……ぁ、きもち、いい……かも」
ミリィは意外と健康体なようだ。あんなデカい荷車を押しているから肩こりとか酷いかと思ったんだが。……若いからか?
……あ、いや。別にノーマに含むところがあるわけじゃないぞ?
そこそこ強く押しても、ミリィが痛がることはなかった。
「ぁふ……ちょっとだけ、ぃたかった、かも……」
全力で痛がったノーマ他一名に気を遣った発言かもしれんな。
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