異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

挿話14 陽だまり亭のクリスマス -2-

公開日時: 2021年1月6日(水) 20:01
文字数:1,255

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「ヤシロッ!」

「あ、エステラさん。おはようございます」

 

 ボクが厨房に飛び込むと、そこにはジネットちゃんしかいなかった。

 

「あれ? ヤシロは?」

「ヤシロさんでしたら、お部屋に戻られましたよ?」

 

 くっ! 逃げられたか。

 

「それで、大丈夫だった?」

「え? 何がですか?」

「い、いや……だから…………揉み揉…………とにかく、大丈夫だった!?」

「は、はいっ! その……至って健康です」

 

 揉み揉みは断念したのだろうか……ジネットちゃんが無事そうでよかった。

 

「とにかく。この後、教会でも十分気を付けなきゃいけないね」

「あ、ヤシロさんでしたら、今日は教会へは行かれないそうです」

「え? なんで?」

「なんでも、ネフェリーさんに会いに行かなければいけないとかで……」

「ネフェリー!?」

 

 ネフェリーって、あの? 養鶏場の?

 ……まさか、ヤシロが揉み揉みしたいのって…………

 

「ごめん。ちょっと上がらせてもらうよ!」

「え? あ、ど、どうぞ」

 

 ジネットちゃんの許可を得て、ボクは厨房を抜け、中庭を突っ切って、二階へと上がる。

 以前から少し怪しいと思っていたんだ。

 ヤシロがネフェリーを見る目は、他の人に向ける視線と少し違っていたから。

 ……まさか、揉み揉み対象だと見ていたなんて…………そんなに大きくはないのに……あれくらいが好みなのかな?

 いや、そんなことはどうでもいい!

 揉み揉みだなんて、そんな不埒な行為を見過ごすわけにはいかない。

 

「ヤシ……っ!」

「クリスマスに必要なものか…………なかなか難しいよなぁ……」

 

 部屋に突入しようとした時、部屋の中からヤシロの声が聞こえてきた。

 ……くりすます?

 

 ボクはそっとドアに耳を当てる。

 

「プレゼントは用意したからいいとして……っと、見つからないように隠しておかないとな」

 

 プレゼント?

 隠すってことは、知られるとマズい物なのか?

 

「ケーキは作るとして……やっぱネフェリーんとこだよなぁ」

 

 ケーキと、ネフェリー? 

 一体なんの話なんだ?

 

「それから…………恋人」

 

 こいびとっ!?

 

「まさか……ヤシロ…………ネフェリーを恋人に…………」

 

 そして、揉み揉みする気なのか…………っ!?

 

「否っ! これから生まれる新しいクリスマスは、恋人どもに侵食などさせない! させてなるものかっ! 今、日本でイチャイチャしているリア充共! 異世界からこの言葉を贈ろう! 爆発しろ!」

 

 …………?

 ヤシロは一体何を言っているんだろう?

 

「……はぁっはぁっ……爽やかな汗をかいたぜ……清々しい気分だ……はははっ」

 

 ……なんか、楽しそうに笑ってる…………一体、くりすますっていうのはなんなんだい、ヤシロ……

 

「とりあえず、モミに関してはミリィかイメルダだな。ミリィ、また森に連れてってくれないかな……」

 

『揉みに関してはミリィかイメルダ』!?

 ミリィまで対象に入っているのかい!?

 それも森で!?

 

「先にイメルダのところに行ってみるか……まぁ、起きてはないだろうが……時間が無いからな。叩き起こしてやる」

 

 マズい! ヤシロが近付いてくる……!

 どこかに隠れ…………いや。

 イメルダのところへ先回りするんだ!

 

 

 

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