異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

7話 赤い髪の麗人 -1-

公開日時: 2020年10月7日(水) 20:01
文字数:2,192

 教会の談話室に、ジネット特製の朝食が並べられていた。

 学校の教室を一回り小さくしたような造りだが、学校というより幼稚園を思い起こさせる。

 

 教会の中には礼拝堂しかないのかと思っていたのだが、いろいろと部屋があるようだ。まぁ、今まで教会なんか来たことなかったもんな。

 

 礼拝堂は思ったよりも小さく、三十人も入ればいっぱいになりそうなほど小規模だった。

 礼拝堂から廊下を挟んだ隣に談話室があり、二階には子供たちの居住スペースがあるのだという。

 談話室の奥には職務室がある。職員室のようなものだ。その奥にシスターの私室があるとのことだが、もちろん部外者立ち入り禁止だ。……ちっ。

 

 教会には他に作業室と呼ばれるところがあり、そこで日用品などを自作したりもするそうだ。

 庭には畑があり、ジネットの朝食以外は自給自足の生活らしい。周りが農家ばかりだから、技術はそこから学ぶのだろう。

 

 基本的に部外者が立ち入れるのはこの談話室と執務室に礼拝堂。そして、厨房だけだ。

 

「何か手伝うことはないか?」

 

 そんなことを言いながら、ジネットのいる厨房へと足を踏み入れると……

 そこに、イケメンがいた。

 

 は?

 なにこいつ?

 なんでジネットと楽しそうに話とかしてんの?

 

「あ、ヤシロさん」

 

 ジネットが俺に気付いて手を振る。

 と、その向かいにいたイケメンヤロウがこっちをゆっくりと振り返る。

 

「へぇ、君が噂の」

 

 真っ赤な髪の毛に整った目鼻立ち。中性的と表現すればいいのだろうか、ヴィジュアル系のボーカルみたいな顔をしている。髪もちょっと長く、俺が学生だった時代なら「切れ!」と言われる長さだ。

 薄い胸板に細く長い手足。目は少しきついが、普段から笑顔でいることが多いのか顔つきは割と柔らかい。……まぁ、ただ。その微笑みの奥にどんな下心を隠しているのか分かったもんじゃないけどな。

 とりあえずエロそうな顔だ。

 

「話はジネットちゃんから聞いたよ。よろしくね、オオバヤシロ君」

 

 う~わ、ちゃん付けだよ。

 年齢は今の俺と同じか上くらいだろうに……十六を過ぎて女子をちゃん付けで呼ぶ男なんて、八割が遊び人で二割がオネエだ。

 どちらにせよ相容れない人種だ。

 

「ん? どうしたの? ボクの顔に何かついてるかい?」

「エロそうな顔だな」

「初対面で失敬だな、君は」

 

 イケメンヤロウの頬が引き攣る。

 くっそ。引き攣っても美形なのかよ、イケメンは。俺なんか、鏡に向かって顔作っても「なんか違うなぁ」レベルだってのに!

 

「俺はオオバヤシロ。気軽にオオバ様と呼んでくれ」

「気軽な感じが一切しないんだけど……」

 

 やかましい。

 名を呼ばせてもらえるだけでもありがたいと思いやがれ。

 

「ボクはエステラ。姓は、訳あって伏せさせてもらうよ」

「そんな卑猥な苗字なのか?」

「……どうして最初からボクに卑猥なイメージを持っているのかな、君は?」

 

 くっそ、不快感をあらわにしても美形なのかよ、イケメンは。俺なんか、ちょっとイラッてするだけで極道の鉄砲玉呼ばわりされたってのに。……誰が鉄砲玉だ。

 

「エステラさんは、よくこの教会に遊びにいらしてまして、子供たちに大変好かれているんですよ」

 

 ……主に女児に、だろ?

 

「わたしも、いつもよくしていただいて」

「そんなことないよ。普通さ」

「では、普通に優しい方なんですね」

「ははっ。ジネットちゃんには敵わないね」

 

 カーーーーーーーーーーーッ、ペッ!

 

 なんだその爽やかな会話!?

 薄めてないカルピスを飲んだ時よりも喉の奥から粘っこいもんで出てきたわ!

 

「おい、カステラ」

「エステラだ」

 

 きゃ~、顔怖ぁ~い。女の子泣いちゃうぞ~、ぷぷぷ~。

 

「で、そのエス…………なんとか」

「エステラだ!」

「エスティ~ラ」

「なんで発音をよさげに言った!? エステラ!」

「略してエラ」

「略すな!」

 

 ノリのいいイケメンだ。

 あ、あれか、「エステラ君おもしろ~い」って合コン受けを狙ってのことか!?

 なんていやらしい!

 お前らイケメンは黙って酒を飲んでいればいいんだ! 面白さは顔で勝負できないチームの唯一にして最大の武器なんだから、その領域にまで踏み込んできてんじゃねぇよ!

 

「エステラ。お前は王様ゲームを知っているか?」

「いや、聞いたこともないが?」

 

 はっはっはーっ!

 イケメンで王様ゲームを知らないとはな!

 はい! 損してる! お前、人生の半分損してるぅ!

 

「領土の統治や財政をシミュレーションするゲームかな?」

「バカヤロウ、女の子にエッチなことをするゲームだ」

「……それのどこが王様なのかな?」

「王様の命令はゼッタァ~イ!」

「…………君は、王を侮辱しているのか、ただの無知なのか、どっちなんだい?」

 

 エステラがこめかみを押さえて頬を引き攣らせる。

 くっそ、ここまでしても美形なのかよ、イケメンは!

 俺なんかなぁ、突然の腹痛に苦しんで顔を歪めていたら、クラスの女子に「どうしたの面白い顔して?」とか言われたんだからな!? 盲腸だったさ! 思春期最高潮の時期に綺麗な看護師さんに見られたさ! 羨ましいか!?

 

「あ、あの、ヤシロさん? どうされたんですか? なんだか、興奮しているようですが?」

「いや、大丈夫だ……ちなみに、看護師に見られたことを思い出して興奮したわけではないということだけは明言しておくぞ、俺の名誉のためにも」

「看護師?」

 

 ジネットはよく分からないといった顔で小首を傾げる。

 一方のエステラは、少し引いたような顔で俺を見ている。……お前にそんな目で見られるいわれはない。

 

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