四十区の領主、アンブローズ・デミリーと会談してから数時間後、俺たちは四十区の中ほどにデデンと居を構える木こりギルドの本拠地、ギルド長スチュアート・ハビエルの屋敷へと来ていた。
豪華さという点では領主の館に軍配が上がるだろうが、純粋な広さではこちらがややリードしているかもしれない。
ギルド長の館の他に、木材を保管する倉庫や、加工するための工場、それにギルド構成員が寝泊まり出来る簡易寮のようなものまでが併設されている。
街の中央にこれだけの敷地を占有しているあたり、木こりギルドの権力の影響力が窺えるというものだ。
本来であれば、領主の館よりも豪勢で広い建物など存在してはいけないのだろうが、この木こりギルドに関しては例外らしい。
「しかし、ラッキーだったよね。すぐに返事がもらえるなんて」
エステラが上機嫌で言う。
デミリーに紹介状をもらったとはいえ、相手は全区に影響力を持つ木こりギルドの長だ。当然日を改めて出直す必要があると思っていたのだが、俺たちはその日のうちに面会を許可された。
デミリーが「あいつはせっかちなんだ」と笑っていたが、こちらとしては都合がいい。
契約は早くに結んでしまった方が助かるからな。
「話は伺っております。こちらへどうぞ」
ガタイのいい使用人たちに案内され、豪勢な建物の一室に通される。
……木こりギルドだからこんなにガタイがいいのか? こいつも木こりなのだろうか?
そうして通された部屋には、使用人よりも一回り……いや、二回りはガタイのいい大男が待ち構えていた。
「よぉ、よく来たな。ワシが木こりギルドのギルド長、スチュアート・ハビエルだ」
「お目にかかれて光栄です、ミスター・ハビエル」
エステラがあごひげを豪快に蓄えたオッサンに笑みを向けている。
人のよさそうな笑顔を見せるこのオッサンが木こりギルドのギルド長らしい。
さすが木こりギルドの長と言うべきか……上半身の筋肉がすごいことになっている。
怒ったら服がビリビリに破れてしまいそうだ。
「いきなりのお願いでしたのに、こんなに早くお時間を作っていただいて、本当に感謝しております」
「気にするな。仕事は他の連中がやってくれるからな。ギルド長ってのは割かし暇なのさ」
ガハハと豪快に笑う大男。
ハビエルは実に質実剛健な男のようだ。
「アンブローズからの手紙は読ませてもらったぞ。木こりを派遣してほしいそうだな」
ハビエルがデミリーのファーストネームを呼び捨てにする。
領主なのにいいのか、とも思わなくもないが、デミリーが「旧知の仲だ」と言っていた通り本当に仲がいいようだ。まぁ、年齢も近そうだしな。
「えぇ、そうなのです。四十二区に街門を設置し、そこから外の森の最深部へ直接行き来できるようにしたいと思っています」
エステラは、木こりギルドにとってメリットになる部分を強調して説明をしている。
現在、木こりギルドは四十区から外に出て森の中を移動し、活動している、
森の中は魔獣が跋扈し危険だ。それ故に、あまり長居は出来ない。
そのため木こりたちは比較的森の手前……すなわち、四十区の門に近い部分にしか進出していない。
四十二区に門が出来れば、木こりギルドの活動の場は格段に広がる。
おまけに、これから先ほぼ恒久的に大量のおがくずを購入すると言っているのだ。これは木こりギルドにとってもかなりプラスになる商談に違いない。
入門税や誘致に関する条件等でもう少し煮詰めるべき事柄はあるだろうが、契約自体はうまくいくはずだ。
ここから先はエステラの領分だ。俺が口を挟むところではない。
なので、俺はナタリアの隣に立ち、お付きの者に徹している。……デミリーに対する接し方で怒られたところだ。余計なことはすまい。
「うむ。条件も待遇も問題ない。ワシら木こりギルドにとってもいい話のようだな」
「はい。そうなると確信しております」
「美人にこうまで言われちゃ無下には出来ねぇよなぁ」
また、ハビエルがガハハと笑う。
エステラもそれに合わせて笑みを見せる。
これはもう決まったな。
よしよし。これで四十二区に街門が出来、そこへ続く幹線道路が整備され、棚ぼたで陽だまり亭は大繁盛だ。
ようこそ明るい未来!
そしてさようなら、閑古鳥!
――と、その時。
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