異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

20話 新装開店 -3-

公開日時: 2020年10月19日(月) 20:01
文字数:1,999

 さて、マグダを店員として働かせるのは当分先になりそうだが、営業の方は明日からでも始められそうだ。

 いろいろとギルドを回り、食材の確保も出来たし、タイミング的にもいい頃合いだろう。

 

「随分とお待たせしちゃいましたッスけど、その分、納得いくものが出来たッス」

「あぁ。こっちとしても文句なしだ」

 

 ウーマロが右手を差し出してくる。それを握り返し、握手を交わす。

 これで、リフォーム完了だ。

 

「グーズーヤも、今回は気合い入りまくってたッス」

 

 食堂の入り口で、気恥ずかしそうにグーズーヤが頭を掻いている。隣には巨大な馬顔のヤンボルドもいる。

 たった三人でこれだけのリフォームを期日中に完了させるとは……こいつら、マジでプロだ。感服するね。

 

「それじゃあ、お支払の方をお願いするッス。金貨でも銀貨でも、どっちでもいいッスよ」

 

 ウーマロがにこにこと俺に笑みを向ける。

 なので、俺も満面の笑みでそれに応える。

 

「金ならないぞ」

 

 空気が固まる。

 さっきまで賑やかで華やかだった店内が静寂に包まれる。

 

「……………………は?」

 

 ウーマロの笑顔が次第に引き攣っていく。

 カウンターのそばで、ジネットが困り顔で俺を見ている。マグダも、いつもの虚ろな瞳で事の成り行きを見守っている。

 

「あの……なんの、冗談ッスかね?」

「冗談じゃねぇよ。ウチに金なんかない」

「えっと…………」

 

 かりこりと、ウーマロが頭を掻く。

 

「ヤシロさん……約束しましたッスよね?」

「何をだ?」

「………………」

 

 ついに、ウーマロの顔から笑みが消える。

 

「冗談にしちゃ、シャレになってないッスよ?」

 

 細い狐の目が片方だけ開かれ、俺を睨む。

 

「大工にこれだけの仕事をさせておいて、代金踏み倒そうってんッスか? 確かに、最初はこっちが迷惑をかけたッスよ? けど、その話はもうきちんとケリをつけたはずッスよね? なのに……これはアレッスか? 意趣返しッスか?」

 

 ウーマロがカリカリと奥歯を鳴らす。

 

「おいおい、イライラすんなよ」

「ならさっさと払ってほしいッスね、リフォームの代金を!」

「だから、金『は』ない」

「ヤシロさんっ!」

会話記録カンバセーション・レコードの観覧を申請する」

 

 ウーマロが俺に掴みかかろうとするが、その前に会話記録カンバセーション・レコードを呼び出す。

 俺の目の前に半透明の板が出現し、ウーマロと交わした契約内容が文字として明示される。

 

 

『分かった。立て替えの件は了承してもいい』

『ホントッスか!?』

『ただし、条件がある』

『じょ、条件…………ッスか?』

『実はな、この食堂をリフォームしてほしいんだが』

『い、いや、でも…………さすがに、店のリフォームを640Rbと引き換えってのは……』

『さすがに、640Rbでやれなんて言わねぇよ。労働に見合った対価はきっちりと支払う。ただ、少しだけ勉強してくれるとありがたいがな』

『そ、それはもちろん! お安くさせてもらうッス!』

『じゃあ、640Rbは受け取らなくてもいい、よな? ジネット』

『はい!』

 

 ここからはジネットとの会話なので少し飛ばす。画面をスクロールさせてウーマロとの会話で止める。

 

『まぁ、こっちも裕福ではないので最大限オマケしてもらうとして……お前ら全員が一ヶ月間飯の心配をしなくていいようにはしてやるよ』

『一ヶ月っていうと……それが三人分で……………………うん。それくらいいただけるなら十分ッス! 本来のリフォームより破格になるッスけど、このバカがご迷惑おかけした分を差し引いて、その条件で引き受けさせてもらうッス!』

『じゃあ、交渉成立ってことで』

『よろしくお願いするッス!』

 

 会話記録カンバセーション・レコードの内容を、ウーマロと一緒に見返す。

 ウーマロは怪訝な顔をしている。

 あれ?

 気付かないのか?

 

「『金を払う』なんて言ってないだろ?」

「そんなの屁理屈ッスよ!」

「屁理屈でもこじつけでも嘘じゃない。契約に不備はないはずだが?」

「そんな……じゃ、じゃあ、どうやって報酬を払うんッスか!? オイラたち三人が一ヶ月間飯の心配をしなくて……いい…………よう……に…………」

 

 ウーマロの語尾が消えていく。

 どうやら気付いたようだな。

 

「お前たちには『陽だまり亭・本店、一ヶ月間食事フリーパス』を進呈しよう!」

「フ、フリーパス……?」

「だから、一ヶ月間、ここに飯を食いに来いよ」

「そ、そんな……飯なら今だってお昼と夜は用意してもらってるッスし……それじゃあ、現状維持ってことッスか?」

「違うだろ、全然」

 

 不満そうなウーマロに、今回の報酬の素晴らしさを教えてやる。

 

「朝昼晩、三食食える」

「朝飯が増えるだけじゃないッスか……」

「今までは店員用の『まかない食』だったが、今度からは『商品』を提供しよう。特別なお客様として扱ってやるよ。なんなら、新商品が出来る度、いち早く食べさせてやるよ」

「う~ん……」

 

 それでもイマイチ納得していない様子のウーマロ。

 ヤンボルドやグーズーヤも表情が曇っている。

 

「さらに、お客様である以上、当然、ウチの看板娘が食事を運んでくれる」

「え……っ!?」

 

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