異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

249話 『宴』の終わりに -1-

公開日時: 2021年3月26日(金) 20:01
文字数:2,499

 小癪な……いや、小粋なサプライズを仕掛けられ、なんだか調子を狂わされた俺なわけだが、なんというか、こういう敗北感はちょっと悪くない。

 久しぶりに食べたゴリの唐揚げは、女将さんの手料理を思い起こさせるような懐かしい味だった。

 

 俺にこれを食わせるために、ここにいる連中がグルになって準備してたってわけか。

 これで、ちゃんちゃん焼きの急な大人気にも納得がいった。

 

「お前らが準備する時間を稼ぐために、デリアはわざと遊びに出て、一人残された妹を誰もフォローしなかったんだな」

「あの、いえ……それが……」

 

 ジネットが困ったような顔で微笑む。

 ん? 違うのか?

 

「本来なら、もう少し後になってから始める予定だったんだよ」

 

 困り笑顔のジネットに代わり、淡いライムイエローのドレスを身に纏ったエステラが説明を始める。

 ……お前、異様に似合うな。お嬢様みたいだぞ。

 あ、お嬢様なのか。

 

「マーシャとメドラさんの着替えには時間がかかると踏んでいたから先に準備してもらっていてね――」

 

 まぁ、水中とあの筋肉だもんな。ドレスを着るのは難しいだろう。

 

「それで、それが済んで、こっちもいろいろ一区切りつけてから頃合いを見計らって――って作戦だったんだけど……」

 

 嘆息と共に、エステラの視線がデリアへと向かう。

 それにつられるように、他の者たちの視線もデリアへ。

 

「違うんだよ、みんな! あの子がな、他のみんなは上手に竹とんぼ飛ばしてるのに一人だけ全然飛ばなくてさ。なんか泣きそうでな、こう……見てらんなくてさぁ」

 

 懸命に言い訳をするデリア。

 つまり、デリアが飛び出したのは予定外の行動……というか、デリアなりの正義感からの行動だったわけだ。

 店より泣いている子供、か。まぁ、デリアらしいけどさ。

 

「そうしたら、店に一人残された彼女が困り果てて……助けを求めたのが君だったってわけさ」

 

 と、妹を指しながら言うエステラ。

 

 ちゃんちゃん焼きの屋台で泣きべそをかき、現在はビワのタルトの売り子をしている妹は、照れくさそうに頭を搔いていた。

 

「もう。あんたもあんたで、困ったらあたしを呼ぶですよ」

 

 長女であるロレッタが苦言を呈する。

 

「まぁ、困った時に真っ先に浮かんだのが『頼れるお兄ちゃん』の顔だったんだろうねぇ」

「なんか含むところがある言い方だな、エステラ」

「とんでもない。称賛と羨望だけだよ、今の発言に込められていたのは」

 

 どうだか。

 

「……生憎、マグダもロレッタも、その時は他の屋台にいて手が離せなかった」

 

 エステラの言葉を補足するように、マグダがその時の状況を語る。

 じゃあ、あの状況は予想外のことだったと。

 けれど、こいつらのサプライズ作戦は動き出してしまった。それはなぜか。

 

「実は、ヤシロさんがちゃんちゃん焼きかたこ焼き、お好み焼きの屋台に入ったらみなさんでブロックしていただくことになっていまして」

 

 ジネットがちらりと男どもを見やる。

 

「なるほど。それで、お前らの準備がまったく整っていないにもかかわらず、男どもが早とちりして作戦が動き出しちまったわけだな」

「ち、違うんだよ! ヤシロが一人で屋台に入ったらって言われてたから、俺はよぉ!」

「モーマットさんが動いたので、私も仕方なく」

「オォイ、アッスント!? 俺のせいだってのかよ!?」

「いやまぁ……モーマットさんは往々にしてそういう一面がありますので、おかしいなとは思っていたのですが」

「じゃあ、止めろよ!」

「いえいえ。下手なことをして作戦がバレては元も子もないと思いましてね」

 

 責任を押しつけ合うモーマットとアッスント。

 それが伝播して周りでも「俺じゃない」「お前が」「いや、お前が!」と、醜い責任転嫁が始まる。

 

「要するに、バカばっかなんだな、四十二区は」

「身も蓋もねぇな、ヤシロ!?」

「ま、四十区から来たパーシーもアホ全開で乗っかってたけどな」

「ちょっ!? 名指しやめろし、あんちゃん! 違うんですよ、ネフェリーさん! オレは、『あれ、早くね?』って思ってたんスよ、マジで!」

「うん……でも実際、ちょっと早かったよね」

「おかげで、こっちはてんやわんやだったわよ」

「……これだからパーシーは」

「おっちょこちょいタヌキです!」

「ちょっ!? なんで俺のせいになってんだって!? マジありえないんだけど!?」

 

 ネフェリーに加え、パウラやマグダ、ロレッタに非難されるパーシー。

 そして、これ幸いと便乗する四十二区の男ども。

 

「「「「やれやれ、まったくパーシーは……」」」」

「てめぇーらふざけんなし、マジで!」

 

 仲いいよなぁ、四十二区の住民って。

 

「ったく。そのせいでこっちにまで迷惑がかかったんだぞ、オオバ」

 

 腕を組んで、リカルドが口をへの字に曲げている。

 恩着せがましく、これ見よがしに、おのれの身の苦労と功績をひけらかす。

 

「領主の相手をしていたエステラが急に持ち場を離れたから、俺が代わりに相手をしてやってたんだぞ。ま、俺も『BU』とは知らねぇ仲じゃねぇからなんとかなったが、本来なら、招待した領主を蔑ろにするなんてのは非礼を通り越して外交関係がそれで壊れてもおかしくないほどのことなんだぞ。今回だけは、俺のおかげで事なきを得たけどな」

「そうか。ルシア、手間をかけたな」

「なに、気にするな。四十二区を相手にする時はこれくらいのことは想定している」

「ぅおい! 俺を無視すんじゃねぇよ!」

「あれ、いたのかリカルド?」

「いたわ! 三十五区よりも『BU』よりも、なんなら四十区よりも先にいたからな!?」

「え…………暇なの?」

「忙しい中、わざわざ時間を作って来てやったんだよ!」

「……メドラのドレス姿を見にか?」

「誰が見たいか、あんなもん! って、あぁ違う、違うぞ、メドラ! 言葉の綾だからそんなおっかない顔をするな!」

 

 暇でぼっちなリカルドは、誰よりも早く会場に来て、誰にも相手にされなかったから、これ幸いとトラブルに乗じて存在感アピールを試みたらしい。

 けどまぁ、ルシアがいればなんとかなったろうし、そんないうほど必要なかったんだろうけどな。

 

 まぁ、そうやってメドラとじゃれ合っててくれると、俺の負担が減って助かるよ。ありがとうなリカルド。来てくれて嬉しいぜ☆

 じゃ、メドラのことよろしくな。

 

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